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海月が溶けるまで  作者: 寿寧々
第1章
1/2

【205の病室にて】

なろう初心者

初投稿です。

不定期投稿なので気長に待っていただけると嬉しいです。

 幸輝(こうき)は乾いた音のする白い廊下を歩いていた。通りすがる人の多くは、看護師や医者、そして患者だ。幸輝は軽く会釈をしながら目的の場所へと向かう。

 白い廊下を歩き、エレベーターに乗り、そしてまた廊下を歩く。幸輝はある場所で立ち止まり、"205"そう書かれた部屋のドアをノックした。

 「どうぞ」

 返されたその声は優しく、儚げだった。

 幸輝はスライド式のドアを開けるとそこには、淡い髪色の少女がベッドから身体を起こし、幸輝を見つめていた。

 幸輝を見つめるその瞳は海を閉じ込めたかの如く、美しい青色で、光を反射して水面のように輝いている。

 「やっほ、幸輝。今日は早いね」

 その少女はこちらに微笑んだ。

 「ああ、今日は早めに終わったんだ。身体は大丈夫?」

 「うん。今日は調子いいの」

 「そっか、良かった」

 そんな会話をしながら、幸輝はベッドの横にある椅子に腰かけた。

 彼女の名前は、海野海月(うみのくらげ)。幸輝と同じ高校に通っている同級生と同時に幸輝の恋人だ。

 幸輝と海月は元々幼なじみで、高1の春から恋仲になっており、海月も元は普通に通っていた。だが、2人が高3に上がって数ヶ月たった頃、海月に病気が見つかった。

 「助かる確率は低いってお医者さんに言われたの。だから、別れよう」

 海月は打ち明けたと同時に別れを切り出した。

 「イヤだ」

 はっきりと幸輝は言った。

 「えっなんで…」

 「たとえ海月が病気だったとしても、俺はお前と別れる気はない。だって…昔からずっと好きだったんだから」 

 さらに幸輝は続けた。

 「海月が俺のことを思って言ってるのは分かってる。でも、俺は別れたくない。それに助かる確率が低いってだけで、助からない訳じゃない。だから、俺と一緒にいてくれ」

 「もう…幸輝は昔から変わらないね」

 海月は涙を浮かべながら微笑んだ。

 その後海月が入院してからというもの、幸輝は学校終わりに毎日お見舞いへ行っているのだ。

 「相変わらず海月は絵上手いなぁ」

 幸輝は机に開かれたスケッチブックを見て呟いた。

 スケッチブックにはクラゲが書かれており、塗りかけだが青と紫のグラデーションになっている。となりには数本の色鉛筆が置かれていた。

 「幸輝は絵苦手だもんね」

 「マジで俺、絵が壊滅的だからなぁ」

 幸輝はスケッチブックを眺めながら海月に尋ねた。

 「グラデーション綺麗だな、これクラゲか?」

 「うん。名前が一緒だから親近感沸くの」

 「確かに、名前おんなじだな」

 「幸輝、知ってる?クラゲって死ぬと海に溶けるんだって」

 海月はスケッチブックを撫でながら言った。

 「死ぬと溶ける…なんか悲しいな。でも、すごく幻想的だ」

 「そうね。とっても幻想的」

 それから学校のこと、勉強のことなど他愛もない会話をしているとあっという間に時間が過ぎ、夕暮れ時。

 「幸輝、時間大丈夫?」

 海月に聞かれ時計を確認すると5時を指していた。

 「うわっもうこんな時間!?海月と話してると楽しくて時間忘れちまう…」

 「ふふっ幸輝。また明日ね」

 「ああ、また明日!」

 幸輝は急いでスクールバッグを持つと駆けていった。海月の病室の窓から初夏の風が吹き抜けた。


 翌日の朝、登校した幸輝は下駄箱で靴を履き替えていると、友人の(りょう)が声をかけてきた。

 「よっ幸輝。相変わらず早いな」

 「おはよ、そういうお前は今日早いんだな」

 「今日は早く起きれたからな!」

 「お前は遅刻ギリギリに来すぎだ!」

 「間に合ってんだからいいだろ~」

 そんな会話をしながら教室に入る。すでに教室にはざっと数十人おり、2人は席に着きスクールバッグから教科書やペンケースを取り出しながらまた話し始めた。

 「幸輝。お前、今日の昼飯どうする?」

 「今日も購買かな。あそこのパン美味いんだよな~」

 「わかるわー俺も購買にしようかな…」

 続々と生徒が入ってくる中ふと幸輝の名前が呼ばれ見ると海月の友達、由紀(ゆき)が軽く手を振っていた。

 「おー由紀じゃん!」

 「椋、幸輝おはよー」

 「ねぇ幸輝。今日も海月のお見舞い行くんでしょ?私も着いていっていい?」  

 「ああ、いいぞ。海月も喜ぶ」

 「やったぁ!サンキュ幸輝!」

 その後すぐに先生が来るとホームルームが始まった。

 校門の前、椋と別れた幸輝と由紀は、海月の入院している病院へと向かう。

 「もうそろそろ夏だね~」

 由紀が呟くと幸輝も頷く。

 「ホント、最近マジで暑くなってきたよな~」

 そんな会話をしながらバスを待つ。

 しばらくするとバスが到着し、2人はバスに乗り込むと、病院前のバス停まで向かった。

 ―そういえば、海月と仲良くなったのもこのくらいの時期だったな―

 由紀はバスの窓から景色を眺めつつ、海月との出会いを思い出すのだった。


 それは高1の頃へと遡る。由紀は高校にも慣れ、楽しい毎日を送っていた。

 (あの子可愛いなぁ、どうしていつも1人なんだろう)

 友達と話している時、ふと目に止まった。

 東雲色の髪でおさげ。目は海のように綺麗な青色。

 "仲良くなりたい"そう思ったのがきっかけだった。          

 「ねぇねぇ、何の絵書いてるの?」

 休み時間、思いきって話しかけると海月は少し驚いたような、でもどこか嬉しそうな顔をして言った。

 「ポメラニアン、書いてるの」

 「ポメラニアンか~可愛いよね、好きなの?」

 由紀が尋ねると海月はこくりと頷いた。

 「うん、家でも飼ってる性別は女の子」

 「飼ってるんだ~名前は?」

 「きなこっていうの」

 「へ~きなこちゃんっていうんだ~可愛いね」

 それが最初の会話だった、由紀は仲良くなりたくて、沢山話しかけた。はじめはあまり話さなかった海月だったが、しだいに心を開き少しずつだったが話すようになった。それが由紀はすごく嬉しく、さらに話しかけるようになった。

 それから由紀と海月は休み時間にはいつも話すようになった。きなこの名前の由来や、好きなもの、さまざまなことを話した。 

 ある日の休み時間、由紀は思い出したかのように海月に尋ねた。

 「そういえば、海月って休み時間いつも1人だったじゃん?なんでいつも1人だったの?」

 海月は苦笑いを浮かべながら話し始めた。

 「私、話しかけるの苦手で、友達作ろうと思っても、いつも失敗しちゃうから、話しかけなくなったの。小中の時の友達は、向こうから話しかけてくれて、仲良くなった子達で…だから、由紀が話しかけてくれた時、すごく嬉しかった…」

 海月は照れたように笑った。

 「海月はみんなから愛されてるねぇ」

 「そうかなぁ」

 「そうだよ!だって、私もそのうちの1人だもん!」  

 由紀は後ろから海月に抱き付いた。

 あの時、思いきって話しかけて良かったなと由紀は思うのだった。 


 「着いたぞ」

 幸輝に言われ、バスを降りるとすぐ目の前に病院があった。2人は院内に入ると、海月が入院している205号室へと向かうのだった。 

次回は来週辺りに出す予定です。

読んでくださった方、感想をいただけると泣いて喜びます。

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― 新着の感想 ―
きっと主人公の海月も、海の海月と同じように溶けてしまうのかなと思えてしかたない。 だとしても、溶けるかもしれない事を受け入れた海月が、どのような生を残すのか?残されるかもしれない彼と友達に何を残すのか…
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