悲しみと怒りの矛先
1日泣こうと心に決めたはずだったが気が付くと3日たっていた。
この3日に家族の心配もかけた、と思う。
当たり前だが長女が1年前に階段から転落、違う人格になり、また1年で再度元の人格に戻ったとたん数日して急に引きこもるという、この数日を客観視するとひどい状態だ。
時折お母様や、お父様、果てまではクリストフまでこの部屋を訪問してくれた。
ありがたいが、この3日間は余裕がない状態なので、会話もあまり覚えていないが元気つけようとしてくれたのだと思う。
でも家族にちゃんと愛されていると思えてうれしい気持ちがあった。
私を見てくれていると感じられたから。
そうして、私はこんなにロイド様のことが好きだったのだなと、遅まきながら3日目にして再度確認した。
その結果、私は今度も面と向かってロイド様に婚約破棄といわれてない、という希望にすがろうと思った。
そもそも、現在私が婚約者なのだ。なんなの、予言の婚約発表とは!まず、婚約破棄からでしょうが!とどこに怒ればいいのかわからない感情がわいてきた。
と、その日のこと。
ロイド様から城でもパーティのドレスが届いた。
私の記憶にない一年間で採寸やデザインをロイド様や家族と決めていたようだ。
ロイド様の瞳の色のドレスで銀の刺繡とパールが裾にちりばめられていて本当に美しい。
膝からつま先までのドレスのラインにたっぷりレースを使われており、ウエストからのレースも相まって動くたびにひらひら優雅で、でもすこしかわいく作られていた。
肩は出しており少しセクシーな印象もある。
胸元に飾るは少し大ぶりな青の宝石で、両ピアスとセットで存在感を出していた。
すごく、ロイド様の色なのですけども。
え、私失恋したと思っているのですが。3日間泣きはらしたのですが。
なんだかどうしていいかわからない。吹っ切れたはずなのにまたうじうじと考えてしまいそう。
だが、添えられていた手紙の内容は忙しく、パーティ当日まで会うことができなくすまないと思う、また、パーティは楽しみにしているのでぜひエスコートを任せてほしいとのことだった。
婚約者なので、エスコートはロイド様となるのが常識ではあるし、とくには問題ないのだけれども。
家族もよかったね!という雰囲気。決して婚約破棄になるような感じではない。
ぐぐぐ、ううん。
もう、振り切ったので考えないことにする。
じゃないとまた、悲しみの思考に落ちてしまうから。そうなると動けなくなるから。
そのあとは、少し忙しく過ごす。
ここ数日休んでいた教育も再開してもらい、勉強しなおしていく。
【さく様】は教育関係の勉強はあまり得意ではなかったようで、一度勉強やマナーの進行具合は後退していたようだが、1年ぶりとは言え私も伯爵令嬢なので、頑張り元の状態まで戻した。
再度、パーティに参加するだろう貴族をピックアップして頭に入れることもしていった。
挨拶は人間関係の基本なので、ちゃんとしないといけない。
そんな忙しく、充実した日々を送っていたらパーティ当日がやってきた。
ロイド様からの手紙に合った通り、本当にロイド様は忙しいようで、会うことが今日までできなかった。
できるだけ忙しくしていたので、あまりうじうじと考えなくて済んだように思うがさすがにパーティが近づくにつれ、緊張というか心沈みがちになる。
私はぐじぐじする時間が必要だが、気持ちの切り替えがきっちりする人間だと思っていたのに。
【さく様】のこともいつの間にか気にならなくなっていたのに。
っと、また考えそうになるため頭を振ると、マリーに怒られた。
そうでした、今はパーティ前のヘアメイク中でした。
「フェミリア様、動かないでください。危ないですし、今日は久々にお会いできるのでしょう?とびっきり綺麗でいなくては!」
マリーもすごく張り切っている。怖いぐらいに。
そうしているとグレイドリ公爵の馬車が到着したようだ。ロイド様だ。
すごくどきどきする。本当にこの先のことを考えてしまうと怖くて、指先が震える。
私の両親と弟に挨拶をするロイド様に声が聞こえるので、私もマリーに促されてエントランスにいるロイド様のほうへ足を踏み出した。