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異世界農業譚 〜チートなし大学生、土と汗で成り上がる〜  作者: 済美 凛


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卑しい土いじり

城の中は、静かすぎるほど静かだった。


 石造りの廊下は足音をやけに反響させ、俺は自分が場違いな存在だと否応なく意識させられる。

 騎士に挟まれながら歩くこの状況も、正直かなり居心地が悪い。


(畑の方が、よっぽど落ち着くんだけどな……)


 重厚な扉の前で、騎士が足を止めた。


「佐倉耕平。

 ヴァルガス様に謁見する」


 扉が、ゆっくりと開く。


 広い謁見の間。

 赤い絨毯。

 左右に並ぶ貴族たち。


 そして――

 奥の玉座に、腕を組んで座っていた男。


 金色の装飾鎧。

 鋭い目つき。

 年齢は四十前後だろうか。


 この男が――

 領主ヴァルガス。


「ほう……これが、例の“賢者”か」


 値踏みするような視線が、頭のてっぺんから足の先まで舐め回す。


「ずいぶんと、みすぼらしいな」


 貴族たちの間から、くすくすと笑い声が漏れた。


(来たな……想定通り)


 俺は、深く一礼した。


「佐倉耕平と申します。

 農業の知識で、コガネ村の手伝いをしておりました」


「農業?」


 ヴァルガスは鼻で笑った。


「つまり、卑しい土いじりというわけか」


 空気が、ぴんと張りつめる。


 思っていたより、胸の奥がざわついた。

 でも、ここで感情を出したら終わりだ。


「はい。

 ですが、その“卑しい土”から、

 人は生きる糧を得ています」


 一瞬、ヴァルガスの目が細くなった。


「口だけは達者らしいな」


 彼は、指を鳴らした。


「ならば、その自慢の知識とやら、

 今すぐ証明してもらおう」


 貴族の一人が、前に出る。


「城の裏の試験農園で育てている作物が、

 原因不明の病に侵されておりまして」


「三日で治せ。

 できなければ――」


 ヴァルガスは、薄く笑った。


「村に課した税を、さらに倍にする」


 背筋が、ぞくりと冷えた。


(人質は、村そのものか……)


 俺は、ゆっくりと息を吸った。


「……分かりました。

 三日で、止めます」


 その言葉に、貴族たちがどよめく。


「本気か?」


「農民風情が、三日で?」


 ヴァルガスは、面白そうに口角を上げた。


「いいだろう。

 見せてもらうぞ、土いじりの奇跡とやらを」


 謁見は、それだけで終わった。


 城の裏へ案内される途中、俺は歯を食いしばった。


(三日で病害対策……

 しかも初見の作物、初見の環境)


 条件は、かなりきつい。


 試験農園に入った瞬間、俺は眉をひそめた。


「……ああ、これは」


 葉に広がる斑点。

 不自然な萎れ方。

 土の表面の白っぽい粉。


(塩類集積+菌性病害の合わせ技か……)


 見た目だけで、だいたいの見当はついた。


「若いの」


 背後から、凛とした声がした。


 振り返ると、そこに立っていたのは――

 淡い金髪の少女。


 貴族の服装。

 だが、その瞳には、周囲の貴族とは違う色があった。


「あなたが、コガネ村の“賢者”ですか?」


「……ただの農学部生です」


 少女は、少しだけ微笑んだ。


「私は、リリアンヌ。

 兄――ヴァルガスの妹です」


 この国で、初めて。

 俺の話を“敵意なし”に聞こうとする人間だった。


「兄は……結果しか見ません。

 ですが私は、“過程”が見たい」


 俺は、畑に目を戻しながら答えた。


「なら、いいところを見せられるかもしれません。

 農業は、時間との戦いですから」


 リリアンヌは、小さく頷いた。


「……期待しています」


 三日間。

 俺の知識と、この世界の現実が、真正面からぶつかる。


 この勝負に負ければ、

 搾られるのは、コガネ村だ。


 俺は、試験農園の土を一握りすくい上げ、静かに呟いた。


「――いいですか、土はただの地面じゃありません。

 これは、生きているんです」


 その言葉を、

 誰が信じるかは分からない。


 だが――

 俺は、必ず証明するつもりだった。


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― 新着の感想 ―
「兄は……結果しか見ません。  ですが私は、“過程”が見たい」 ↑ほんとコレ。結果ばかり追い求めると台無しになるけど、過程を追い求めれば、意外と結果もあとから付いてくるよね
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