82 写真部の活動2
次の日
僕は葉阿戸に借りた制服に袖を通した。パリッとしているシャツを着るのは随分久しぶりだ。気分も上がるものだった。
♪
流行りの歌をハミングする。
「今日はご機嫌だね。どうかしたの?」
母に聞かれた。
「なんでもないよ! 母さん、お小遣いくれ、ちょっとお礼のものを買いに行きたくて」
「はいはい」
母は僕に1万円をくれた。
「ありがとう」
「無駄遣いはしないでね。はい、お弁当」
母に弁当を渡された。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
母が僕に手を降った。
僕は外へ出ていった。学校に到着するまで自転車をこいだ。
「よー! たい」
「茂丸! おはよう」
校門から自転車置き場まで茂丸と一緒に行動した。
「おはよう」
「いち、おはよう」
「はえーな、いち」
「あんたに言われたくないと思うよ」
僕は余計な一言を言う。
「たいはなんか冷たいな」
「いやいや、たいは優しすぎるよ?」
「仲いいからって素の自分を出してるんだよな、ね、たー君」
茂丸はふざけているので、僕は構わず、校舎に入っていった。
「宮内先生! おはようございます」
「おはよおぉ、早いねぇ」
「ちょっと勉強をするので」
「頑張れぇ」
宮内はニヤつきながら、職員室に行ってしまった。
職員の殆どが職員室にいる様子が見てとれた。
僕は和矢と視線が絡んだ。
「おはようございます」
「おはよう。なにか御用?」
「いえ何でも!」
僕は走って逃げた。
教室までの道のりは長く感じた。
皆、集まり始めている。
「たい、どうしたの?」
「いや、別に」
僕はいちの問いかけにうまく答えられなかった。次に世界史探求を勉強した。
今日も学校が始まる。
キンコンカンコン。
チャイムが流れた。
がらら
「おはようー、今日もいつものメンバー以外の欠席はなしとー、ズボンとトランクスを集めてこいー」
橋本の指導の元、衣類は回収された。
「今日は世界史探求の小テストがあるからー」
「あ。たい、お前、なんで世界史探求の勉強してるんだ? 橋本を買収でもしたのか?」
「1学期も、2学期も、このくらいの時間をおいて小テストあったから」
「皆に言えよ」
「感の良い人なら分かるだろ」
学校の授業が始まる。1時限目は古典だった。
それからはどんどん時間が流れた。今日の学校生活で1年3組は糞尿を出すものはいなかった。
部活動の時間になった。
「やっと一日が終わるー」
僕は上に向かって伸びをする。
「写真撮りに行こうぜ!」
茂丸は僕と葉阿戸に声をかけた。
「しゃあねえな」
葉阿戸は外見とは正反対の声と態度で言った。カメラを首にかけていた。
僕の脳はバグっていて戸惑っていると、葉阿戸が僕の手を引いた。
「たい、どうかしたのか?」
「いや、大丈夫」
「行こう?」
「うん」
僕はそのまま手を引かれているのにもかかわらず、ぼんやりとしながら下駄箱まで着た。
「あー、お前ら、そんな仲なんだな?」
茂丸が僕らを見て、囃し立てる。
「葉阿戸、手」
「ごめんごめん」
葉阿戸は手を離し、自分の下駄箱まで行ってしまった。
「おい、どんな魔法を使ったんだ? あの葉阿戸がお前に夢中だなんて」
「フリだよ。葉阿戸、モテるから僕と付き合ってるフリをして、厄介払いしてるんだよ」
「あー、冷静に考えればそうだよな。あの葉阿戸がお前なんかと似合わないもんな」
「あんた、つくづく失礼な野郎だな」
僕らは校舎から出る。写真のテーマは特にない。
「あ、たい、みてみて! 蛾と蛾が交尾してる。蛾でも交尾できるのにお前らときたら」
茂丸がカメラを向けている。
開けっぴろげの玄関のドアに蛾と蛾はくっついて合体している。
「うるせえ、あんた全世界の童貞と処女を敵に回したぞ。つうかお前らって誰のことだ?」
「突いたら交尾したまま翔ぶのかな」
茂丸が人差し指を出す。
「ふっ」
僕は思い笑いをする。
「やめとけ、可愛そうだろ!」
葉阿戸は茂丸の手を強く握った。
「分かったって!」
「ひどいことするなよ。君の来世かもしれないんだから」
葉阿戸はかっこよく茂丸の目を見て諭した。
「来世が蛾とかやだなー」
「あんたは、蛾に失礼だと思わないのがすごいな」
「なんだと?」
「言い争いはなしにして、写真、楽しもうじゃないか」
「僕、カメラ忘れた」
「いいよ、俺の使えば」
今日は飛行機雲を撮ったり、クリスマスローズを始めとする花を撮ったりした。
「落書きされた羽のところで撮ろうよ」
我が校には映えスポットが色々あって、校舎裏の壁に描かれた羽もその1つだった。
校舎裏に移動した。
「いいよー」
ピピッカシャ!
3人はかわりばんこで写真を撮った。
「はあ」
「どうしたのため息なんかついて?」
「ため息が出るほど美しい」
茂丸は葉阿戸を被写体にするとため息が出てしまうようだ。
葉阿戸自身は「またか」という感じで、反応が薄い。
「そろそろ戻るか」
「そうだなー」
「写真どれにする?」
「生物の神秘、蛾の交尾にしようぜ?」
「俺はいいけど、たいは?」
「それでいいんだ!? 僕も何でもいいよ」
僕らは視聴覚室に舞い戻った。
そして、今日の一枚が決まる。
「はい。それでは、今日の一枚を決めようと思います、1番の梅がいい人〜〜〜〜」
部長が話すのを僕らは静聴する。
「それじゃ、生命の神秘、蛾の交尾に決定!」
部長がホワイトボードを見ながら言った。
なんと、僕らの選んだものに決まった。
撮れ高が足りなかったようだ。
「「「お疲れ様でした」」」
「「「お疲れ様でした」」」
僕らはその後、さっさと帰った。
「葉阿戸、クリーニングのお礼何がいい?」
「別にいいって」
「いや何かしないと気がすまない」
「じゃあ、今度、映画デートしよ? ホラーね」
「僕、ホラー苦手なんだけど」
「大丈夫、そんなに怖くないって」
「えー」
「手、繋いでもいいから」
「うーん、じゃあ克服のために観るかな?」
「やったー。次の日曜日ね」
葉阿戸は嬉しそうに頬を緩ませている。
「はいはい」
僕は仕方なく、要望に沿うようにした。