輪作の始まり
灰の上に出た小さな芽は、数日でゆっくりと数を増やしていった。荒野だった場所に、わずかながら“緑の列”が生まれる。
俺は畝の間に立ち、芽の高さを確かめながら頷いた。
「……これで、この土地は“次”に進めます」
リリアンヌが、芽を傷つけないように足を運ぶ。
「次、とは……収穫、ですか?」
「いいえ。
“育て続ける”ための仕組みです」
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俺は、地面に棒で簡単な線を引いた。
「この区画は豆。
その隣は麦。
さらにその隣は……何も植えない」
リリアンヌが首をかしげる。
「……何も、ですか?」
「はい。
あえて、です」
レオンが小さく反応した。
「……休ませる?」
「そうだ。
畑にも、休みは必要だ」
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俺は、豆の芽の前にしゃがむ。
「豆は、土に“栄養を足す”役目です。
豆が育ったあと、その土で麦を作る」
「作物が、土を助けるのですか?」
「ええ。
だから、同じ作物ばかりを作らない。
それが“輪作”です」
リリアンヌは、線で区切られた畝を見つめた。
「……作物にも、役割があるのですね」
「人と同じです」
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その日から、畑の使い方は一変した。
ただ植えるのではなく、順番を決めて育てる。
レオンは、豆の区画の世話を任された。朝一番に水をやり、土の匂いを確かめる。
「……今日は、昨日よりいい匂い」
「それは、土が“働いた証拠”だ」
レオンは、少し誇らしげに胸を張った。
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数日後、麦の区画にも、追加で種を入れた。芽吹いたばかりの畝と、これから芽を出す畝が、同じ畑に並ぶ。
リリアンヌが、その様子を見て小さく言う。
「……時間が、畑に積み重なっていくようです」
「ええ。
この畑は、もう“今日だけの場所”じゃありません」
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夕方、三人で畑の端に立った。低い陽射しが、豆の芽と、麦の畝を橙色に染める。
レオンが、ぽつりと呟いた。
「……この畑、
ずっと続く?」
俺は、少しだけ間を置いて答えた。
「続ける。
壊さない限りは」
レオンは、静かに頷いた。
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畑は、まだ小さい。
作物も、まだ弱い。
それでも――
この場所にはもう、“次の季節”が入ってきていた。
荒野は、確かに、時間を持つ土地に変わり始めていた。




