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69 新年

僕は葉阿戸の寝顔を見て何度もシコシコしにいった。一睡も眠れなかった。


「あ、おはよう! たい」


葉阿戸は5時すぎる頃にいきなり起き出した。


「葉阿戸! 俺、待ってたんだぞ。あんたが起きるの!」


僕はムラムラした気分が収まらなかったので、座っている葉阿戸に抱きついた。


「やめろ!」


葉阿戸が思い切り僕の陰部を握った。


「ああ! やめます。やめます」


僕は一瞬気持ちよかったが、爪を立ててきたので痛くなってきた。葉阿戸から離れる。


「気色悪いな」

「ごめんって」

「帰ろうか」

「うん、あのさ……」

「あ、あけましておめでと!」

「あ、僕が言おうとしたのに! あけおめ! ことよろ!」

「”TOLOVEる”は?」

「葉阿戸が持ってていいよ」

「姉さん、どうなっただろう。茂丸に電話してみるか?」

「うん、してみるか!」


僕はケータイの電源をつけた。


『もしもし』

『あ、たい』

『あの、明日姉さんは?』

『昨日の22時くらいに出ていって帰ってきてないぞ?』

「そっか、……あけましておめでとう」

『おお、あけおめ〜』

『じゃあな』


僕は早々に電話をきって、葉阿戸に向かって口を開いた。


「葉阿戸、家に帰れる?」

「親が6時にシンガポールから帰ってくるから平気だよ。それに姉さんは標的以外には甘いから」

「そっか」

「ほら、モスクだよ」


葉阿戸は僕にケータイで写真を見せる。黄金に輝く神々しい宮殿があった。チャイナタウンから撮ったものだ。そのままスクロールすると、マーライオンの写真が出てきた。


「シンガポールの海ってきれいなのかな?」

「ビーチは様々だよ」

「そっか」


僕は伝えたい言葉はわかっているのに伝えられなかった。


「帰ろうか」

「うん」


僕らは淡々と服を着た。

葉阿戸は料金を精算機に入れる。


「待って」

「姉さんの事?」

「いや僕、葉阿戸の事が」


キイ


玄関先のドアが勝手に開いた。


「明日姉さん」


葉阿戸の発した言葉に僕は卒倒しそうになる。


「あけましておめでとう」

「あけましておめでとうございます!」

「あけおめ、どうしてここが分かったの?」

「ローラー作戦だ。1番安い部屋にいると踏んで探したんだ。GPSもさっきついたしな。それにしても。逃げるなんてひどいじゃねえか?」

「すみません……お言葉ですが、僕には恋人したいのか奴隷にしたいのかよくわかりませんが、もうこりごりです」

「そうそう、たいは俺にぞっこんだから、別れてほしいんだけど」


沈黙の間が流れた。

明日多里少は葉阿戸と僕を見比べる。


「はあ……、本気か? ……まあ、あーしの次の彼氏候補はまだまだいるから、気にするなよ、葉阿戸」

「ということは、たいの事は……!」

「そうだな、飽きるまで奴隷として扱うか」

「それは重たいです」

「俺の彼氏に変なことを頼まないでくれない?」

「あー、そうだったな、ここで話し合うべき内容じゃないな。とりあえず帰るか」


明日多里少は背中を向けた。

短い廊下を進んで、エレベーターに乗る。


「あの、僕達自転車で来たので」

「へえ、そうなんだ」


明日多里少は心ここにあらずと言った体で落ち着かずに、車の鍵を回している。


「せっかく来てくださったのにすみません」

「……それはどう受け取ればいいんだよ? 惨めになるだろ? そういうこと言うな」

「ガソリン代かかっただろうなー、姉さん、ごめん」

「部屋の前で凍えそうだったぞ?」

「すみません」

「謝るんじゃねえ」


僕らは1階の外に出た。


「じゃあな」

「お気をつけて」

「それじゃ、また家で話し合おう」

「たいもまた逃げるなよ」

「はい」


そうして、僕らはホテルを後にした。

僕は自転車で、葉阿戸の後についていく。


「葉阿戸がずっと前から彼氏だったら良かったのに」

「やめろよ、背中に悪寒が走る」

「やっぱりさっきは演技だったんだな」

「当たり前だろう。姉さんには、俺達付き合ってることにしておこう」

「これで、僕もフリーか」

「また合コンでも行こうよ? それとも姉さんにまだ未練でも?」

「ないない! もうもってのほかだよ」


僕が喋ると葉阿戸はしばらく、押し黙った。

思ったより速く日余家に到着した。青いセダンとルークスが停められている。

葉阿戸の案内で庭に駐輪場があるのが分かった。しかし茂丸の自転車はない。茂丸は帰ったようだ。


「じゃあ僕は帰るから」

「逃げんなっていわれてたんじゃ?」

「明日姉さん。怖いから」

「後でお仕置きされるよ。俺が守るから行こう」

「分かったよ、ありがとう」


僕らは漫画本を持ち、日余家に入っていった。

リビングにテーブルと椅子があった。漫画本を置いた。

星と研戸は上の階にいるようだ。


「早かったな! それでネタ合わせは出来たのか?」


明日多里少が階段から降りてきた。


「姉さん、俺らの関係に水をさす事はやめてくれない?」

「明日姉さん。短い間ですけど、お世話になりました」

「お世話も何もねえよ、まあ座れよ」

「はい」


僕は椅子が壊れてないか確認して座った。


「で、いつから付き合ってるんだ?」

「昨日です」

「それって二股だよな?」

「うん、まあ、そうなりますね」

「うんじゃねえよ。あーしと付き合っているのにホテル行ってんじゃねえよ」

「待ってください。ホテルに行ったのは首輪を取るためです。性行為はしてません!」

「プラトニックなわけか? ホテルに行ったのに?」

「はい」

「おい、葉阿戸、本当か?」

「そうだよ。姉さんの思うようなことはしてないよ。俺から告白して付き合ったんだ」

「二股だよな」

「すみません」

「口だけだろ」

「態度で示せと?」


僕は椅子から立ち上がり、フローリングの床に土下座した。


「すみませんでした」

「ああ、二度とその薄汚え面を見せるな! 帰れ!」

「はい」

「葉阿戸もあーしの恋人盗るのこれで何回目だ?」

「3回……」

「もっとだろ!」

「はい……、……たい、またね」

「ん、じゃあ」


僕は葉阿戸のフォローもあり無事に帰れることができた。憑き物が落ちた気がした。外に出るとまだ蜂の巣をひっくり返したように罵声が聞こえてくる。

(葉阿戸、大丈夫かな?)


「それにしても、葉阿戸もやるなあ」


僕は少し心配になりながら、帰り道を進んだ。

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