水を奪われる土地と、家を持つということ
芽が順調に伸びてきた矢先、畑は急速に乾いていった。昨日までしっとりしていた地面は、朝には白くひび割れている。
桶の水を撒いても、表面だけが一瞬濡れるだけで、すぐに吸い込まれて消えてしまう。
「……昨日、こんなに乾いていましたか?」
リリアンヌが、土に指先をそっと触れた。
「いいえ。
一晩で、持っていかれました」
俺は、深く割れた地面を見つめた。
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レオンは黙ってしゃがみ込み、土を一握りする。
「……水、逃げてる。
下に、すごく下に……」
「水脈があるのか?」
「あると思う。
でも……土が、掴んでない」
その感覚的な言葉にも、妙な説得力があった。
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昼前、ヴァルガスに呼び出される。
嫌な予感しかなかったが、その内容は予想外だった。
「……お前の土地だがな」
「はい?」
「作物を作るなら、寝泊まりも必要だろう。
許可する。そこに“家”を建ててよい」
「……家、ですか?」
「小屋程度で十分だ。勝手に豪邸を建てるなよ」
ヴァルガスは書類を押し付けるように渡してくる。
「これを持っていけ。資材の支給も許可する」
彼なりの現実的判断なのだろう。
だが、胸の奥に何か温かいものが灯った。
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外へ出ると、リリアンヌが小さく息を呑んだ。
「……家、建てていいんですね」
「家って言っても、簡素なものだと思いますけど」
「それでも……“あなたの場所”ですよ」
その言葉が、なぜか胸に響いた。
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土地に戻ると、レオンが駆け寄ってきた。
「家!? 本当に!?
耕平さんの家、建てるの!?」
「まあ……建てろと言われたからな」
「やる!
木、運ぶ! 壁、作る! 穴も掘る!」
「お前、家づくりにそんな情熱あったのか……」
だが、レオンの瞳は本気だった。
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午後から、簡単な区画決めを行った。
畑から離れすぎず、牛舎からも遠くない位置。
風の抜けと日当たりを確かめながら、角を打つ。
「ここが……家の、場所」
リリアンヌが、杭を見つめた。
「あなたが、この世界で生きるための“拠点”なのですね」
「……そうですね」
その瞬間、自分が思っていたより、この場所に執着していることに気づいた。
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だが、畑の問題は消えていない。
家の話が落ち着いたあと、再び土を掘ってみる。
「……乾きが早すぎる」
「水、全部通り抜けてる……」
「このままだと、畑が持たないな」
水を留める仕組みが必要だった。
この土地は“生まれ直した”けれど、まだ“育つ準備”が足りない。
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夕方、赤く染まる土地を前に、俺は改めて決意を口にした。
「……水を掴む土地にする。
そのために、水路を作る」
レオンが頷いた。
「……水、捕まえる」
リリアンヌは、静かに微笑んだ。
「家も、水も……あなたの新しい生活の第一歩ですね」
風が吹き抜け、杭の揺れる音がした。
この場所が、少しだけ“自分の土地”に近づいた気がした。




