91 文化祭会議
次の日。
葉阿戸は僕の母の車で学校に送っていってもらった。
今日の天気は晴天で、少し暑く、直射日光で日焼けしそうだ。
「今日の6限目はちょっと早いが文化祭の準備を始めるぞー」
今日の6限になると橋本が言った。
「文化祭、9月ですよー。今、4月の半ばですよー」
「金武珠緒、良いんだよー。何をやるかによって用意するだろうー」
「俺の名前をフルネームで言わないでください」
「キンタマン。少し黙れ。とりあえず、5分考えて、話し合おうぜ」
「何仕切りだしてんだ、ボッキマン! 後、超人みたく言うな、珠緒と呼べ」
「足の拘束ってとれますか? 俺が前に出て、提案を黒板に書くので、外してもらえますか」
「日余さんかー、分かったー」
ウウィイイイン
葉阿戸の足の椅子の拘束がとれた。
葉阿戸は相変わらずスカートみたいなひざ掛けを腰に巻いている。
僕は葉阿戸が歩くたびにドキドキした。
そして、コツコツと音がして黒板に白い文字が刻まれていく。
『文化祭出し物について』
「1人ずつ案があると思うので答えていってください」
「メイド喫茶」
「クレープ」
「ドーナツ」
「タピオカ」
「お化け屋敷」
「段ボールの迷路」
「縁日」
「パイ投げ」
「たこ焼き」
「スタンプラリー」
「ワッフル」
「トイレの休憩所」
「ゴルフ」
様々な案が出された。
「俺、日余さんのメイド見てみたい」
「もうやったよ。写真部で……おっと」葉阿戸は口をおさえたがもう遅い。
「写真部ってメイド喫茶してるの?」
「なぁにぃ?」
「やっちまったなぁ~、男は黙って、萌え萌え、ズキューン!」
「それじゃあ、ヒソカだよー」
また妙なギャグが飛び交っている。
ドン!
「はい注目! 皆の案の中から挙手で決めます!」
葉阿戸は黒板を叩いた。
「それでは、メイド喫茶がいい人? 〜〜〜〜」
葉阿戸がカリスマ性を見せて決めていった。
票を集めたのは、ドーナツ屋とトイレの休憩所だ。
トイレの休憩所はやる気のない不良達の案だ。
「はい、質問! ドーナツになった場合、自分たちで作るんですか?」
「先生どうなんですかね。俺は作ってもいいけど」
葉阿戸が橋本に投げかけた。
僕は葉阿戸に作らせたら大惨事になると見越して聞いた。
「3スドに頼んでもいいしー、自分たちで作る場合は家庭科室の使用権をとっておかねばならないー、あー多分今日決めないと無理そうだなー」
橋本が言っている間にいちに手紙を回す。
『葉阿戸に作らせちゃだめだ! 料理が壊滅的だ。3スドにするか、トイレの休憩所にしよう、この手紙、回してくれ』
手紙が回っていく。
「ああー、そうなんですか。じゃあまた挙手をとるか?」
「皆フケますよ。ちゃんとした出し物は!」
「つうか、トイレの休憩所ってなんだよ、料金取るのか?」
「俺が参考にトイレショッピングをシミュレーションしてみるよ!」
満が手を挙げると揉み手し始めた。
「いらっしゃいませー! うんこですか? シッコですか? おならですか? ゲップですか? オナニーですか? 当店オナ禁となっております。裏庭にある木にかけることをおすすめします。お持ち帰りですか? 持ち帰りですとうんこ500円、シッコ300円、おなら400円、ゲップ200円となっております」
満は明るい店員が早口でまくしたてるように言っている。
「その案良いけど、裏庭でオナったらただじゃ済まさんぞ?」
竹刀は威厳のある声を出した。
「いや、お持ち帰りってなんだよ。どう持ち帰るんだよ?」
「スーパーのサッカー台に小袋ついてんだろ、あれをかっさらって」
「いや、だめだよ。そんな事バレたら捕まるぞ?」
「持ち帰り高いよ。てか、そういう問題じゃない。まず、トイレはショッピングしないから!」
葉阿戸は子供みたく頬を膨らませてる。
「愚民から金を巻き上げなきゃ」
「あんたさ、そんな考えじゃ足元すくわれるぞ」
「たいの言う通り。で、たいはどうしたい? ギャグじゃねえぞ?」
「3スドが良いと思います」
僕は声高らかに言い切った。
「たいの意見に賛成な人ー!」
「「「はい!」」」
手紙を回らせた真面目な人たちが声を上げた。
「じゃあ、3スドの店長さんに話通してみるね。俺、顔広いから」
葉阿戸は黒板の、ドーナツ、3スドと書いてある部分にはなまるを添えた。
僕は安心したが、力が抜けてしまった。
キンコンカンコーン。
「はいー、時間切れー」
橋本は中腰でプス! っとスカしっぺした。
「決まりました、3スドのドーナツに」
「そうなんだー、へー。じゃあトランクスとズボンを返すー」
橋本は葉阿戸が便座に座るのを待って、衣類を返した。
「皆! 文化祭までに教室をデコろう」
「それはおいおいやってくれー、気をつけて帰れよー、風呂は毎日入れよー」
橋本は皆の足かせの錠を解くと、スタコラサッサと出ていった。
「はっしー、まじダルそうでダルい」
葉阿戸はひざ掛けを器用に使い、裸体を見せずにトランクスを穿いた。
「あれれー、おかしいなー、サービスシーンないの?」
「ねえよ」
葉阿戸はズボンを穿く。
「いちはいいな。立派なちんこ持ってて」
「うちもひざ掛けで隠すかな」
「やめろ、俺の唯一の楽しみが1つ減る」
「たい、茂丸化してるなぁ」
「元来、男は皆、獣だから」
僕の一言で皆が黙った。
「葉阿戸、帰ろう」
「うん」
葉阿戸は黒いリュックを背負って、僕についてきた。
◇
時は流れ、ついに文化祭前日になった。
皆は慌ただしくなっていく。
「ドーナツは500個、発注してるから、チョコじゃないやつ、明日の早朝に届く。ドリンクも売ることになっただろ? その手配も済んでる」
「飾る風船が足りないぞ」
「接客は葉阿戸さんといち君、そしてたいと満、モンと黄色も交代制な。後は裏で用意したり計算したりするから」
「看板で回ってくるんだよな?」
「そうそう、看板出来たか?」
「出来てる!」
「1つ150円で、3つだと350円」
「安くない?」
「ジュースは150円だ」
皆が言い合ってる。
僕はいちと一緒に教室の隅で風船を膨らましていた。
なんとか明日に間に合いそうだ。
「たい、聞いてる?」
「150円、350円、ジュースは150円だってね」
「しっかりしてくれよ」
「分かってるって」
僕は苛ついているクラスメートの水雲純に言われて焦燥に駆られた。
「人来るかな?」
「大丈夫、俺がSNSで告知しといたから」
「それはまずいんじゃ?」
「なんで?」
「自分のフォロワー数見て言えよ。500で足りるかな?」
「ああ、明後日は700個用意するから、じゃあいち君、またね」
葉阿戸は僕の腕を引っ張って、廊下を走っていく。
「どうどう! 葉阿戸どうした?」
「明日、500じゃ足りない気がしてきた」
「ドリンクもあるし、大丈夫だよ」
僕は葉阿戸の頭を撫でた。