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それぞれの道 公爵セオドリク・ウィルターン⑦

 俺は広場で民衆達に混じりイヴァンナの最期の姿を見守った。


『貴方がシルベールと私への復讐のためだけに生きておられる様な気がして…』


 その通りだった。


 彼女の言った通り、アルテーシアとエリスを失ってからの俺は、2人の仇を取る…ただその為だけに生きて来たのだ。


「ふっ。まさかその仇であるはずのイヴァンナにまで心配されるとはな」


 俺は自分が情けなくて苦笑いを浮かべた。


 実際俺はほんの少し前まで、自分の生きる糧を失っていたのだ。


 シルベールとイヴァンナの悪事が暴かれ、彼らの処刑が決まったと言うのに、俺の心に過ったのは決して達成感や喜びなどでは無く、ただ虚しさだけだった。


 例えあの2人が罰を受け処刑されたとしても、もう2度とアルテーシアもエリスも、俺に笑いかけてくれる事はない。


 それに2人が処刑されたあとに自分のすべき事が、俺には何一つ思い浮かばなかった。


 だから俺は決めた。


 何も思い浮かばないのなら、いっそ何もしなくても良いのではないかと。


 俺はこれから先の人生、ただアルテーシアとエリスが眠るこの国で、2人の冥福を祈りながら生きてみようと思った。


 俺は爵位を従兄に譲る事にした。もとより国を長期に渡って留守にするのだ。ロマーナに渡るにあたり、領主としての権限を全て従兄に委譲していた。彼は立派に領地を守ってくれている。こんな空っぽで何もない俺より、彼の方が余程領主に相応しい。


 そう思った。


 だが、爵位を正式に従兄に譲るには、当然の事ながら王家からの正式な了承が必要だ。


 俺はシルヴィア様に自分の今の気持ちを認めた手紙を書いた。


 ところがだ。


 それから暫くして、俺は宰相アルドベリクから、王太后ミカエラ様の住む別邸に呼び出された。


 俺が別邸に赴くと、応接室へと案内され、そこにいたのはジルハイムにいるはずのシルヴィア様だった。


 何故シルヴィア様がロマーナに…?


 俺は自分の目を疑い、呆然と立ち尽くした。


 するとシルヴィア様は


「そんなところに突っ立って無いで座りなさいな」


 俺にそう声を掛けた。


 俺はシルヴィア様に促されるままソファーに腰掛けた。


 俺の向かいの席にはシルヴィア様、その隣にはミカエラ様、そして1番下座になる俺の隣にはアルドベリクが腰掛けていた。


 彼は俺の顔を一瞥すると、気まずそうに目を逸らした。


 俺が席に着くのを待ち構えていたかの様に、部屋の隅に控えていた侍女が俺たちの前に茶を置いた。


 そして茶を4人分出し終えるとその侍女は一礼し、部屋を出て行った。


 部屋には俺たち4人だけが残った。


「今日はね、貴方達2人にどうしても頼みたい事があって此処まで来たのよ」


 シルヴィア様が話を切り出した。


「ところで貴方達、揃いも揃ってその若さで、まるで世捨て人の様ね…。貴方達がそんな事では、亡くなった貴方達の大切な人たちは、あの世でさぞ心配しているでしょう……」


 そう言った彼女の声音には、俺たちの行く末を案じる様な……そんな暖かさが感じられた。


 隣に座るアルドベリクも同じ様に感じたのだろう。


「ですが、私は側にいながら、アルテーシア様もエリスも守る事が出来なかった情けない男なのです。そんな私がこれ以上、国の中枢にいて良いはずがありません。それにパトリシアの墓もエリスの墓もこの王都にあります。私はこの地で2人の墓を守りながら生きていきたい。そう思ったんです」


 アルドベリクは縋る様にシルヴィア様にそう告げた。


 その言葉を聞いてハッとした。この時の彼の言葉がそっくりそのまま俺がシルヴィア様に書いた手紙の内容と同じだったからだ。

 

 俺はアルドベリクに視線を向けた。


 話から察するに、恐らくアルドベリクもまた俺と同じように、全ての職を辞する考えなのだろう。


 彼はロマーナの宰相と言う立場にも関わらず、我が国にアルテーシアとエリスの死の真相を知らせた。そんな事をすればこの国がどうなるのか分かっていながらだ。


 宰相と言う役職にある彼にとって、それがどれ程重い決断だったのか、想像に難くない。


 彼もまた、俺と同じ様にシルベールとイヴァンナ……この2人に復讐する為にその身を捧げると、心に決めて行動に移したのだろう。


 だからだろうか。シルヴィア様はアルドベリクに悲し気な笑みを浮かべた。


「さっき私が貴方達に告げた言葉はね、シリウスが私に掛けた言葉なの。私も貴方達と同じ様に自分を責めたの。立ち直れなかった。だってそうでしょう? 私はあの子に許されない事をした。あの子の愛するセオドリク、貴方と引き離し、兄の犯した過ちのツケを、娘のあの子に取らせようとした鬼の様な母親なのよ?私は娘の幸せを犠牲にしてまでも、祖国の王家の血を守ろうとした愚かな母親なの。そのせいでアルテーシアは亡くなった。しかもあんな残酷な死に方で……。でもね、そんな私にシリウスが…まだ幼いとずっと思っていたあの子が言ったの。『今の母上を天国にいる姉上が見たら、きっとその身を案じられている事でしょう』と…」


 シルヴィア様はそう言って瞳に涙を浮かべた。


「そしてこうも言ったわ。『私が姉上の意志を引き継ぎます。ロマーナ王家の血は私が守ります。だから、母上は私が立派に役目を果たせる様、見守っていて下さい。』と…。私はシリウスのその言葉を聞いて思った。この子にまでアルテーシアと同じ轍は踏ませてはならない。あの子はね、まだ16になったばかりなの。それなのにアルテーシアに代わってロマーナを守ろうとしているの。だからお願い。貴方達がこの王都に留まると言うのなら、あの子の支えになってあげて欲しいの……」


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