99 体育祭当日2
「どうしようか、暇だね」
「葉阿戸さん、バイオリンが弾けるようだね。それもかなりの腕前」
いちが切り出す。
「葉阿戸は特別な人だからなー、いや変な意味じゃなくて。僕が好きなだけかもだけど」
「うちも好きな人に好きっていいたいなー」
「ゴリさんに?」
「ええ!? なんで分かったの?」
「ちょうどいいや、ゴリさんにメール送るよ。いちの写真つけて」
「いいよ、恥ずかしい、汗かいてるし」
「照れるなって」
「皆で撮った写真を送ろうよ」
「それだと、ライバルが……、あ、葉阿戸!」
僕は話していながら、こっちに急いで向かってくる影を見た。
「何々? 何の話?」
「いや、特に面白い話じゃ」
「いちがゴリさんに写真を送りたいんだけど、照れてるんだよ」
「自撮りなら俺に任せて!」
葉阿戸は自撮り棒をどこからともなく出すと、ケータイをくっつける。
「いくよ! はいチーズ!」
葉阿戸の合図で僕らはにじり寄る。
カシャシャシャシャ。
「撮りすぎなのでは?」
「いいんだよ。じゃあ、ゴリさんに送っとくね?」
「頼んだぞ、葉阿戸」
「任せな」
葉阿戸はケータイを操作する。
僕らはそれを見た。
「たいが半目でウケるからこれにするか」
「おい待て」
「……、ごめん、もう送っちゃった」
「絶対わざとだ、いじめだ!」
「まあまあ、たいは半目でもかっこいいから」
「いらん、フォローすな!」
僕はいちの肩を叩く。
「それで知世さんから返信は?」
「既読つかないなー」
「授業中じゃね?」
「あり得る」
「さてと、お腹すいたから食べてるね」
葉阿戸はおにぎりを食べだした。
「葉阿戸、昼飯、おにぎり1個?」
「ダイエットしないとだから」
「十分痩せてますけど?」
「いいの、ほっとけ」
「葉阿戸がいいならいいけど」
またしばらくして、葉阿戸はケータイを開く。
「返ってきた! 今日の体育祭頑張ってくださいね! 後、いち君肌白いですね、って、いち君良かったね」
「うちは日焼けすると赤くなるタイプだからね」
「そろそろ、午後の部始まるね、ムカデ競争と借り物競争と騎馬戦な」
「ムカデは出ないよ」
「うちも出ないよ」
「俺も!」
葉阿戸が言った途端にクラスの皆が集合した。
ピンポンパンポーン
『これから体育祭、午後の部が始まります、現在の順位はほぼ同列で、1位2組、2位3組、3位1組となっております。ムカデ競争出る人はテント前にお集まりください』
「あれ? いつの間に1組と2組入れ替わったんだ?」と満。
「知らねェよ、振れ」と竹刀が満に言い放つ。
「リスキーダイス振らせようとしてくるな」
「いいから行くぞ、ボッキマン」
「何だと、キンタマン?」
「喧嘩はやめようよ、年に1回の祭りの日に」
いちはおでこに巻いているハチマキを結び直しつつ、注意する。
「ボッキマンと珠緒が出るのか、なんか荒れそうな予感」
「たい、フラグを立てるのはやめなさい」
「葉阿戸もそう思わない?」
「純君と結君が間に入るから大丈夫だよ」
「そうかな」
僕はスタート地点に立っている4人組を遠目で見る。
パン!
「「「1組! 頑張れー!」」」
「「「2組! 落ち着いていこう!!!」」」
「「「3組負けるな!!!」」」
ピストルの音とともに猛々しい応援合戦が起こった。
ドドドドド!
3組が先頭に立っている。
足がもつれて今にも転びそうな不安定の中、気合だけで足並みを合わせている。そしてそのままゴールした。
「「「でかした! 3組!」」」
皆の声は僕の耳をおかしくさせる。
続いて1組、2組とフィニッシュした。
次の種目は、僕がシュミレートした中でももっともハイリスクな種目だ。
借り物競争。
僕はテント前に集まった。知らない人ばかりだ。
『それでは次の種目、借り物競争に移らせてもらいます! 只今準備中です。しばらくお待ち下さい。……、準備が完了しましたのでテント前のトラックから開始いたします』
パン!
ピストルの音はけたたましい。
僕は50m先1番近くにあった紙を手に取った。
お題は――。
「身長が180センチ以上で変態な人だ」
僕は思考が少しの間停止していた。ゆっくりと顔を上げると応援席に戻る。
「追い剥ぎだーー!」
叫んでいるのは中肉中背でボクサーパンツをつけた2組の生徒だ。股間はもっこりしていて、雰囲気的に気弱そうだ。
「俺はそのボクサーパンツがほしいんだ!」
説明しているのは、筋肉隆々の2組の生徒らしき人だ。
「なんだ変態か。……ごめん! 皆聞いて、この中で180センチ以上の変態いる?」
「それがお題なんだー」
「俺、182センチで変態だよ」
黄色が手を上げた。立ち上がり僕に近づいた。
「別にお前のためじゃねえから、クラスの順位あげるためだから。で、どこ行けばいいの」
黄色はぶつくさ言いながら僕について行った。
僕らはテント前に着き、お題にあってるかどうかチェックしてもらった。
「ハーメハーメ、ハ〜! ……シーン、ちょろ」
黄色は腰をカクカクして言うと腰を突き出して止まる。
「中出ししてんじゃねーよ!」
「はい、合格!」
山田が悔しそうに喋った。
生徒会員は何かを書いていた。
そんな中、僕は声をかけられた。
「よう、たい、久しぶりだな」
「王子? 借り物競争にいたっけ?」
「ふっ、俺がイケメンで借りられたのさ」
「ああ、イケメンね。……すみません、そろそろ戻ってもいいですか?」
独り言を吐くと、生徒会員に聞く。
「いいっすよー」
「じゃあ、黄色、行こう」
僕らが戻ろうとした時、生暖かそうなボクサーパンツを手に持って、興奮している人とすれ違う。
(ボクサーパンツがここにあるということは、スッポンポンにされたのか?)
「大丈夫、ズボン履いてるだろ」
黄色は僕の表情をくんだ。
「だよな」
僕は最後の種目騎馬戦の行われる、自分の陣地まで歩く。青い帽子を被った。
「ついに念願の騎馬戦だぜ」と純。
「純、あんた、騎馬戦が好きだったのか?」
「実はオレと結、ハート隊だからな」
「ええええ!? まじ? 振り落としたりしないでね」
僕は4人組で上に乗る事になっている。僕と結と純と満だ。4人は合体していた。
「俺達は毎日じゃい君を担いでいるんだ負けるわけない!」
「俺もへっちゃらよ。とられんなよ?」
満は左手にいる。
「焦らなくていいから!」
結は右側だ。
「皆、頑張ろう!」
僕が向かい側を観ると、じゃいと目が合う。
「じゃいだ!」
「弱そうなじゃい君から狙っていこうぜ」
「だな!」
満と純が話している。
パン!
ピストルが鳴りスタートする。
♪
”天国と地獄”が流れ始めた。
男の気合が顔に出ている人が多い。
ドドド!
「速い!」
「正面突破だ」
「いや、右に回ろう」
下で支えている結と純と満は連携を取り合っている。
「たい、おいら、騎馬戦は慣れてんだだ」
「最終決戦行くぞ!」
じゃいの手と僕の手は繋がれて、微動だにしない。それでも一縷の望みをかけてじゃいを狙う。
「いただき!」
この声は比井湖だ。1組の赤い帽子を被っている。
僕は横入りしてきた比井湖の手を避けた。
「比井湖!」
「じゃいとたいが争ってるんだからなー、鑑賞してようかな、と言いつつゲット!」
バランスを崩していたじゃいの帽子は比井湖によって取られた。
「ああ、おいらの帽子が取られただ。……たい、頑張れだ」
「ありがとう、狙われている人の帽子を横取りするか」
僕は腕を向けて、指示を出す。
横目に葉阿戸と都零がうつる。葉阿戸の帽子を今にも取られてしまいそうだ。
「葉阿戸のところまで前進」
「「「おう」」」
4人は葉阿戸のところまで走っていく。
「葉阿戸危ない!」
僕は後ろから、都零の赤い帽子を取った。その時、葉阿戸の帽子は都零の手の内だった。
「たい、気をつけてね」
葉阿戸は着地して、この場からいなくなる。
「葉阿戸、ありがとう」
僕は後ろから来る2組の魔の手を避けた。すると茂丸ともう1人の2組の生徒に挟み撃ちにされて、取られた。
「あー、取られちゃった」
「残ったほうだよ。1枚とれたし、生徒会に出しに行こうぜ」
「そうだな」
僕は降りて、4人で固まって移動した。
ピー!
笛がなった。どうやら終わりのようだ。音楽も止んだ。
『はい、終了です。帽子はテント前にてお預かりします、自分の帽子は3点、相手の帽子は1点です』
「これは1点か」
「はい、1点です」
生徒会の人に帽子を回収された。
『最終種目が終わりました。得点の方はただいま集計中です。そして生徒の皆さん、閉会式を行います。各クラスお並びになってお待ち下さい』
各クラスの代表である僕はクラス旗をもち、1番前に並んでいた。
クラス旗というのもふざけた旗で3組最強の文字が書かれている。
「順位を発表する! 3位1組、2位3組、1位2組! 3年生の各クラスの代表前へ」
校長が発表すると皆反応は十人十色だった。
「「「やったああああ」」」
「「「脱いだ甲斐があった!」」」
「静粛に!」
「それでは生徒会から、賞状の授与を行います。3組、もう一歩でしたね! ……2組、優勝おめでとうございます。……1組、来年から立て直して頑張りましょう。それでは校長のスピーチをお願いします」
「はい、えー本日は青天の中、非常に皆さん頑張ったと思います、つきましては今後の活躍に期待したいと願っております。そして、2年生、10月末の修学旅行では羽目を外しすぎず楽しんできてください。その前にね、テストもありますが文武両道頑張ってください。それでは」
「はい、それでは、これにて解散となります。ハチマキは担任に返しましょう。ありがとうございました」
パチパチパチ!
拍手が起こり、解散となった。
楽しい1日はあっという間に過ぎ去っていった。
「たい行こうぜ」
「うん、ボッキマン」
僕は今月の修学旅行が不安と楽しみが3対7であった。そして葉阿戸といちと帰ることにした。
「楽しかったー」
「なー!」
「今月末の修学旅行は沖縄に行くんだろ?」
「暑いかなぁ」
「多分寒いと思うよ」
それから修学旅行の持ち物の話になった。
「後で圧縮袋買いに行こうか」
「そうだな」
僕はドキドキしながら自転車に乗った。