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異世界農業譚 〜チートなし大学生、土と汗で成り上がる〜  作者: 済美 凛


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31/78

帰る場所ができた日

朝、田んぼから戻ると、家の前に人影が集まっていた。

 木材の香りと、削り屑の匂いが空気に混じっている。


(……終わった、か)


 胸の奥で、静かに何かがほどけた。



---


 扉の前で、大工の親方が腕を組んで立っていた。


「終わったぞ。

 派手じゃねぇが、長く使える家だ」


「ありがとうございます。

 本当に……」


 言葉が、それ以上続かなかった。



---


 レオンが我慢できずに扉へ駆け寄る。


「入っていい!? もういい!?」


「床、踏み抜くなよー」

親方が笑う。


「大丈夫だって!」


 レオンは勢いよく扉を開けた。



---


 中は、思ったよりも広かった。

 土間と居住スペース、作業用の一角。

 余計な装飾はなく、必要なものだけが揃っている。


「……木の匂い、すごい」


「新しい家だからな」


 リリアンヌは、そっと柱に触れていた。


「温かい……。

 石の館とは、まるで違いますね」


「ここは、暮らすための場所ですから」



---


 窓を開けると、外の風がすっと通り抜けた。

 田んぼの水面が、遠くにきらめいて見える。


(見える距離に、畑がある)


 それだけで、胸が落ち着いた。



---


「耕平さん」


「ん?」


「ここで……

 本当に生活が始まるのですね」


「ええ。

 寝て、食べて、働いて……全部ここです」


 リリアンヌは少し考えてから、微笑んだ。


「……とても、あなたらしい家です」



---


 レオンは家の中を一通り走り回り、最後に叫んだ。


「ここ、俺の席!」


「勝手に決めるな」


「だって、もう家族みたいなもんでしょ!」


 思わず、吹き出してしまった。


「……まあ、否定はしないけどな」



---


 大工たちが帰ったあと、家は急に静かになった。

 風の音と、木がきしむ小さな音だけが残る。


 俺は土間に腰を下ろし、深く息を吐いた。


(ようやく……“借り物”じゃない場所だ)


 異世界に来てから、初めてそう思えた。



---


 リリアンヌが、少し離れたところで言った。


「耕平さん。

 ここが、あなたの“根”になる場所ですね」


「ええ。

 畑と一緒に、ここも育てていきます」


「……素敵な言い方です」



---


 夕方、火を入れると、家の中が柔らかく明るくなった。

 壁に揺れる影が、もう“仮の住まい”ではないことを教えてくれる。


 俺は、ゆっくりと立ち上がった。


「よし。

 ここからは、この家を拠点にやっていこう」


 レオンが元気よく頷き、

 リリアンヌも静かに微笑んだ。



---


 外では、田んぼの水が夕焼けを映している。

 中では、木の家が静かに呼吸していた。


 畑も、田んぼも、

 そして――帰る場所も。


 ようやく、すべてが揃った日だった。



---

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― 新着の感想 ―
まずは第一歩。完成祝いに、神酒と餅を送りたくなっちゃう。
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