80 写真部のサンタ
次の日。
部活動にて。
葉阿戸はサンタのコスチュームをしている。スカートだ。
「もう遅いだろ」
「先月期末テストでできなかったからさ」
「まあ細かいことはいいじゃねえか」
「はい、葉阿戸サンタからプレゼント!」
葉阿戸はぬいぐるみを渡してきた。
葉阿戸の姿のデフォルメぬいぐるみだ。
茂丸には明日多里少のデフォルメのぬいぐるみ。
「寝る時に抱きしめて寝るといいよ」
「そんな事するわけないだろ!」
「ありがとう、葉阿戸、一生大切にするよ」
茂丸は心底嬉しそうだ。
「それにしても器用だな」
「もう褒めても何もでないよ」
「別に思ったことを言っただけだ」
僕は葉阿戸のぬいぐるみをリュックにしまった。
(可愛いが過ぎる!)
そして校舎の外を歩くことになった。
「あのさ、葉阿戸」
「何?」
「今日一緒に帰ろ?」
「もちろんいいよ!」
葉阿戸は一段と声を大きくして僕を見つめる。
「どうしたんだよ、そんなに見つめないで」
「もしかして照れてる?」
「うん」
「うん。俺、これから期待しちゃってもいいんだよね?」
「えっと、何かのドッキリか? そんな……、勘違いしちゃうだろ」
「何のこと?」
「誤解を生むから言わない!」
「日余さんが撮れないんで離れてもらってもいいですか?」
部長にキレ気味で言われた。
「すみません」
僕は茂丸のいる方向へと走った。
「葉阿戸といい感じだったな!」
「僕にも春が来たかもしれない」
「多分、明日姉さんに言われて……」
「ま、まさかぁ〜」
僕は葉阿戸と目が合う。
葉阿戸は光を放つような笑みを見せた。
「ぎゃんかわ!」
「言ってないで撮れよ」
茂丸に言われてシャッターを押すも、葉阿戸は後ろを向いていた。
「あーあ、行っちまった」
「心のシャッターは押したし、目で焼き付けたよ」
「たい、恋する乙女みたい」
「誰がだ!」
「お、もう引き上げるみたいよ、風吹かねえか? 下着何色かな?」
茂丸はカメラを構えている。
僕は茂丸に呆れながら、思う。
(流石に寒かったかな)
「葉阿戸、大丈夫?」
「俺は平気だけど、他の部活の人に見られたら写真部員がありえないほど増えるからってさ」
「「「すみません、入部希望です」」」
「ほら」
「「「あの、美術部のモデルになってくれませんか?」」」
「ほら」
「「「あなたほど、俺(私)の尊顔にかなう人はいません。付き合っていただけますか?」」」
「ほら」
葉阿戸は彼らに微笑みながら僕の腕を掴んだ。
「俺、この人に夢中だから、俺に興味持っても残念でした」
皆はぽかんとする。
「じゃあ、俺、3年の山橋と言います。一応読モなんですけど」
「うーーん、タイプじゃないっ」
葉阿戸はバッサリと振った。
そして、僕はというと、校舎に入り、視聴覚準備室まで一緒に連れて行かれた。
「おい、葉阿戸、僕を使って厄介払いする気か?」
「いいじゃん、俺のこと、ほの字なんだろ」
「そうだけど」
「これからは行動で示すことにしたよ! 後ろの背中のホック取って?」
「脱いだからって何も始まらないぞ、おい」
僕は葉阿戸のサンタのコスチュームの背中のホックを外して、ジッパーを下げた。ドキドキして葉阿戸を見ず、反対を向けていた。すると葉阿戸にバックハグされた。感触的に半裸であることが分かる。
「あのときと逆だね」
「な、何をするんだよ! 早く着替えろよ、ばか!」
「ふふ、たいって、本当にリアクション面白いね」
葉阿戸は僕の股間に手をやった。
「固くなってるね」
「……もう! 明日姉さんみたいなことするな。あ、まさか、入れ替わってる?」
「葉阿戸だけど?」
葉阿戸はそういうと、僕から離れた。
学ランに着替えているようだ。
「着替え終わったけど?」
「うん、さっさと投票して帰ろう」
僕はぎくしゃくと動いた。
「右の、手足が両方出てるよ」
「僕をあんまりいじめないでくれ」
「いじめているつもりはないんだけど」
葉阿戸は視聴覚室の椅子に座った。
僕も隣りに座った。
「それでは、日余さんの可愛い写真を決めます〜〜〜〜」
葉阿戸の一番可愛い写真が選ばれた。
「さて、帰ろう?」
「おう」
「お前ら、仲いいな。本当に友達か?」
茂丸は刺々しく話しかけた。
「友達だよ、まだ」
「はぇ?」
「行こう」
葉阿戸は変な声出さないでというふうに、僕を見た。
僕は戸惑いながら葉阿戸の後ろを歩いた。
(何がしたいんだ?)
「公園で話したいことがあるんだ」
「何? え?」
「ついてから話すよ」
葉阿戸は前を向いて話した。
葉阿戸は公園につくと自動販売機でコーヒーを買い、ブランコに乗った。
僕もコーヒーをもらい、隣のブランコに乗る。
「たいって可愛いよな」
「ぶは! 可愛いのは葉阿戸だろう」
僕は盛大にコーヒーを吹き出す。
「明日姉さんにたいを好き勝手されるの嫌なんだ」
葉阿戸は僕にポケットティッシュを渡す。
「その時は嫌になるけど、なんとも思ってないよ?」
「本当に?」
「うん」
僕が返事をすると、葉阿戸はブランコから降りて、僕の向かいに立つ。
「じゃあ、俺からいじめられるのは好き?」
「いじってくれるのはありがたいよ。いじめの域まで達するのは嫌だな」
「そっか、寒いしもう帰るか」
葉阿戸は呟くと自転車に飛び乗った。
「待てよ、話ってそれだけ?」
「今話しても無意味なんだよな」
「どういうこっちゃ?」
僕も自転車に乗る。
葉阿戸は無言になった。
「また後でね」
気づけば、2人の分かれ道まで来ていた。
「うん、じゃあ気を付けてな」
僕はなるべくかっこよく告げた。
「好きだよ」
「へ? ああ、僕も好きだよ? ここでも演技するんだな、よ! プロ意識の高さ!」
「そう言うことではない」
葉阿戸は自転車から降りる。
チュッと僕の唇に葉阿戸の唇があたった。そして歯と歯がぶつかった。
「あ!」
横に人影があった。
「王子!?」
「やべ」
葉阿戸はポーカーフェイスで自転車に乗り、帰っていった。
「……皆には内緒にしてくれるか?」
僕はハート隊を敵にしたくなかった。
「ああ、皆には言わないから、協力してくれ」