何も育たない土地
朝の荒野は、昨日と何一つ変わっていなかった。石と砂と、弱々しい枯れ草。夜露に濡れた地面は、少しだけ黒く見える。
俺は鍬を担ぎ、土地の中央に立った。横にはリリアンヌ、少し離れてレオンが立っている。
「……今日から、ここが俺たちの畑だ」
誰に言うでもない宣言だった。
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最初にやったのは、表土を起こす作業だった。石をどけ、根を切り、ひたすら鍬を振る。
だが、数刻も経たないうちに、嫌というほど現実が分かる。
「……まるで、土じゃない」
鍬の先にあるのは、砕けた石と、粉みたいな砂ばかりだった。
「……これじゃ、根が張れませんね」
「ええ。
水も、栄養も、留まらない」
レオンはしゃがみ込み、そっと地面に触れた。
「……冷たい。
生きてない」
その一言が、やけに重く響いた。
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水を引こうと、仮設の溝を掘った。だが、少しの水はすぐに地中に消えていく。
「……吸い込んでるというより、逃げてる感じですね」
「ええ。
底が“土”じゃなく、ほぼ“砂利”です」
種を試しに撒いてみる。麦、豆、そして市場で買った乾燥野菜の種。
三日後。
芽は、ひとつも出なかった。
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五日目の朝。俺は何も言わず、地面を見つめていた。
畝は形だけ残っているが、そこに命の気配はない。
(……水も、栄養も、根も、すべて流されていく)
(この土地は、“育つ前に奪う”)
背後で、リリアンヌが静かに言った。
「……失敗、でしょうか」
「……いいえ」
そう答えたものの、喉の奥が少しだけ詰まった。
「これは、“失敗する土地”だと分かっただけです」
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レオンは、畝の端に座り込み、地面を見つめていた。小さな手で、石をひとつ拾い上げる。
「……この土地、
昔は、火に焼かれてない」
「……どういう意味だ?」
「……匂いが、古いまま。
腐った草も、灰も、ない」
俺は、はっとした。
(……ああ、そうか)
(ここは、“死んでる”んじゃない)
(“生まれ変わったことがない”土だ)
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夕方。今日も、何も変わらない景色が広がっていた。
鍬を地面に突き刺し、俺は空を見上げる。
(このまま耕しても、何も生まれない)
(この土地には、“一度壊す”工程が足りていない)
リリアンヌが、そっと近づいてくる。
「……明日も、やりますか?」
「ええ。
ただし――
“今までと同じやり方”は、終わりです」
「……何を、するのですか?」
俺は、荒野を見渡した。
「……この土地を、
一度“終わらせます”」
その意味を、彼女はすぐには理解できなかった。
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レオンは、俺を見上げて言った。
「……火?」
短いその言葉に、俺はゆっくりと頷いた。
「そうだ。
焼く」
夕焼けの中、三人の影が荒野に伸びる。
何も育たない土地。
何度耕しても、何も残らない土。
だが――
“壊す”という選択肢だけが、まだ残っていた。




