88 うららかな春の光
定期テストも無事に終わった。苦難がありながらもテストに立ち向かい、茂丸に余裕で全勝してコンポタージュを奢ってもらった。
僕は順調にここまでこれた。
初めはどうしたものかと思っていた、便座にも慣れて、愛着さえ湧くようになっていた。離れることになるので最後にはうんこしておいた。皆も記念でうんこしていた。
そして来る春、僕はクラス替えの貼り出された紙を見上げた。
『2年3組、虻庭モン、蟻音たい…………日余葉阿戸』
「葉阿戸と一緒なのはいいけど、モンと一緒かよー」
「モンは俺の言うこと何でも聞くから平気だよ」
「葉阿戸だ、おはよう」
「葉阿戸様、おはようございます」
「たいに、モン、おはよう」
「「俺等も一緒のクラスだぞ」」
竹刀と満は肩を組んでいる。
「珍しい組み合わせだな」
「ああああ、俺だけ違うクラス!」
茂丸は側で地面に手をついて、へこたれていた。
「おいらが同じクラスでごわす」
「あ、じゃいー、おっぱい揉ませて」
「断るだ!」
じゃいはモンや複数の生徒と、騎馬戦のような格好で校舎に入っていった。
「おはよう」
「いち君、おはよう」
「いちも僕らとおんなじ3組だよ!」
「え! 本当ー?」
いちは嬉しそうに僕に笑いかけた。
ピンポンパンポーン。
アナウンス音が響き渡る。
『早急に各クラスの教室に入りなさい』
ピンポンパンポーン。
「よし行こう」といち。
「俺達の戦いはこれからだ!」
茂丸は土を蹴って起き上がった。
「いや最終回みたいに言うな。あんたはいらん事をいつもいつも言うけど」
僕は茂丸に口を酸っぱくして言う。
空からは暖かい日差しが降り注いで、桜も咲きほこっている。
「さあ、たい、早く行かないとどやされる」
葉阿戸はキラキラした目で僕を覗き込む。
「うん」
僕は葉阿戸と歩幅を合わせた。
「はーちゃんに何もするなよ」
クラスの前で声をかけたのは竹刀だ。
「ボッキマン。わかってるよ、学校では大人しくしてる」
「学校では? 他のところでも何もするなよ」
「それは僕と葉阿戸の勝手だろ」
「何だと?」
「竹刀君、俺はプラトニックな付き合いをするから心配しないで」
葉阿戸はバレバレな嘘をつく。
「本当にたいのこと」
キンコンカンコーン
遮るようにチャイムが鳴った。
僕らは教室内に入った。
机に名前が貼られている。名前の順じゃない。
「ご覧通りー、教室の机とトイレは各人場所が決まっているー。成績順だー、後ろに行くほど頭が良いからー、前の人はバカだー。2年3組担任の橋本だー、1年の頃ー、3組だった連中は引き続きー、新しく俺の担任になった生徒もこれから宜しく〜」
橋本はだるそうに言い終わる。
僕は窓際の一番うしろの席だった。隣にはいちがいる。前には葉阿戸がいる。最高の環境で勉強できるという喜びを噛みしめる。
竹刀は言わずもがな前の席だ。
クラスの人数は20人と、不登校の子が2人のようだ。
「ああ、まだ座るなー、これから体育館に移動するー、適当に並んでくれー、ロッカーも使ってくれー」
橋本は廊下に出ていった。
流れで体育館につくと、始業式が始まった。先生の話を右から左に流し、終わると解散になった。
「月曜日は自己紹介からかー」
いちと葉阿戸は僕と一緒に教室を出る。
「周りが優等生だと困るな」と僕。
「葉阿戸さんも一緒で良かったよ」
「あー、修学旅行が楽しみだよ」
「確か11月だったね、20人を分けるとして、3人組だと1人足りないよな、うわ!」
僕が言っているといきなり、肩を組まれた。
「何の話ししてるんだ?」
「ボッキマン!? 別に大した話じゃないよ!」
「修学旅行で1人余ってるんだってな? しょうがない、一肌脱ぐか」
「竹刀君、それは決定事項なの?」
葉阿戸はいちが青ざめているのを察して聞く。
「そうだそうだ、他に友達いないのか?」
「たい、お前いつからそんなに偉くなったんだ?」
竹刀はドスの利いた声を出した。
「わかったよ、うちはそれでもいいよ」
「仕方ないな」
「俺も……別に変なことしなければ!」
「じゃあ、仲良し4人組の結成だな」
「竹刀君、股間が!」
さっきまでしぼんでいたらしいイチモツがビンと反り立っている。
「裏庭で抜いてくるわ、じゃあな」
竹刀は競歩のように速歩きでいなくなった。
「帰るか」
僕らも校舎外に出ていく。
生ぬるい風に吹かれて、家路を急いだ。
今日はだいぶ疲れた。1日を振り返ると、橋本や他の教員に感謝しかなかった。