63 冬休みののっけから映画鑑賞
次の日。
僕は6時に目を覚ました。
「学校、そうだ、冬休みかーzzZ」
僕はメガネもかけずに布団の中で丸まった。
「お兄ちゃん! 二度寝禁止」
風子がドアを思い切り開ける音と甲高い声は僕のすぐ近くにて響いている。
「風子ちゃん、インフルエンザ、治ったのか」
僕はまるで目を3の文字にしながら、起き上がる。
(眠い、どうにかして帰ってもらおう)
「そう言えば、火乃子ちゃんとは遊ばないの?」
「火乃ちゃん、スイミングスクール。ウチはお兄ちゃんの冬休みだから暇しないように来たわけよ」
「そう? じゃ僕は寝るから、30分したら起こして」
「二度寝はNGだってば。遊ぼうよ。ゲームしようよ」
「僕のほうが上手いよ。おやすみ」
「寝るなーー!!!」
「ぐええええ」
僕はお腹の上に風子が乗ってきたので悲鳴を上げた。
「ぷよ×2しよ」
「しょうがないな。まあ僕が勝つけど」
僕は渋々メガネをかけた。
「お兄ちゃんって目が小さいね」
「度が強いメガネかけてるからね」
「そのうち無くなっちゃうんじゃないか心配」
「いやそれはない。まずはご飯にしよう。風子ちゃんは食べた?」
僕はパジャマのまま下に降りる。
「食べたよ」
ブーブー
ケータイが音を立てている。メールだ。
「茂丸からだ」
『DVDそのままで返すの忘れてた、めんご☆』
『葉阿戸にメールしろよ、借りたの葉阿戸なんだから』
『葉阿戸と2人きりだとなんの話ししていいかわからんのどす。葉阿戸と家にきなはれ』
『それは確かに一理あるけど、今ちびがいるんだ。あんたにも会ったことあるよ、風子ちゃん』
『一緒に来ていいから、そうだ、お前の家の車でこいよ』
『仕方ないな、母さんに頼んでみる』
僕はしばし思案する。
(風子ちゃんの面倒、あの2人なら見てくれるだろう)
「ねえ、風子ちゃん、DVDの映画って知ってる? 友達の家に寄ってから、DVD、借りようと思ってるんだけど来ない?」
僕の問いに風子の表情は晴れた空のようになった。
「よし、そうと決まれば……! 母さん、悪いんだけど車出してくれない? 道は僕が教えるから」
僕は階段の上段から母に声をかけた。
「いいけど、たいちゃん、ご飯は?」
専業主婦の母は甘いので怒った姿を一度も見たことがない。
「食べる、トーストにして、車で食うから」
僕は葉阿戸の是非を聞かねばならないことに気がついた。電話をかける。
『もしもし、たい?』
『お、葉阿戸! 昨日さ、茂丸の家にDVD忘れたんだってな。今、風子ちゃんもいるんだけど、茂丸の家行った後、僕の家で映画見ない?』
『全然いいよ! 俺はどうすればいい?』
『DVD返して、新たに借りるから、返却用の袋を持ってきてほしい。金は僕が出す』
『はーい』
『後20分後に着くから、あ、明日姉さんには内緒でな。葉阿戸のこと妬まれたくないから』
『オッケー!』
『それじゃ』
僕はケータイの通話を切り、一段落ついた。
その後、ヒゲを剃ったり顔を洗ったりする。
チン!
トーストが焼けて飛び出してきた。
香ばしい香りが周囲に漂った。
僕は風子が下にいる間に着替え、下へ行き、パンを持ちながら、車に乗り込んだ。
「お兄ちゃん、目にも止まらぬ早さにぴよぴよだよ」
風子は助手席に乗った。
「目が回るね?」
「うん」
「出発するよ!」
母もワゴン車に乗る。
「出発おしんこーきゅうりのぬか漬けー!」
「シートベルト着けなね?」
「はーい」
風子は素直でいい子だった。
そして僕はと言うと丁寧に道案内が行い、茂丸の家までついた。
「おはよう、茂丸!」
「はようー、あ、風子ちゃん。お母さん、おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます!」
「茂丸、あんた今日は変なこと言うなよ」
「俺は変なことなんて言った覚えないぞ」
「茂丸の言うことはホラばかりで信用ならない」
「そういう事言っちゃうんだー」
「母さん、次の信号、右」
僕の頭のナビはしっかり機能していた。
日余宅まで着いた。
「おはよう、葉阿戸」
「俺らのこと、もう明日姉さんにバレてるよ?」
「え? まじ? ケータイハッキングされたのかな?」
「待って、明日姉さんってもしかしてたいの……これ?」
茂丸は白目を向きながら小指を立てる。
「そうだよ。僕の彼女だけど?」
「はあ? 葉阿戸の姉さん、かなりの美人だろ?」
「……、葉阿戸、ひょっとしたらこの首輪にGPSが着けられてるかもしれない」
「それなら、取れよ」
「それが出来たら苦労はしないよ。絶対に取るなって言われてるんだ」
「ちゃんちゃかちゃんちゃんちゃちゃんちゃちゃんちゃん、明日姉さんの腰ーコスコスしようと思ったら〜、先客がいるのでした〜、チックショー!」
「で、どうする? 葉阿戸は平気なのか?」
僕は茂丸を完膚無きまでに無視した。
「ここまで着けたし、DVD返す目的で出かければ」
「じゃあさ、俺らが返しといてやるよ。葉阿戸は家にいな。明日姉さんとやらに、俺らがあんまり仲良くしてると勘違いされるだろう?」
「それがいいや、葉阿戸、僕らが返しとくよ」
「いいの? ありがとう。無くさないでちゃんと返しといてくれよ?」
「はいよ!」
「お兄ちゃん、腰コスコスって何?」
「風子ちゃんは知らなくていいの!」
「ええー」
「動物の映画にする?」
「ウチは”戦場のピアニスト”が観たい」
「渋いね、風子ちゃん、何歳だよ」
「いいよ、それにしなさいよ」
「なんでその映画なの?」
「パパが勉強に観たら? って言ってたから」
「なるほど」
僕はやっと合点がいった。
その後、DVDをレンタルして、僕らは僕の家に集った。
「僕の部屋で観るか」
僕はDVDを持って2階へ。
「わーお兄ちゃんの匂いだー」
「朝からいただろ」
「朝からって何をしてたんだよ」
「いいから」
僕は大画面のテレビにDVDレコーダーを繋いだ。
「この特徴あるピアニストが印象的なんだよ」
風子は指差すのは面長な顔のピアノを弾く長身の男性だ。
ナチスドイツとユダヤ人の差別的な問題が取り沙汰されている。
なかなか見ごたえのある感動する物語だった。
「人に優しくした分だけ、返してくれる人もいると教訓でもあるな」
「そう思ったよ、クライマックスの演奏に感動だよ」
「そうだな」
僕はDVDを袋に戻した。
「返しに行くか、茂丸も送るよ」
「お前の母ちゃんがな」
「不機嫌になるなよ」
「あの日なんだから、しょうがないだろ」
「いや、あんたにあの日は来ないから」
僕は風子とともに下に降りていく。茂丸も少し迷いながらついてくる。
「お兄ちゃん、あの日って?」
「茂丸のことは気にしなくていいよ。……母さん、茂丸と風子ちゃんとDVD返しに行くから車頼むわ」
僕は母に手を合わせる。
「わかったよ、どっこらっしょっと」
母がこたつから出て、外に出た。
僕らも続いて車へ乗った。外は寒かった。
そして、葉阿戸の借りたDVDと、僕らが借りたDVDを返した。延滞金は少額とられた。
茂丸を家まで送った。
「お兄ちゃん、今度ぷよ×2をしようね」
「はいはい」
風子を送った帰りには僕はなんとなく疲れていた。
「母さん、31日に葉阿戸の家に泊まるから。朝、自転車で帰るね」
「いいけど、気をつけてね」
「うん」
僕は1日のルーティンをこなして、寝床で眠った。