65 女王の住む家前
次の日
僕は今日も今日とて、勉強していた。
英語の問題を解いていると母が部屋に入ってきた。
「たいちゃん、通知表見せて?」
「あぁ、忘れてた、はい」
僕は机にしまっていた通知表を見せる。
「へえ、現代文と古典が3ね」
「3は許容範囲だろう」
「まあ、2はとらないでね。風子ちゃんは今日は来ないみたいだけど、何かあった?」
「わかったよ、別に何も無い」
僕はちゃちゃ入れられて勉強する気が失せた。
「そう? それならいいけど」
「出てってくれ」
「はいはい」
母が出ていくと、僕はベッドに倒れ込む。
♪
ケータイの画面が光った。葉阿戸の名前が出ている。
『もしもし、たい? クリスマスのナンパ企画の結果教えるのを忘れてた。8人の人にナンパされたよ。3人に立ちんぼだと思われて危なかったよ(笑)俺がネタバラシすると皆反応が同じで、前のめりになってええ!? 男なんですか!? って目を見開くんだよね』
『葉阿戸、頼むから危ない企画しないでくれ! 心配なんだ。ちなみにまだ好きだよ……って言っても腑に落ちないと思うけど』
『明日姉さんの毒牙にかかった獲物は横取りできないなぁ』
『じゃあなんで、昨日までは好きだったなんて言ったんだ』
『あー熱があって、心配かけたくなかったんだ。それと悪夢を見たんだ。明日姉さんに俺と君が追われて船に乗り込んで逃げていった夢』
『僕はあんたを救いたい。明日姉さんから逃げよう』
『何言ってるの? あ、姉さん! 何を』
葉阿戸の声がケータイ越しから遠くなるのがわかった。
『お仕置きで立ちケツ棒入れだな。たい』
『姉さん、立ちケツ棒入れとは?』
『その名のとおりだ』
『ああ! まさか葉阿戸のあれをケツに入れるんですか?』
『それはご褒美だな。そうじゃなくて、もちろん、ペニバンに決まってるだろ?』
『やめてください! 許してください。逃げようだなんて考えませんから』
『あーしから逃げようだなんて思うなよ。葉阿戸への罰は、親が買ってきた冷蔵庫の高級プリン食うから』
『姉さん、それでいいからもう、たいから身を引いてやってくれない?』
『せっかくこんな面白そうな奴、いじめない理由ないだろ』
『わかりました。明日姉さん今度、お話があります』
『そうかやっと、あーしの魅力に気づいたか? 紙持ってくからな』
『そうじゃなくて』
『ん? あーしを振ろうってのか? そんなわけないよなぁ? こっちは今すぐに会いたいんだが? あー、のどちんこが勃ちそう』
『いや、のどちんこは勃たないと思いますけど』
『まあいい。とにかくその首輪外したらわかるようになってるから。外すなよ』
『はい、それでは、31日に葉阿戸の家で!』
『ああ、たいはしばらく、別室の防音室でお仕置きな』
『何時集合にしますか?』
『たいは昼ご飯食ったらすぐ来い。茂丸君は16時に来いと伝えておけよ。じゃあな』
明日多里少に電話は切られた。
僕は葉阿戸の事が心配になる。
(僕だけが逃げたら、姉さんに葉阿戸が何されるかわからないし。大変なことになったぞ)
「やっぱり振ることは出来ないな」
僕はベッドの隅までごろごろ転がった。
(茂丸に16時に行くように伝えておこう)
メールを開き、宛名に茂丸を選ぶ。
『31日、葉阿戸家、16時集合。追伸……僕は姉さんにアナルファックされます』
そう書いて送った。
『ウケるんだけどwwww 何したん?! やられているとこ、俺も見てみたい』
『笑うんじゃねえ、本気で卒業してしまうんだぞ! 葉阿戸に逃げようと言っただけだよ』
『あー。本当は何時集合なの?』
『昼飯食ったらすぐに来いってさ』
『ご愁傷さま』
『なんで僕がこんな目に』
『葉阿戸に何かあったら困るから、仮病使わずにちゃんと行けよ』
『はーい』
メールのやり取りは僕で途切れた。
「ああ、なんかムカついてきた、首輪外すとどうなるんだろう。ジョ◯ョの”再点火したな!” みたいにスタンドが出てきそうだな」
僕の今日の収穫はここまでで、残りはいつも通りの1日を過ごした。
次の日の30日もすぐに時間が経っていった。
「糸でぐるぐる巻きにされて食べられちゃうかも?」
◇
そしてその次の日、僕は地獄行きの片道切符を持って、日余家に向かうのであった。
日余家の前に着いた。
赤いルークスが停められている。
この家にボスがいるぞと警告しているようであった。
チャイムを押す。
ピンポーン
がちゃ。
玄関のドアが開くと同時に、帰りたくなった。
「たい、待ってたぞ」
今日も赤い色のコーデの明日多里少がいた。赤い色のブラウスにジーンズ。赤いショルダーのカバン。
「赤が好きなんですね」
「ししし! 赤は血の色だしな」
「帰っていいですか?」
「はぁ? 君、何もしないで帰れると思ってるのかい?」
「はい?」
僕は恐怖で立っているのもやっとだった。
「まあまあ、姉さん、たいを怖がらせちゃいけないよ」
緑と青のマリンルックの葉阿戸が出てきた。
「葉阿戸!」
「茂丸もいるようだね」
「え?」
僕は驚いて体を回転させる。
「茂丸ー! バレてるよ!」
葉阿戸は僕の後ろに向かって叫んだ。




