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95 文化祭当日4

体育館にて。

暗がりの中、大勢の生徒が佇んでいる。

ステージ上で先生たちが『人生いろいろ』を歌ったり、ダンス部がダンスをする。

そんな中で急にステージ上が静かになる。


「それではいきなりの告白タイムです。1年生代表武藤工秀(むとうこうひい)君どうぞ!」


身長の低いメガネを掛けた地味な1年生の生徒がステージに立つ。


「あることを告白したくて今日までとっておいた秘密があります」

「「「なーにー?」」」

「実は、俺には好きな人がいます」


急に某有名番組に寄せてきた。1年生の生徒がマイクでぶっちゃける。顔は濃い。


「「「だーれー?」」」

「告白したいと思います。和矢先生! ステージに来てください」

「「「おおおお!」」」


皆が期待のこもった声援を送る。

和矢がステージについた。今日は綺麗なウエスタンファッションを着こなしている。


「和矢先生! 初めて見たときから一目惚れしました。もしよければ付き合ってください」

「ソーリー。ごめんなさい。気持ちは嬉しいのですけど」


和矢はマイクに向かいそういった。


「「「どんまい!」」」


皆が同情のこもった声を出した。


「好きになってもらえるようにこれから頑張ります」


そう言ってステージから2人はステージ袖に行くと、再び暗くなる。

スポットライトが当たって、ステージはバンド仕様に変わっていた。

皆は光る腕輪やスティックで腕を上げて反応している。


「葉阿戸? どこいった?」


僕は隣りにいるはずの葉阿戸が居なくなったのに気がついた。時計は17時57分だ。


「それでは例年のメインイベント、日夜葉阿戸さんのバイオリン演奏の時間がやってまいりました。お聴きいただくのは、バッハのG線上のアリアのロックバージョンです。どうぞ!」


司会が指し示すのは、スポットライトの当たった葉阿戸の姿だ。バイオリンにマイクが付いている。ピアノの音と共に曲が始まった。

エレキギターとドラムが入って甘美だった曲は激しいロック調な曲に変わる。

皆が腕を振って、盛り上がった。

僕は葉阿戸の美しさを独り占めしたくなった。

(いや待てよ、僕達付き合ってるんだし後で聞ければいいか)

思っていると、急に演奏が止んだ。


「実は、皆に告白したいことがあります」

「「「なーにー?」」」

「俺……、付き合っている人がいます」


葉阿戸は惹きつけるように間をもたせた。


「ええ? 言うの?」


僕は心臓が口から出そうなほど鼓動が早くなり、赤面した。


「だーれー?」

「俺のクラスの後ろの席の人です。たい、おいで」


スポットライトが僕を狙い撃った。

僕は観客により、前に前に押し流されていった。

(なんというドッキリだ? なんだこれ!?)


「「「葉阿戸さん、おめでとう!」」」


皆が期待を込めた目で僕を見た。


「これは誓いのキスだな! キッスキッス!」

「「「キッスキッス! キッスキッス!」」」

「僕らが公衆の面前でそんな事するわけないだろ」

「たい、ちょっと目を瞑って」

「え? キスするの?」


僕は流されて目を瞑る。


「痛!」


僕は首に噛まれるような痛みが走った。それと同時に高揚感が出る。砂漠の中でオアシスを見つけたかのように枯渇していた体内のエネルギーが満タンになっていく。


「何を」


僕は目を開けると、チュッと首にキスをされた。


「目を瞑ってって言ったのに」と葉阿戸は僕の耳元で囁く。僕はあそこの前で手を丸めた。


「葉阿戸?」

「予想以上にまずいね。君の血」

「吸血したのか?」

「あ、真似事だよ。でもこれで君をマーキングできた」


小声で話す僕らに司会者はしびれを切らした。


「おおっと、首にキスマークが付けられました! これで葉阿戸さん以外は彼に変なことは出来ないでしょう。それでは後夜祭屈指のイベント、各クラス出し物MVP発表に入ります」


パチパチパチ

拍手喝采が起こった。


「これからもよろしくネ?」

「分かってるよ」


僕らはステージ横の袖にノロノロと歩いた。


ドゥルルル、パーン!

いきなり、ドラムロールが入った。


「今回のMVPは、皆を恐れおののかせた1年3組です! 武藤君、代表者として受け取ってください」


司会者は先程告白した武藤工秀をステージ上にこさせて小さな包と賞状を渡した。


「「「1年!?」」」


皆がびっくりしている。


「昨日と今日の票で決まりました。おそらく一番学校を盛り上げたと言うことでしょう! それでは最後のイベントです。ミス写真部エクステコンテスト発表会に移りまーす」


後ろのスクリーンに写真が映る。

美女が8人並んでいるかのようだ。


「この中でミスコン1位に輝いたのは……エントリーナンバー3番、『ゴリさん』さんです!」

「「「おおおお!」」」


会場は盛り上がり、僕は地震でもあるかのように目の前がふらふらした。


「2位は『明日姉さん』さん、3位が『はわたん』さんです」


「なんだ明日姉さん2位かよ!」


僕は袖のところで見ていた。


「何だとはなんだよ? たい」


当人は葉阿戸の姿なのに声が高い。


「葉阿戸?」

「さっき噛みついてたのはあーしだよ」

「ええええ? じゃ葉阿戸はどこに?」


僕は汗が吹き出してきた。


「さて、葉阿戸はどこにいるでしょうか?」


葉阿戸に見えていたのは明日多里少だったようだ。

いつの間に入れ替わったのだろう。


「それでは後夜祭を終わりにします。皆さん、お気をつけて帰りましょう。ありがとうございました」


司会の声を背中に、僕は外に出た。上履きのまま体育用具入れを開ける。


「葉阿戸」


葉阿戸はまた長縄跳びの縄でぐるぐる巻きにされていた。

僕は口のガムテープをベリベリ剥がした。


「むぐぐ……ぷは! たい、気づくの遅すぎー! ちゃんと彼氏しろー!」


葉阿戸は僕を指さした。


「ごめん、いつの間に入れ替わったんだ?」

「曲を止まって、たいに視線が集まってる時にだよ、茂丸と桃隊に2階に連れてかれて正面入口からここまで連れてかれて、ぐるぐる巻きにされたんよ」

「桃隊?」

「ハート隊の逆。つまり俺のアンチで、明日姉さんの牛耳っている高校生と大学生の集団だよ」

「僕、明日姉さんに噛みつかれたんだけど?」

「あー、たい、どんまい。血を飲まれるの初めてだろ? 気持ちよかっただろ。その気持ちよさを知ったらもう俺や他の子には敵わなくなったと思うよ」

「葉阿戸、僕のことを吸血してくれよ」

「俺の吸血中毒はとうの昔になくなっているから嫌だな。吸いたくはない。明日姉さんに頼めば?」

「そういや、明日姉さんさ、2位だったんだ、ミスコン」

「わざとだよ。明日姉さん自体がゴリさんに投票していたし? そこまで目立ちたくないみたいだし」

「僕、吸血されたい。でも、葉阿戸のことが好きだし」

「勝手にしろよ。俺はたいが明日姉さんとより戻しても悲しくないし」

「え? 僕のこと好きって、愛してるって言ったよね?」

「ふん! たい、君は俺が入れ替わってるのにいつ気がついたの?」

「明日姉さんが言ってから」

「ほら、明日姉さんだったことに気が付かないなんて俺の判断違いだったよ」

「それはそうだけど、うーん」


僕は唸り声をあげる。


「とりあえず、帰るか」


僕は振り返ると、そこには明日多里少がいた。

ガチャン! かちゃ!

ドアが急に閉められて、鍵がかかった音がした。


「え? 明日姉さん? ちょっと、嘘ですよね?」


ガチン!

僕はドアを開けようとしたが開かなかった。


「葉阿戸と付き合うんだったらなあ、そいつの正体をちゃんと見てやれ。まあ月曜日になれば、開けてもらえるっしょ、じゃーなー」

「はあ、最悪ー。明日姉さん」

「待って、明後日まで葉阿戸と一緒ってこと?」


僕は狭い室内を見渡した。

風の流れは感じられない。

完全に閉じ込められた。


「どうしよう。まじかよ! でも葉阿戸と一緒なのは眼福だな」


僕は葉阿戸の視線が怖くて強がった。


「仕方ないなあ」


葉阿戸は僕を見て立ち上がった。


「え? 何するの?」

「ちょっと目を瞑って?」

「やだ、怖い」

「俺が上書きしてやるよ」

「え?」


僕は葉阿戸がヘビのようにくねくねしてこちらに向かってくるのを目で追うしかなかった。


ガブ!

噛まれたのは先ほどと同じ場所だ。


「ひぃん、あう!」


僕は噛まれると同時にゾクゾクするほどの快楽に襲われた。


「ま、美味くはないな。……ウオオオ!」


葉阿戸は狼になった。僕の身長に比べると少し小さい。思い切り、ドアに体当たりをした。


バキン! ボキ!


ドアが脆弱に壊れる。


「さて、帰るか?」


葉阿戸の姿が一瞬にして人間に戻った。

僕は震えて何も考えられなかった。


「たい、悪かったな。俺のこと人外で嫌になったよな? もう距離を置くよ」


葉阿戸が出ていく。


「……あ、待ってよ。葉阿戸」


僕は少し経って、足のしびれを気にしながら、外に出た。

外では夜風が吹いていた。

僕は葉阿戸の家まで自転車を走らせた。ケータイを取り出す。不意に葉阿戸の居場所が気になった。

葉阿戸の家の庭に自転車が停まっている。


プルルル、プルルル、プルルル!


『もしもし』


葉阿戸の声が聞こえてきた。


『僕は葉阿戸がなんだっても嫌いになれないよ。2階の窓開けて』


僕は冷静に言った。

葉阿戸の身体がステンドガラスにぼんやりと映る。そのうちに姿が鮮明に見えた。


「僕は葉阿戸を愛してる、だから葉阿戸も好きって言ってみせて?」

「グスン、……好き」


ブツンと電話が切れた。葉阿戸に窓とカーテンを閉められた。


「よお、たい、どうやってあっこから出たのか知らんが、君、うちの葉阿戸泣かせてんじゃねえよ。それともあーしのこと忘れられなくて会いに来たのか?」


玄関が開いて、真ん前に明日多里少が立ちふさがった。


「葉阿戸に会いに来た! 葉阿戸ー! 好きだよーーー!」

「あ、待て、こいつ!」


僕は自転車で明日多里少から逃げながら叫んでいった。

(これからは葉阿戸なのか明日姉さんなのか見分けよう)

家につくと、僕は浴室に直行した。鏡で葉阿戸のつけた牙の跡と明日多里少の牙の跡を見ると、ほぼ同じ位置につけられていた。


「これが上書きか」


僕はのぼせるまで浴室に入っていた。


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