7 謎の大会
時は4月。体育館にて。
「俺、茂丸! お前は?」
茂丸は元気のなさそうな僕に初めて話しかけてくれた。
「蟻音たい、です」
「なんで同級生に敬語なんだよ」
茂丸はさも面白そうに笑った。
「ここの学校って、トイレがないんですか?」
「なんか、今年からトイレがなくなって、クラスの椅子がトイレの椅子になっているんだとよ」
「ええ!? マジですか?」
「知らずに入ってきた人、結構いるんだよなー」
「なんで知ってて入ったんですか?」
「俺ってちんこは好評なんだよ」
どうだと言わんばかりに語る茂丸に僕は何を言っているのかわからなかった。
「え? それってBのLってことですか?」
「そういうやつもいるかもしれないが、俺は違うぞ。この学校で1番良いちんこを持っているかどうか勝負しに来たんだ」
「なんですかその勝負って」
「ふっふっふ、それは後でわかる。あと敬語やめろよ、キモい」
「それって強制参加?」
「担任が大会に出る人を選抜できる」
「担任に好かれれば出る可能性は少なくなるということ?」
「性格に寄るところだ」
「うわ、やだな、そのくだらない大会」
「くだらなくねえ、男の戦いだぞ!」
「どんな大会なんだ?」
「12月の初めに行われるらしい。せいぜいシコって備えとけよ」
茂丸は僕の傍を離れて、顔を真っ青にしている王子の元へ行った。
◇
そんな会話をしたことを、僕は思い出した。その後の教室で、泣きながら、小便したこともだ。
そして、11月の暮の今日、大会の話し合いが行われた。
「2週間後の大会に出る人は園恋と……蟻音にしよう。仲良いんだろ?」
「僕は嫌です! 勃起マン、いや、簿月にさせるべきです! あいつには敵いません」
「簿月はオナ禁できないだろ。もう校長に提言したから無理だな」
「僕はその、1人で致すこと少ないんですが。そもそもどんな大会なんですか?」
「あれ? 知らなかった? 射精飛距離大会だよ、マスターベータソンの日本版、まずは1学年全クラスで順位を決めて、その後その勝った組が全学年で順位を競うんだ」
「はえ?」
「やるのは体育館で、専用のマットの上にするものだから、安心して良いよ」
「いやどの辺に安心感を感じれば良いんですか? クソ学校のクソ行事に出る気はありません」
「親御さんが泣くことになるけど良いんだね?」
「それは……、分かりました、やります」
僕は高校の落ちこぼれとして、大学に行くのは嫌だった。母の泣き顔を見たくない。
「ガッツがあればなんだって出来る! じゃあ、後は自習。先生は後ろで丸付けをしてるからはしゃぐなよ」
担任はパイプ椅子を持って、ロッカーを机に、宿題のプリントを丸付けしている。
「宜しくな、たい」
「はあ、飛距離なんて測ったことないのに」
「おかずはあみだくじで、各々が用意した物から選べるぞ。相手を蹴散らすためにわざと萎えそうなものも用意しても良いんだぞ」
「よく知ってるな」
「1組から3組の順であみだくじは選んでもらうことになっている」
「それで、勝つと何かもらえるのか?」
「賞状と何かがもらえるらしい。賞金も10万位もらえるって先輩が話しているのを聞いた。この学校出来て3年だから、皆、この大会燃えてるぞ」
そういう茂丸は薄く剃り残しの髭があるのを、僕は見逃さなかった。
「どうせうんことかだろ」
「そんな事言うなよ。校長の前でそんな物、授与出来ねえよ」
「じゃあ何だよ?」
「お楽しみだよ」
「そもそもトイレ以外でしたことないんだけど、勃つかな?」
「そりゃ、何事も勢いが重要なんだよ! この童貞野郎が」
「うーん、この勝負茂丸に任せるよ。お前も童貞だろ!」
「俺が蟻音の分まで頑張るよ、任せておけ」
「おかずは? どうする?」
「俺、髪の伸びる日本人形持っているんだ」
「呪いは自分に返ってくるんだぞ」
「お前は?」
「写真部になったし、葉阿戸の写真集かな」
「葉阿戸に嫌われるぞ?」
「大丈夫、寛容な人だから」
「早速今日練習しに行こうぜ!」
「どこでだよ、皆に見られたくないんだけど」
「裏山でな」
「嫌だよ。2人で何かエッチなことしてるみたいじゃねえか!」
「じゃ、家のトイレで練習してこい」
「そうだな」
「それで、やりすぎるなよ、1週間前からはオナ禁だからな」
「なんか現実味を帯びてきた」
「ここがファンタジーの世界かと思ってるのか、お前。さてはチート使いなのか?」
「んなわけ、あ」
僕はメガネを擦る。
向かいの校舎から葉阿戸が手を振っている。
「可愛いなぁ」
僕は手を振り返す。
「ムクムクじゃねえか」
「くっ、こんな足かせがなければ、シコリにいけるのに」
「それは俺の島でするって事か?」
竹刀がヤブから棒にガンを飛ばす。分厚い漫画本を手に持っている。
「俺の島って?」
「裏庭でシコったやつは全員、和矢ちゃんの前でオナニーさせんだよ」
「そこに行ってしないので、許してください」
「じゃあここでシコれば良いんだよ」
「嫌に決まってんだろう! いじめか!」
「あ、そう言えば、大会に優関椎先生も見学するの?」
いちが話をそらした。
「気になる気になる!」
僕は死にものぐるいで乗っかる。
(こういう時に気が利くな)
「その日は女性は休むのが恒例のようだよ」
茂丸はしょんぼりしている。リトル茂丸も元気がない。
「なんだー」
「この学校に赴任するんならおっぱいくらい揉ませてくれてもいいのに」
「さっきからうるせーな、ガキは母ちゃんの乳でもしゃぶってな。今月間マカシン読んでるんだから邪魔すんなよ」
竹刀は大きな足を狭そうな椅子に囚われて痛そうだ。
「少年ダンプ派じゃなかったのかよ」
満が強気に声をかける。
「……」
「おい、無視すんなよ」
「うるせえなダンプはダンプの良さがあるんだよ。全員に言っとくが、昼休みに俺の島来たら殺すぞ」
『ショーー! ショーー!』
皆が合わせておしっこをした。