喧嘩した翌日に待っていたものは
「まって、ロイド様!」
自分の叫び声で目を覚ますといつものベットの天井。ああ、私階段から落ちて気を失っていたのね、と妙に納得。
だってロイド様が聖女様と仲良くしていたのだもの。怒って当然!だよね。
ロイド様は私の大好きな婚約者様。
銀のサラサラの髪で、青い目がきらきらしていてとても素敵なの。グレイドリ公爵のご子息でありながらお仕事もされていて、王族の近衛騎士をされているエリートだ。
昔からの私との家同士の付き合いでの婚約だが、私は大好きだからとても楽しみにしている。
ロイド様もそうだといいなあ。早く一緒になりたい。いろいろ旅行にも行ってみたいし思い出いっぱいの幸せな家庭を作りたい.
そんな中、コンコンと廊下からノックする音。
「お嬢様、おはようございます、よく休まれましたか?」と私つきのマリーが入室した。
マリーは私より少し年上の私つきの侍女だ。髪と目は深い茶色で美人さん。私のお世話をよくしてくれていつも感謝している。
でもマリーはいつも優しいけど、私の暴走を止めるためにもいるので、時々怖い。
上半身をおこして、おはよーと声をかえす。
「はい、おはようございます。今日の調子も変わりありませんか?」にこにことこちら挨拶を返し、朝の支度を手伝ってくれる。
「調子はいいわ、ありがと。階段から落ちたみたいだけど、元気」
と元気さアピール。
ほんと昨日落ちたはずなのに全然痛くない。
っと、すこしマリーは止まって、また再開して私の着替えを手伝いつつ、「いやですね、えと。1年以上前の階段の件ですか?それとも知らない間に昨日こけられたのですか?」
え。昨日よ?ロイド様と言い合いになったのは。
「いやね、マリー昨日でしょ?でもロイド様を責めないでね。私がまたいつものようにカッとしてしまったの」
なんだかおかしい感じがしたが、やはり私の記憶では昨日のこと。断じて1年も前のことではない。言い間違えた?のかしら。
そういうと、またピタッとマリーは動きを止めて、こちらを向いて
「さくさま?」
?【さくさま】?なに?私の名前ではない、はず。
???
お互いに何かかみ合わない。
「私はフェミリアよ。それはだぁれ?」
そう私が言ったとたんマリーは大きく目を見開き、黙々と私の着替えを手伝いおわり、静かに退室していった。
えと、なんなの?
【さくさま】?なんだろうか。もの?人?うーーん。
としばらく考えていると、再度マリーが私の部屋にきて、奥様がお呼びです、とお母様の部屋に連れていかれた。
部屋はそんなに離れていないのですぐお母様の部屋に着くと、ノックして私一人で入るのかと思いきやマリーも一緒?怒られる?
「おはよう、調子はいかが?」
いつもおっとり優雅なお母様。
いつものゴージャスでふわふわな金の髪で、きらきらとした緑の美しい瞳を持つが、今日はすこし、こちらを探るように観察している。
ソファでくつろぎつつお茶を飲んでいるが、やはり目が怖いような気がする。
ロイド様に突っかかるのはいつものこととはいえ、やはり階段から落ちたのがダメだったのか、、、、?
ソファに座るように促されて、素直に座る。
「おはようございます、お母様。元気です。」
と答えると、少しお母様の瞳が揺れる。
?
なんだろう、いつもと違うような。
「そう、元気ならばよかったわ。マリーに聞いたのだけど、ここ一年間の記憶がないの?」
「は?え?」
一年間?ええ、私そんなに寝ていたの?その間ごはんとか食べてたの?お風呂は?
想像もしてもない事柄にびっくりして変なことしか思いつかない。
自分感覚では一晩だったのが一年とは、どういうことなんだろう。いやほんとに。
すごく混乱してしまう。
何も言えずに混乱していると、お母様がそっと肩をだいてくれて優しく微笑んでくれて、なんだか安心する。
「大丈夫よ、お帰りなさい、フェミリア。ゆっくり生活していけばいいわ。」
「ありがとうございます、お母様。」
そしてしばらくして、食事はどう?と問われた。
「何か食べれそうかしら?食べたいものを用意させましょう」
こちらに微笑むお母様に、私もニコリと返して食べれることを伝える。
実際おなかはすいており、なんでも食べることができそうだ。感覚的にはいつもの毎朝なのだけれども、一年間も私は寝ていたのかしら。
でも、昨日階段から落ちた割に全身どこもケガしえないし、いたくないので本当なのだろう。
いっぱい周りの人にも心配かけたのだろうし。
「ごめんなさい、お母様。ご迷惑をおかけしましたよね?」
「まあ、迷惑だなんて。でも心配はしたわ。帰ってきてくれて本当にうれしいもの。」
そうしてまたぎゅっと抱擁してくれる。
『帰って』というお母様の表現に少し疑問も、私は元気なことをアピールする。
そうすると、少し苦笑したような顔で笑ってくれた。
そのあとは朝食の指示を出すためか、離れたお母様を私は目で追いかける。
しばらくしてお母様はこちらに戻り、朝食まで二人でゆったり過ごす。
そうして知ったのは、私は寝ていたのではなく、ちゃんと起きてこの一年間生活をしていたことだ。
ちゃんと朝起きて、会話して、食事やものもろすべてそつなくこなしていたと。
一番今日でびっくりする。
私はそんな記憶はないのだから。
でも、そのことに納得もした。私の体は元気で、階段から落ちたはずだが痛くもない。
少し、不気味なそしてもやもやした気持ちはあるが、みんな変わりなく私を大切にしてくれているので、またそのことも思い出せたらいいなとも思った。
朝食の準備ができたとのことで、お母様と食堂に行く。
廊下を歩く雰囲気も感覚的な機能と変わらず、やはり一年間もたっているように感じない。