やっと知った事柄
そうした後に、ロイド様はこちらの近くに来て私の両手をとり、近距離で目を合わす。
キラキラの瞳のアイスブルーがとてもきれい。
少しうっとりとする。
「フェミリア?フェミリアだよね?」
「はい、フェミリアです。」
「そう、フェミリアだ。やっと会えた。」
そして私の片手を取ったまま立つように誘導されて、ぎゅっと抱擁してくれるロイド様
驚いた、でもロイド様の腕に包まれて私の胸がどきどきして、とても顔が熱くなる。
ロイド様は騎士なので体つきはとてもがっしりしていて、私と違う体つきをますます意識してしまい、この自分の両手をどこにおっていけばいいか、わからない。
そしてますます顔が熱い。こんなにあついのだから私は今全身が真っ赤だろう。
「よかった」
「やっとあえた」
そんな風に何度か繰り返すロイド様。
少し、もやもやした気持ちになる。
何かこの1年間であったのだろうか?私にない記憶の中でロイド様と何か思い出ができたのだろうか?
ロイド様は優しいが、よくしゃべったり、私に対してこういう行動に出ることは今までなかったように思うのに。
少しすると私を離してしてくれた。でも名残惜しそうに私の片手をもち横のソファに座る。
「すまない、いやだった?」
「いい、いえ、いやだなんて。前からロイド様にされて嫌なことは何もありませんの」
といった後に、喧嘩したことを思い出した。
そう、聖女様との仲を疑い私が感情的に問いただしたこと。
「あ、でもやはり一つだけ。聖女様のことは、、、いやです」
きっぱりと声に出し再度いう。
そんなことはしていない、そんな仲になったことは一度もないといってくれたが、うわさの声が大きくなり、私も我慢できなくなったので。
そう、言うとロイド様はまた私の両手を拾いロイド様の口元に持っていきキスをする。
「聖女さまとそんなことは一度もないよ、私が大切なのはフェミリアだけだ。」
と優しい目つきと行動で示してくれた。
こんな、ロイド様にわかりやすく好意を出してくれたことなど一度もなかったので、照れてしまう。また顔が熱くなる。
今までは私たちの身長差もあり、目があうことも少なかったし、ロイド様は無口な方で、ましてや私を抱きしめることなんてこと今までなかったのに。
うれしいけど、困ってしまう。
「なぜ?そんな前までこのようなことされてなかった」
ぽつりと疑問を言葉に出してしまうと、ロイド様はそのまま私を見つめて言葉を紡いでくれた。
「君が階段から転落して君ではなくなってからすごく思い知らされたんだ。君が、フェミリアが大切なことを。どうしようもなくなって気づく私が愚かだった。でも、また君が帰ってきてくれた。」
私が私でなくなった?記憶がない私のこと?
「私は言葉を重ねることが苦手だったが、そんな私の横でニコニコしてくれている君が愛しいと前から思っていたんだ。そうして君もこんな私を好いてくれていると思っていたが、言葉に出さないことが誤解やすれ違いを産むと、君の姿のさく殿に教えてもらったんだ」
真摯に言葉を私にかけてくれるが、あれ?
「君は、いや、そのようにしてさく殿は私を見捨てずにいろいろアドバイスを、、、」
「え、まって、少し待ってください。」
ぐっと両手をロイド様のほうに向けて一度まってもらう。
どういうこと、私は【さく様】なの?記憶のない私が【さく様】だったということだったの?
だからみんな私をさくと呼びかけたり、私の知らない話をするの?ここ数日の疑問が少しほどけていくが、なぜ、私の名前ではないのだろう?記憶がなかったから?
「私は、さくさま、だったの?」混乱しつつロイド様に問うと難しい顔になり肯定してくれた。
「君はあの事件後にさくらと名乗っていたよ。印象?そうだな、、、性格はおとなしいが芯があり聡明な印象だった。博識で頭脳に長けていたように思う。」
私はただ記憶がないだけで、そのうち思い出すだろうと思っていたがあんまりにもあっさりロイド様は教えてくれた【さく様】のこと。
だからお母様は帰ってきたとか、もう会えないと言っていたのか。
納得してしまうが得体のしれない気味悪さも内包する。
では、私が【さく様】なのか。
お母様はさみしいと言っていたし、会いたそうだった。お父様もそのことを肯定していたし、もしかするとクリストフも【さく様】を私より好んでいたのかもしれない。
ぞわりと、気が付いたことに少し胸が苦しくなる。私が私でいる限りみんな【さく様】には会えないからだ。
私はこのままでいいのかわからなくなる。
せっかくロイド様に会いに来たのに、本当に楽しい幸せな気持ちだったのにもうそんな気持ちはしぼんでしまった。
ロイド様も私より【さく様】のことをほめていたようだし、私よりも気に入っているのかもしれない。
私の混乱は収まる気配がなく、ロイド様には調子が少し、、、と言い訳を行い逃げるようにして館に戻った。