焼き畑という禁断
朝の荒野は、相変わらず色のない景色だった。石と砂と、弱く根を張った雑草。昨日と同じ光景が、今日も広がっている。
俺は畑の中央に立ち、乾いた地面を見下ろした。
「……今日は、次の段階へ進みます」
リリアンヌが、少しだけ身構える。
「次の段階、とは……?」
「この土地を、一度“焼きます”」
その言葉に、空気がぴたりと止まった。
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「や、焼く……のですか?」
リリアンヌの声は、わずかに震えていた。
「はい」
「ですが……火は、土地を壊すものでは……」
彼女は、足元の土から目を離さない。
「確かに、使い方を誤ればそうなります。
でも、今のこの土地は――すでに“止まっている”」
俺はしゃがみこみ、土を指先で崩した。
「腐った草も、古い根も、すべて残ったままです。
このまま上から足しても、下が変わらない」
「……だから、焼くのですか」
「はい。
一度、全部を“終わらせる”ために」
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すると、レオンがそっと土を握りしめた。
「……やっぱり、匂いが弱いんだ。
土が、昨日のまま……ずっと昔のまま」
「昨日のまま、ってどういう意味だ?」
「……うまく言えない。でも……“生き物の匂い”がしない。
土、ぜんぶ寝てるみたい」
俺は、その言葉を一度、胸の中で転がしてから、静かに頷いた。
「レオンはすごいな。
そう、そのとおりだ」
そして、荒野を見渡す。
「だから、火で一度“目を覚まさせる”んだ」
レオンは、ゆっくりと息を吸った。
「……焼いたら、起きる?」
「起きる。
だから、焼く」
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噂を聞きつけた村人たちが、遠巻きに集まり始めていた。
「本当に火をつける気なのか……」
「この乾き具合で……正気か……」
「風向きを見誤ったら、全部燃えるぞ……」
不安と警戒が、低い声になって流れる。
俺は立ち上がり、ゆっくりと頭を下げた。
「風向き、湿り気、逃げ道、すべて確認しています。
広がらせない火にします」
それでも、すぐに信じる者はいない。
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リリアンヌが、そっと俺の袖を掴んだ。
「……本当に、戻れない所まで行ってしまうのですね」
その言葉に、俺は小さく息を吐く。
「はい。
でも、戻れないからこそ――前に進めます」
彼女は、一瞬だけ目を伏せ、それから静かに顔を上げた。
「……分かりました。
私は、ここに残ります」
「ありがとうございます」
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日が傾き、荒野が赤く染まる。風は弱く、湿度も低くない。
焚きつけ用の枯れ草と木片を、あらかじめ決めた線に沿って並べていく。
「……明日、火を入れる」
その言葉は、空気の中に重く残った。
レオンは、荒野の奥を見つめたまま、小さく呟いた。
「……土、きっと、起きる」
その声は、願いではなく、確信のように響いた。
こうして――
荒野は、破壊と再生の境目に立たされた。
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