92 文化祭当日1
そして次の日、校内発表。一般公開の前の日だ。
「いらっしゃっせー、ドーナツとドリンクいかがすかー?」
黄色は真面目なヤンキーのようで、熱心に声を上げている。
交代制で3番目の接客係が接客していた。
「ハートピヨピヨさんいますか?」
本日15回目の質問だ。
僕と葉阿戸が接客してた時は長蛇の列が並んでいたが、今や閑古鳥が鳴いている。
「買うなら居場所を教えよう」
「じゃあ1つ」
「今日は写真部に行っている。明日はここで朝一番で販売をするからまた来いよ、ほらよ、金は?」
黄色がお金をもらい、150円が資金管理係に伝わった。
僕が葉阿戸と一緒にクラス外に出て、たこ焼き、焼きそば、クレープを食べて、食品を扱うクラスを制覇している時に葉阿戸が伊祖に連れて行かれたのだ。今は教室で将棋をしているいちと純に混ぜてもらっている。完全にふてくされていた。
「モンちゃん、サインください」
「ありがとう、また来てね」
モンは紙袋にサインをすると営業スマイルであしらっている。
「モンちゃん、明日も来るね」
「うん」
「うるせえな、どうせ来るんだったら金落としてけよ」
「黄色君はツンデレだから、気にしなくて良いよ」
「ちげえし! そんなんじゃねえし!」
「はははは」
モンがさも面白そうにしている。
時計は12時を迎えると、休憩時間になった。
「しまった、もう食えない、弁当!」
僕は腹具合を完全に忘れていた。
そこへ突如現れたのは――。
「失礼するでごわす。弁当の中身貰いに来ただ」
「よう、たい」
茂丸とじゃいだった。
「俺のクラスの焼きそば美味かっただろう? 洲瑠夜の特製の焼きそばだからな」
「僕がよく腹を満たしてるって気づいたな」
「あれだけ、飯持ってたらそりゃ満腹だろ。じゃいが食べてやるって! お前の弁当」
茂丸が久しぶりに隣りにいるのはなんだか不思議な感じがした。こころなしかぐっと来るものがあった。
「んじゃ、じゃい、はい」
僕は巨体のじゃいにはとてつもなく小さく見える弁当をあげた。
「ありがとうだ、いただきますだ」
じゃいが弁当を開ける。
じゃいは僕のお弁当のタコさんウインナーの目を潰して箸で食べている。花ガ◯パのキャラ弁を全てすごい速さで食べ終わった。
「ごつぁんです」
「味は?」
「うまかただ」
じゃいは僕のお弁当を小さく畳む。
「おーい」
「葉阿戸だ。戻ってこられてよかったな」
「ご飯食べたら今日これからも。後、明日も10時から写真部のモデルとしていかなきゃならなくなった」
「2時間ここで販売をするんだな?」
「買いに来るよ」
「こなくてもいいよ」
「もう、こないからねー」
キンコンカンコーン
12時30分を告げるチャイムがなった。
「じゃあ、俺、また隣のクラスで営業する用意しないと」
「茂丸、頑張れよー。俺ももう行くね」
葉阿戸と茂丸とじゃいは教室外に行ってしまった。
「いちー、将棋もいいけど来月、2学期の中間テストだぞ、数学赤点取るぞー?」
「そうだった、怖いこと言わないでよ」
「その前に体育祭があるけどな」
純は目つきの悪い目で僕を見る。
僕は一瞬ビクッとする。
「たい、純君は怒っているように見えるだけだよ」
「お、おう」
「たいの言う通りだ。中間テストの勉強に徹しようか」
「おい、いち。テストなんて先生の話聞いてりゃどれも80は余裕だぞ?」
「純君は天才肌だからかな?」
「王手!」
「あっ! 話に夢中になってた! やられた~」
いちは舌をぺろりと出す。
文化祭は14時までだ。
各々カードゲームしたり、話ししたり、屋台のような店を手伝ったりしている。
「私、生徒会の集まりで抜けるよ、代わりの穴は……純、頼める?」
「まあ、暇だし、いいけど?」
「じゃあよろしく!」
モンは生徒会の腕章を付けて教室を退出した。
「モンって葉阿戸以外にも、というかなんというか、意外と優しいんだな」
「俺に押し付けて出ていっただけだろ。たい、お前はあまちゃんだな」
「またそんな事言って! 僕は勉強ができればいいの」
僕は残りの時間を勉強に割く。
「ドーナツ500個、売り切れだ! ドリンクも後、10だぞ!」
少しして、黄色の無駄に大きい声がした。
「やったな! 売上で慰労会しようぜ!」
前田結が声を発した。
「慰労会?」
「お疲れ様の会ってこった! たい君」
「たいで良いよ。僕も行っていいの?」
「良いよ、なんで? 来たくないの?」
「行きたいさ!」
「売上いくら?」
「約5万、1人2500円は食べれる?」
「ウィー」
「その前に、お金の計算をしないと。準備費用でお金を頂戴した何人かに返さないと」
いちは真面目な顔をする。
「まあまあ、後残り10分だし、その間にいくら準備費用で使った分の計算しておこうぜ」
先程から、やんちゃそうな声を出してるのは栗原健太郎だ。
「葉阿戸さんや皆が帰ってきてから決めれば良いよ。だが放課後はもんじゃな。ちなみにもう予約してあるから」
「さすが佐々木君!」
健太郎は佐々木烏有を大声で褒めた。
キンコンカンコーン。
14時を知らせるチャイムが鳴った。
葉阿戸やモンや他のクラス、他の部活を見て回っていた人が戻ってきた。
「はいー、終礼は適当に済ませるー、羽目を外してあんまり出歩かないようにー! それじゃー、皆気をつけてー」
もんじゃ焼きの店に皆で自転車を走らせた。
「「「今日はお疲れ様! カンパーイ!!!!」」」
「もんじゃ焼きなんて久々だなー」
皆はもんじゃ焼きを沢山平らげる。
猫舌の僕といちは自分の分を皿に取って食べた。
「いち、ふうふうしてやろうか?」
「いいよ、竹刀君!」
「これさ、やっぱりゲ」
「やめろ、食ってる時に」
「激アツだよなって言おうとしたんだけどー、えー? たい、なんて?」
「な、なんでもないよ!」
「でもやっぱ、ゲ」
「だからさ」
「元気出るよなって言おうとしたんだけど!? え? たい、なんて?」
「僕をいじめるな、もう帰るよ?」
「すまんすまん、帰るなよ。好きな女子の話でもしようよ」
「僕には彼氏がいるから」
「おおー、ゲイなの?」
「そういうわけじゃないけど。たまたま好きな人が男だっただけ」
「葉阿戸さんだよな?」
「じゃかましいわ! ほっとけ!」
葉阿戸はエセ関西弁でキレる。
「マジなんだ」
「葉阿戸様は私が守ります」
「モンはなんなんだ」
「ただの幼馴染だよ」
「違います、ツインレイです」
「明日ナンパして、俺も彼女作ってやるからな!」
「僕、やらなくちゃいけないことがあるんで帰りまーす」
「日曜日は焼き肉だからなー」
純の声を無視して、僕は2500円を置き、店を出た。
店の外はおかしいくらいに静かで、まるで耳が聞こえなくなったのではと錯覚するほどだった。
何処かで、野良猫が鳴いた。