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海月が溶けるまで  作者: 寿寧々
第2章
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【この静けさが】

 幸輝と由紀は海月の病室へ向かっていた。白い廊下をしばらく歩く、エレベーターに乗り、また廊下を歩いた。

 「ここだよ」

 幸輝は由紀に言うと、ドアを軽くノックした。

 「どうぞ」

 返された声はいつもと変わらず優しく、そして儚げな雰囲気を纏っている。  

 スライド式のドア開けると、海月が窓から吹き抜ける風に吹かれていた。

 「海月!来たよー」

 由紀が嬉しそうに手を降ると、海月は由紀の姿を見たとたん、ぱあっと目を輝かせた。

 「由紀!久しぶり!元気ー?」

 由紀は、海月のもとへ駆け寄ると、海月の身体を気づかってか優しく抱きしめた。

 「元気だよー、海月は?」

 「私も元気ー」

 2人が笑いあう様子を見て幸輝も自然と笑みがこぼれた。

 「海月、調子はどう?」

 「今日もいいよ」

 「そっか、良かった」

 幸輝は椅子に腰かけたとき、海月の病室のあるものに目が止まった。ミニテーブルの上に昨日までなかった花瓶。

 「なあ、この花…」

 幸輝が呟くと海月が花瓶のことを話し始めた。

 「この花、今日お母さんがお見舞いに来て、そのときに持ってきたものなの。花はピンクのカーネーションとオレンシジウムと青色の桔梗、それからカスミソウなんだって」

 「やっぱりおばさんセンスいいな」 

 幸輝が呟くと、由紀もうんうんと頷いた。

 「ホント海月のお母さんセンスいいよね~」 

 「ふふっ、あとでお母さんにメールしよっと。お母さん、喜ぶだろうなぁ」

 「俺、ちょっとトイレ行ってくる。由紀、海月の話相手してやってくれ」  

 幸輝は席を立つと病室を出ていった。由紀はふらりと窓際にいくと窓ガラスに軽く触れながら呟いた。

 「ここから見える景色、きれいだね。どこまでも続いてる海が見えて…なんか、海月みたい。」

 「なにそれ~?」

 由紀の言葉に海月はクスクスと笑った。

 「そう思ったんだもん。優しくて、儚くて、全てを包み込むような…そんな感じが海月みたいだなって」

 「それって、褒めてるの?」

 海月が悪戯っぽく聞くと由紀が笑顔で答えた。

 「そりゃもちろん!褒めてるよ!」

 そこへ丁度、トイレを済ませた幸輝が帰ってきた。

 「お、幸輝。おかえり~」

 「幸輝。おかえり」 

 由紀と海月がそれぞれ言うと幸輝もただいまと返した。

 「幸輝。そういえば昨日の絵、出来たよ」

 「え?海月昨日、絵描いてたの?私にも見せて見せて!」

 海月の言葉に由紀は興味津々で海月に近寄った。

 「ほら、これ」

 そう言ってスケッチブックを机に広げた。昨日塗りかけだったクラゲはきれいに塗られており、青と紫のグラデーションが美しく、まるで本当に海の中を漂っているようだ。  

 「わぁ、きれい…」

 あまりの美しさに由紀は思わず息を吐いた。     

 「ふふっ。ありがとう、由紀」

 海月は照れたように笑うと、なにか思い付いたようで由紀に尋ねた。

「 由紀。もしこのクラゲ、欲しいならあげようか?」

 「ホント?欲しい!欲しい!」

 「え!由紀だけズルいぞ、俺も欲しい」

 幸輝も欲しかったようで顔をムッとさせた。その顔がまるで子犬のようで、海月はそんな幸輝が可愛くて可愛くて仕方がなかった。  

 「それなら、新しく絵描いてあげる。幸輝のために描いてあげるから機嫌直して?」

 「俺のために?」

 「うん。幸輝のために描いてあげる。なにがいい?」

 「じゃあ、星空!」

 すっかりご機嫌になった幸輝を見て、海月はふふっと笑った。 

 「わかった。星空ね。描けたらあげるからちょっと待っててね」

 由紀は軽く咳払いをすると、少し気まずそうにいい放った。

 「仲がよろしいのは結構ですけど、私も居るんですけどね?」

 

 日も落ちかけてきた頃、幸輝は時計を確認すると出していた課題などを片付け、スクールバッグに入れ始めた。それを見た由紀も、スクールバッグに荷物を入れ始めた。 

 「俺らそろそろ帰るな。また明日な、海月」

 「また来るねー!」

 2人はそう言ってスクールバッグを持ち病室を後にした。

 「うん。明日ね」

 海月は微笑み、軽く手を振った。その直後、海月が背中を丸め、痛みに耐える素振りをしたのを2人は知る由もなかった。


 2人は病院を後にし、帰りのバスの中で話をしていた。 

 「あー久しぶりに海月と話せて楽しかった~」

 「海月とはメールしてたんだろ?」

 「んーまぁ、そうなんだけど…やっぱり直接話したくて…」

 「そうか」

 バスのアナウンスが流れ、停車すると由紀が立ち上がった。

 「私ついたから行くね。バイバ~イ」

 そう言って由紀はバスを降りていった。  

 「海月、今日ちょっと顔色悪かった気がする…大丈夫かな…」

 幸輝がぽつりと呟いたその言葉を、夕方の静けさが呑み込んだのだった。                                   

次回は来週に出す予定です。

読んでくださった方、感想いただけると作者鳴いて喜びます。

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