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青年セオドリク②

「もうじき他の手伝い達が来る。ここじゃあ、ゆっくり話も出来ない。だからさ、お前、今日の炊き出しが終わったら、俺ん家来ない?」


 そう誘った俺を、カイザードことカイルは、探るような瞳で見つめた。余程警戒されているのか距離を取られている。


 まぁ、そうだよな。いきなり小枝とはいえ襲われそうになった挙句、隠しているはずの本名で呼ばれお前の復讐を手伝ってやるなんて持ちかけられたら、警戒するのも当然だろう。


 俺は彼に向かって手を翳しながら、自分でも信じられない位下手に出た。


 今はまだ騒ぎは起こしたくないからな。


「ああ……。そんな顔すんなよ。でもさ、考えてもみろよ? お前、俺の事が気にならないか? それにさ、お前、騎士だろう? 今も鍛えてるんだろう? いや、さっきの咄嗟の動きと、その体についた筋肉を見れば分かるさ。だったら、もし俺がお前に危害を加えると思ったら俺を倒して逃げれば良いだけだろ?」


 すると、カイルからの返事を聞く間もなく別の手伝いの男がやってきた。


「あれ? 2人とも偉い深刻な顔して何かあったのか?」


 男が俺たちを見て問いかける。


「いや、何でもないんだ。ただ人参の切り方について、カイルと語り合っていたんだ」


 俺が苦し紛れにそう答えると、男は苦笑いを浮かべながら、「なんだそれ。仕事熱心だなぁ。野菜なんて煮込んでしまえばそんな変わんないよ。そんな事で言い争うなんて、お前たちどうかしているぞ」と俺たちを宥めるように諭した。


 良いやつだ。だが、俺のそんな言葉を素直に信じるなんて……お前の方こそどうかしていると思うのは俺だけか?


 だがお陰で場の空気が和んだのもまた事実……。


 そんな彼に苦笑いしながら、俺とカイルの話しはそこで中断を余儀なくされた。


 その後、炊き出しが終わって片付けを済ました後、他の手伝い達が帰って行く中、カイルは俺を待っていた。


「へぇ、話す気になったんだ」


 笑いながら声を掛けた俺を、彼は睨みつけながら答えた。


「見つかった以上、逃げても仕方無いんで…」


 見つかった以上……?


 はて? 彼は何が言いたいのだろう……。


 そうは思ったが、兎に角カイルと話がしたかった俺は、彼を連れて自分の借りている部屋へと戻った。


「………」


 カイルを連れ帰ったは良いが、何からどう話して良いのか分からない。彼も自分から進んで話そうとはしなかった。


 部屋が沈黙に包まれた。緊張しているのか喉が渇いた俺は、潤す為に茶を入れた。


 彼の前にも、茶を差し出すと彼は徐に顔を歪めた。


 ああ……。茶に薬でも入れられているんじゃ無いかと警戒しているんだ……。


 彼のその様子を見て直ぐに分かった。


 つまり、そう言う体験をしてきたって事だろう。


 そう察した俺は意を決してカイルに話しかけた。


「俺はさ、正直お前はもう殺されていると思っていたよ」


 俺のこの言葉を聞いたカイルは驚いた様に目を見開いた。


 俺は話を続ける。


「だけどさ、お前とイーニアの事を探る内に、お前によく似た人物を見たって言う男を見つけた。お前の目の色は特徴があるからな。但しそいつは、お前の髪の色がブロンドでは無く、ブラウンだったって言うんだよ。だから人違いだと思ったって……。髪、染めてるんだな。そりゃそうだよな? ブロンドの髪は目立つもんな……。なぁ、教えてくれよ。イーニア・ロレット。お前の恋人だったんだろう?」


 ブロンドの美しい髪は貴族に多い。つまりは少数派だ。彼もまた、見事な金色の髪をしていると聞いていた。反して、国民の大半を占める平民達はブラウン系の髪色をしている者が多い。街に溶け込む為に彼は髪を染めたのだろう……。つまり彼はイーニアの死後、その身を隠しながら生きて来たって事だ。


「………」


 だが彼は警戒しているのか、俺の問いに何も答えない。


 俺は更に話を続けた。


「でも俺は…いや、俺の主人と言った方が正しいかな? 彼女はその証言にかけた。お前は必ず生きている。彼女はそう信じた。そしてお前を探し出すよう俺に命じた」


「……彼女?」


 彼はやっと重い口を開いた。


「ああ……。彼女は大切な娘と弟、弟の妻そして姪、甥……みんなシルベールに殺された」


「まさか……」


 カイルは絶句した。


「俺は……俺は、お前と同じだ。愛する人と妹を……あいつらに殺された……」


 俺は拳を握りしめた。


「あいつら?」


「ああ、シルベールと側妃イヴァンナ。お前の愛するイーニアの妹が産んだ娘だよ。知っているだろう? あの娘は今、シルベールと手を結び、至福を肥やしていやがる。頼む。お前とイーニアの間に一体何があったんだ? お前達は昔、一緒に暮らしていたんだろう? なぁ、お前の知っている事、全て教えてくれないか?」


 俺の頬を知らず知らずのうちに涙が伝った。


 アルテーシアとエリスが死んで既に半年近い月日が流れた。


 それでもまだ俺は、全くと言って良い程2人の死を受け入れられてはいなかった。


 今でも2人を思うとこうして涙が出てくる。


「すまない……。男の癖にみっとも無いよな」


 そう言って涙を拭いながら、俺は作り笑いを浮かべた。そんな俺にカイルは首を振った。


「男とか、女とか……そんな事は関係ないです。イーニアが亡くなったと知った時、俺も泣きました。好きな女一人守れず、俺は何の為に騎士になったんだろうって……。ですが俺は何も知らない……知らないんです。ある日突然、薬の様な物を嗅がされ意識が遠のいた。気がついたら俺は小屋の中に寝かされていた……」


「小屋の中……?」


「ええ、そうです。俺は何も知らされないまま、長い間ずっと森の奥にある小屋に閉じ込められて見張りをつけられていました。見張りは常に複数人いて、俺は逃げ出せずにいました。ただ生かされている……そんな生活が何年か続いた後、俺はまた何か薬の様な物を嗅がされ、今度は森の奥に置き去りにされました。森には野犬や獣が沢山いた。貴方の言った通り、あいつらは俺を誰にも見つからない様に殺そうとしたのだと……そう思います。俺がそこにいた。その痕跡さえ残さない様に……」


 彼もそう言って、その瞳を涙で濡らした。


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