83 告白
日曜日。
葉阿戸から借りた制服をクリーニング店へと出した。
駅での待ち合わせに僕と葉阿戸は同時に着た。電車に2人で乗った。
「これ、月曜日渡そうと思ったんだけど、会えるかわからないから、今日持ってきた」
葉阿戸は紙袋を渡した。
中身を改めるといい匂いのする制服が入っている。
「はい、クリーニング代返すよ」
僕はウエストバッグから封筒を出した。
「いいって」
「いや悪いから」
「じゃあ、これで2人で遊ぼうか?」
「そうこなくっちゃ!」
僕は封筒から半額出して、葉阿戸に渡した。
「これで割り勘ね」
「うん」
葉阿戸は財布にお札をしまった。
「ホラーってなんのホラーなの?」
「普通のホラーだよ」
電車に揺られてついた先の駅ビル内に映画館があった。エレベーターで最上階まで上がった。
「高校生2人で」
カウンターでチケットを買う。
「あの子、めちゃくちゃ可愛いね」
遠くからささやき声がする。
「カップル?」
「いいや、どうせレンタル彼女だよ」
金髪のイケイケ系の男性が話す。
僕は葉阿戸の様子を覗き見る。
(嫌な思いしていないだろうか?)
葉阿戸はケロリとしている。
「それと、ポップコーンが食べたいな?」
「よし、買ってこよう」
「俺もついてくから」
葉阿戸と共に、ジュースやポップコーンを買った。
「席は?」
「真ん中らへんだよ」
「隣?」
「当たり前だよ」
葉阿戸は僕がドキドキしているのを見透かしているようだった。
「そういえばトイレ平気? そもそも論だけど、その格好で男子トイレ入るの?」
「俺は普段は共用のトイレ借りてるんだ。店側にも客側にもややこしいからな」
「ほえー、でも、コンサートの時は」
「あん時は共用のトイレはなかったんだから仕方ないだろ。後13分で始まるけど、トイレ行くの?」
「急いでいってくる」
「映画見てちびるなよ」
「すぐに戻るから待ってて」
僕は排出物を出すと手を洗った。鏡をよく見て、元の場所に戻った。
「葉阿戸お待たせ……って、えぇ?」
僕はサラリーマンにナンパされている葉阿戸と目があった。葉阿戸がクチパクで、”助けろ”と言ったのが分かった。
「す、スミャセン、この人僕の連れなんです!」
僕は葉阿戸の手をひいて、映画館のゲートに駆け込んだ。
サラリーマンは目を点にして僕らを見てきた。
僕らは明るいシネマの座席に座った。人はまばらだ。
「55点かな」
「なんで? ちゃんと助けたじゃん」
「噛んでたし、もっとスマートに退けろよ、バカ」
「バカ呼ばわりにするなんて、もう助けてあげないよ?」
「じゃあ、たいとはこれきりだから」
「……やだ! バカって言っていいから、側にいさせて」
「嘘だよ。さっきはありがとねん。マジ泣きされるとこっちも泣けてくる」
「まだ映画始まってないぞ、うぅ」
「クスン、人気少なくない? この映画不人気なのか?」
世界が黒くシネマの光が動き出す。
♪
始まりを告げる音楽がなった。
映画の世界に引き込まれていく。
僕は怖すぎて失神しかける。思わず葉阿戸の手を握った。
◇
エンドロールが流れて、半目で見ていた僕に救いをもたらした。
世界が明るくなった。
「対して怖くなかったね」
「いや十分だ、もう一生分の怖いを接種した。ホラー映画はしばらく見ない」
「俺は映画より、君の握力に驚かされたけど」
「あ、ごめん」
僕は葉阿戸の手を解いた。
「この後、どうする?」
「太鼓のゲームやろう」
「俺、上手いよ?」
「え?」
僕らは、下の階に降りていき、ゲームセンターに入った。
太鼓のゲームにありついた。
「葉阿戸、鬼選ぶのか?」
「うん、これじゃないとつまらないし」
「僕は普通かな」
『ノルマクリア成功だドン』
葉阿戸の方は叩くのが何がなんやらわからなかった。
観衆が集まってくる。
「さてと、次は車のゲームしよう」
葉阿戸は汗の一滴もたらさずに、太鼓のゲームを終えた。観衆は四方八方散った。
僕は車のゲームも葉阿戸に大敗した。
「きさまこのゲームやり込んでいるなッ!」
「答える必要はない」
葉阿戸は楽しそうに遊んでいて、僕の心を苦しくさせた。
「そろそろ帰るか?」
「いやー遊んだね!?」
葉阿戸は少し寂しそうな顔をする。
「送っていくよ」
「いいよ」
「いやいや、僕の言う事聞いて」
「はい」
葉阿戸は素直に従った。
僕は葉阿戸の手をとって、歩き出す。
「たい、もう大丈夫だよ」
「あんたはすぐにナンパされるから、僕が守ってやるよ」
そして電車から自転車に乗り換えた。手は離れてしまったが、葉阿戸とは心でつながっているような気がした。
「じゃあ学校で」
僕は葉阿戸の家の近所までついて行った。
「じゃあ」
「今日はありがとう、またね~」
葉阿戸は僕がいないくなるまで手を降ってくれていた。
「ああ、可愛い」
僕はぼそっと呟く。帰ると、また勉強を始めた。
明日は学校が待っている。
制服をハンガーに干していると紙袋の中から達筆な字の手紙が入っていた。
『たいへ 先日はヤキがごめんね。たいのこと、少し前からいいなとは思ってます。ドキドキする。君のことを愛してる! 葉阿戸より』
「わあああああ!」
僕は葉阿戸に通じた気持ちがまとめられず、叫んでいた。
「たいちゃんどうしたの?」
母が登場する。
「なんでもない! 小指をタンスにぶつけただけ!」
僕は焦ってベッドの上で丸まった。
「もう、びっくりするよ、まったく、何か不良行為したらだめだからね」
母は小言を挟んで退場した。
「返事、書かなくちゃかな?」
僕は便箋に向かった。深夜まで起きていた。