日常?
食堂も変わりなく、今日はお父様と、弟のクリストフが先にいた。
お父様は相変わらず、くるくるの金髪で目も緑の童顔でかわいらしい雰囲気だ。とても伯爵家当主のように見えない。
性格もお母様同様おっとりとしており、話しやすい。
マリス伯爵当主としての仕事もお父様はあり毎朝登城して、夜は遅いようだが毎朝できるだけ家族で朝食をとってくれる。
弟のクリストフはお父様によく似ておりくるくる金髪碧眼の本当に天使のようにかわいらしい10歳の少年だったが、なんだかシャープ?になったような違和感を感じる。
ここら辺の違和感も一年たっているという証拠なのかもしれない。
クリストフはこちらをついっとみて、なんだか微妙な顔をした。なにか、喜びとも、悲しみともわからない複雑な表情。
「おはようございます、お父様、クリストフ」
「おはよう、調子はどうだい?フェミリア」
穏やかな調子でこちらの調子を聞いてくれるお父様。変わりないようで安心した。
弟のクリストフがこちらの問いに答えないのはいつものこと。小さい時はかわいかったのにいつからかツンツンしているのだよね。もう。
「調子はいいの。ありがとう。でもここ一年の記憶がないみたいで、、、。」と多分お母様から話は言っているだろうけども報告をしておく。
やはり知っていたようで、顔色は変わらず、そうか、まあ無理はしないように。とお父様。
でも、こちらとしては昨日の続きなので、特に気負うこともなく朝食を楽しみにする。おなかがすいているからだ。
そうしていると、食事が運ばれてきた。
ジャガイモのスープと葉野菜のサラダ、焼き立てだろういい香りのパンとメインはボイルされた腸詰肉だ。おいしそう。
ぺろりといただき、ご馳走様。いつもよりなんだか少なく感じたけど、満足です。
その食事中も家族で他愛のない会話をして、本当にいつも通りの朝のよう。
弟はすこし外見が変わった感じがするけど、ツンツン具合は健在でした。
今日はこのまま一日お休みとのことで、自室で休むこと推奨された私です。
うん、ひまです。
いつもはマナーや、歴史学、一般教養などの教師が来てくれてその勉強をしつつお茶会などの返事など個人の業務を行っていたので、唐突に時間があると何をしようと悩む。
まあ、勉強はあまり好きではないけど、生きていくうえで必要みたいなので頑張ります。
でも、歴史ってなんで必要なのでしょね?歴史として記録されたことで終わったことよ?今生きていない人たちの今までの評価をするってこと?うーん。と、まあそもそも私は覚える系は苦手なんですよね。
まあ、今日はゆっくり知ることが私の仕事みたいなので勉強しないけども。
でも、何をして一日つぶしましょうか。
自室は広々として、庭に続く大きな窓からはレースカーテンをはためかせ、いい風が入ってくる。その中にお花のいい匂いがしていた。
季節は春ね。やはり一年間記憶がないといわれてもその事柄についてはわからないけど、自分の記憶としても、昨日は春だったので季節の違和感もない。
体が元気なこと以外、みんなが私をだましているのではないかと思うぐらい自分に対しては何もかんじない。
「うううん、なんとなく納得?腑に落ちないわ」
一人ごちて、ソファーから窓側に歩いていく。
やはり、いい風と花の匂いがして、春の雰囲気が心地よい。
窓の外は庭園が続き、ピンクをはじめいろいろな色のバラたちが咲き誇り自慢の庭だ。そこに違和感はないと思っていると、はて?何か建物が建っている。
テーブルと椅子のちょっとしたお茶が楽しめるはずのところに、小さな屋根付きの建物が建っている。
枠組みのみの少し華美な東屋。
あのようなものあったかしら。と思い少し興味がわく。珍しいものってちゃんと観察してみたいじゃない?
自室で休めと言われたけども、庭をきょろりと見回してみてもこちらに注目していない。
少し窓の高さに躊躇したがここは幸いなことに1階部分なので窓を乗り越えてもケガはしないだろう。窓枠に膝をたててよいしょと乗り越える。
一応こけずに庭に出れたけど、すこし膝打った。痛い。
そして、こそりこそりと、東屋のほうに近づく。
白い屋根と枠でやはり少し優雅で華美なデザインだ。
多分お母様の趣味かな。まだできてそんなにない感じ、中もみてみたいと足を踏み出したときにだれかの声が聞こえた。
お母様とお父様が東屋にいるみたい。
とっさにバラの壁に隠れる。
特に隠れる必要はなかったかもしれないけど、なんとなく。
なにの会話をしているのだろうと、耳を澄ませていると。
「ねえ、あなた。今日は大丈夫なの?もう時間が過ぎているわ」
「ああ、城かい、大丈夫だよ。今日はそれどころではないだろう?君のほうこそ大丈夫かい?」
「ええ、すこしびっくりしたけども、喜ばしいことよ?フェミリアが返ってきたわ」
私の話だ。でも朝も気になったけど、帰ってきたとの表現に少し変な感じがする。記憶が戻ったことを言っているのだろうけれども。
自分のことなのでもっと出ていくことができなくなり、それでもこの会話が気になった。
「そうだね、でも少し君は浮かない顔だから。さく殿のこと?」
「そう、私さくさんにもう会えなくなったと感じてさみしいのだわ。いっぱい相談したし、毎日楽しかったから。」
「そうだね、君はさく殿によくなついていたから。それはさみしいね」
「ええ、さみしいわ。今日は一緒にお茶会と町のほうに行く予定だったの。昨日約束したのに、、、急だわ。」
「そうだね、急だね」
すこし悲しそうなお母様とお父様が会話を続けるけども、朝マリーも言っていた【さくさま】のことだろうか、多分人のことっぽいけどお母様とお父様の仲良かった人?
私と関係があるの?、、、、、わからない。
「でも、そんなことフェミリアには言えないわ、あの子は1年間眠っていたように感じているから。さみしがっている私がいけないのだけども、でも、あの子がーー」
と、その時こちらに母付きの侍女がティーセットを持って近づいてきたので自室にこっそり帰ることにした。
会話の内容が気になるけども、なんだか聞けなくて。
室内用の靴で外を歩いたので、砂埃をハンカチでぬぐい自室に帰ろうと思ったが、
外からの方は高さがあり、なかなかに自室に窓から入るのは大変だった。
仕方がなくそのまま裏の方の出入り口のほうに周り込み屋敷へ入ろうと思う。
そうしてドアを開けようときに背後から声がかかった。
「なにしてるの」
慌てて振り向くと弟のクリストフがなんだか憮然とした顔でこちらを見ていた。
「何でもないわ、あなたこそ何していたの」
慌ててこたえるも、クリストフは黙りじっとこちらを見ている。
なんだか落ち着かなく、自分の髪を触ると、ぽそりと「さくさんじゃなくなったのか」と小声で言う。
また【さくさん】
何なの、いったい。
不安が押し寄せてくる。私の記憶のない1年間がすごく気になるしすこし不快に思う。
「何?なにかいったの?だれ?」
少し早口に問うも、何もないとそっけなく弟は踵を返し廊下の向こうに進む。
このまま追いかけて再度聞いてもあの子は性格上素直にしゃべらないだろう。
はあ。
一息つき自室に戻ろう。