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国王ジュリアス②

「……なっ! どう言う意味だ!?」


 俺が問うと、アルドベリクは悔しそうに両手を握り締めた。


「私は何度も申しあげたはずです。側妃を…イヴァンナ様を王宮に召しあげてはならぬと…。父王様が何故イヴァンナ様との婚約を解消し、隣国の王女であるアルテーシア様をお迎えになったのか…。その意図を汲み取って頂きたいと…。シルベールは王宮内で力を持ち過ぎた。このままでは国はシルベールの思いのままになってしまう。だからこれ以上シルベールがこれ以上力を持たぬ様にとイヴァンナ様との婚約を解消し、アルテーシア様をお迎えになったのてす。ですがエラルド陛下亡き後、陛下は私の進言など聞き届けては下さらなかった。貴方はイヴァンナ様を側妃へと迎え入れ、その結果、アルテーシア様は亡くなった…」


「ちょっと待て。お前の話を聞いていると、まるで王妃が亡くなったのはイヴァンナを俺が側妃に召し上げたせいだと言っている様に聞こえるが…?」


「ええ。そう言っております」


 アルドベリクはそう言って頷くと、今度は侍女長に向かって問いかけた。


「王妃様が亡くなったのだ。分かっているとは思うが、王妃様は隣国ジルハイムの王女。相手を庇い立てすればお前は間違いなく極刑に問われる事になる。それだけではない。お前の家族や親族にも類が及ぶだろう。よく考えて正直に答えよ。このパンを王妃様のもとへと運ぶ様、お前に命じたのは誰だ?」


「……イヴァンナ様…です…」 


 侍女長はアルドベリクの問いに震えながら答えた。


「…イヴァンナ…」


 侍女長の答えを聞いた俺は愕然とした。


 ではイヴァンナが王妃に嫌がらせをし、その結果、王妃の命まで奪う事になったと言うのか…。


「わ…私は何度もイヴァンナ様に申し上げたのです! 王妃様はエリスが……王妃様の侍女が亡くなってからと言うもの、殆ど何も召し上がってはおられませんでした! ですから……こんな事を続けていては、王妃様はいずれ死んでしまわれると! でもイヴァンナ様は私の言うことなど全くお聞き届けにならなかったのです! お腹が減れば必ず食べるわとそう仰って……」


 侍女長はガタガタと震えながらそう語った。涙を流しながら、途切れ途切れに話すその姿からは、彼女が嘘を吐いている様にはとても見えなかった。


 何と言う事だ…。俺は息を飲んだ。


 イヴァンナはこの国の筆頭公爵シルベールの養女で俺の婚約者だった。何故シルベールが彼女を養女として引き取ったのかと問われると、それは俺自身が彼女を望んだからに他ならない。と言うのも、彼女の母親は俺の母の妹だ。そう……。イヴァンナもまた俺の従兄妹だったのだ。そのせいか彼女は俺の思い出に残る母の容姿によく似ていた。幼い頃に母を亡くした俺は、イヴァンナに母の面影を求めた。だが、母の妹の嫁ぎ先は子爵家。とても俺に輿入れ出来るような身分ではなかった。だからシルベールが彼女を養女として引き取り俺の婚約者に据えたのだ。


 ところが今から5年前、国に大規模な地震災害が起こり、叔母シルヴィアの嫁ぎ先であった隣国が救いの手を差し伸べてくれた。だが、今から2年前、隣国は突如その支援と引き換えに、イヴァンナとの婚約を解消し叔母の娘であるアルテーシアを娶るよう持ち掛けてきたのだ。


 俺は正直、訳が分からなかった。何故隣国は地震から3年も経って、いきなりそんな話を持ちかけてきたのか…?


 だが、支援を受けている側の我が国に選択肢など存在しない。俺にはアルテーシアを妻として娶る以外の道は残されてはいなかった。


 俺とイヴァンナの婚約は解消され、その結果、イヴァンナは突然の天災により愛する婚約者との仲を引き裂かれた悲劇の公女と呼ばれ、民達から同情されるようになった。


 いや、俺でさえ、自分の事を政略結婚の犠牲者だと思っていた。だが今から考えればアルドベリクの言う通りだったのかも知れない。


 もしかしたらアルテーシアとの婚姻も、父が望み叔母がそれに応じたものだったのかも知れない。


 だがあの頃の俺はそんな事に気付きもしなかった。いくら隣国から支援を受けたと言っても、叔母の嫁ぎ先だ。何故、更に従兄妹とまで縁を繋がなければならないのか……。そう思っていた。


 それに、俺との婚約が解消されれば、俺の妻となる為に公爵家に引き取られたイヴァンナは居場所を失う事になる。だから、俺は反対していた父が亡くなると、アルテーシアとの間に1年子が成せなかった事もあり、イヴァンナを側妃として娶ったのだ。


 元々、イヴァンナは俺が婚約者にと望んだ女性だ。


 イヴァンナを側妃とした俺は、当然の事の様にイヴァンナを寵愛し、正妃であるアルテーシアを気遣う事さえ忘れていた。


 ただ月に1度か2度、彼女と閨を共にすればそれで自分の役目は果たしているとばかり、彼女に満足に会う事すらしなくなったのだ。


 王妃だって、俺にとっては大切な従兄妹だったと言うのに…。


 然もその月に1度か2度の王妃との逢瀬でさえ、イヴァンナからは辞めて欲しいと涙ながらに訴えられていた。


 俺はそれを彼女の嫉妬だと思い、そんな彼女を可愛いとさえ思っていたのだ。


 その結果がこの王妃の死だとしたら……。


 俺はこの時漸く、イヴァンナに潜む彼女の裏の顔を垣間見た気がした。


 しかし彼女が王妃にした事は嫉妬や嫌がらせなどと言った、そんな生優しいものではなかった。


 アルドベリクは言った。


「陛下は側妃様の事を何も分かっては居られないのです。彼女はとても狡猾で恐ろしい人です。今からそれを証明致しましょう。貴方は守るべき相手を間違えたのです」


 


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