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62 冬休みの始まり

しばらく待つとトレンチコートに白いマフラーを巻いた葉阿戸がやってきた。


「ごめん、お待たせ、待った?」

「よう、別に待ってないよ」

「茂丸の家ってちゃんと掃除してる?」


僕は悪口が口をついて出る。


「失礼なことを言うなよ、俺の部屋は麻婆豆腐の匂いがするけど、それ以外は綺麗だよ」

「俺汚い部屋は無理だよ。Gがいたらさっさと帰るから」

「それで姉は可愛いの?」

「俺に似てて可愛いよ。でもお前は彼女いるだろ」

「茂丸に似てるとか期待値下がったわ」

「ひどい奴らだな」


茂丸は眉間にシワを寄せている。

僕らは苦笑した。下駄箱から昇降口に出る。

外は凍えるような寒さだ。曇っていて太陽はお昼寝中なのか、出ていない。

自転車置き場に茂丸もついてきた。どうやら自転車で来たようだ。

僕は呆れ顔で茂丸の方を見た。


「あんたはまた、近いのに」

「まあ、いいんじゃないか?」

「行こうぜ」


そういう茂丸は先陣をきって、自転車を走らせた。

約3分、民家の前にいた。はっきり言うとボロ家。サビが広がっているトタン屋根が1箇所、風になびいてる。部屋は狭そうだ。

葉阿戸は少し物珍し気にしている。


「中は綺麗だぞ、……ただいま」


茂丸は構わずに入っていった。


「「お邪魔します」」

「おやおや。茂丸のお友達かね?」


白髪を1つのお団子にしている老人が顔を見せる。


「僕、茂丸君と同じクラスの蟻音たいと言います」

「いきなりお邪魔してすみません。俺は隣のクラスの日余葉阿戸です」

「お昼も食べていくかい?」

「それは悪いですよ」

「遠慮しないで、唐揚げたくさん揚げたから」

「あら、ありがとうございます」

「ところで茂丸の母さんと父さんと姉さんは?」

「仕事だよ。姉ちゃんは遊びに行ってんだろ」


円卓に座ると、ご飯と味噌汁と山盛りの唐揚げにレタスとキャベツのサラダが出てきた。


「「「いただきます」」」


食事はあっという間になくなった。


「「「ご馳走様でした」」」

「この後、ホラゲーやる?」

「やらねえよ。僕らは映画見たら、次はじゃいへのプレゼントを買いに行くんだから」

「ばっちゃん、映画見ていい?」

「ええよ」

「ここで観るんだ?」

「俺の部屋テレビ無いもん」


茂丸は手際よくDVDプレイヤーをセットしている。

ぱっと画面が切り替わって、ワーナー・ブラザースの紋章が現れて消えた。

ダークな世界観にきれいな目をした主人公に僕は釘付けになった。字幕版だったので英語の勉強にもなる。

その2時間22分は短く感じた。

葉阿戸は感動しているようだった。


「いやー良かったな、最後」

「ちなみに原作と映画だとラストが違うんだと」

「俺達にも希望が見えてきたよ」


窓の外は暖かい太陽光がさしていた。


「「お邪魔しました」」

「またおいで!」


茂丸の祖母に僕らは手をふった。


「じゃあ、次は駅ビルまで行くか」

「ここからだと20分位かかりそうだな」

「車もないし、喋ってたらすぐだよ」

「だな」


僕らは田舎道を時折、並列で駄弁りながら駅まで向かった。


「駐車場6時間100円かー」


僕は自転車を駐車した。


「仕方なし!」

「おう」


茂丸と葉阿戸も近くに駐めた。


「ドーナツでいいかな」と葉阿戸は呟く。


「いいんじゃない?」

「僕はブ◯ガリの香水にしよう」

「俺はこの四つ葉のクローバー持った豚の人形にしよう」


それぞれ買い物を済ますと、時刻は17時を過ぎていた。


「皆帰ろうか?」

「明日の終業式ダルい」

「頑張れ、茂丸」


僕は茂丸の肩に手を回す。


「男同士で掴むたぁ、俺のことが好きなのかぁ?」

「気合を集めてんだよ」

「ん?」

「じゃ、帰るぞ」


僕は自転車の精算機に100円玉を入れて、ボタンを押した。

3人は別々の道で帰っていった。



次の日。

今学期最後の日。


「ちゃんちゃかちゃんちゃん、ちゃちゃんちゃちゃんちゃん。茂丸の屁ーかと思ったら〜、ブーブークッション持ってる茂丸の屁ーでした~チックショー!」

「結局屁かよ!」


僕は廊下で満と茂丸といちと竹刀が集まっているところに遭遇した。


「ちなみにこの豚の人形は押すとブーブー鳴くが、ブーブークッションじゃないぞ」


茂丸は豚の人形の腹を強く押して鳴らす。

ブー!

僕の予想よりも高い声だった。


「ああ、なんで包装してもらったのを出してんだよ」

「皆に見せてから、じゃいに渡したくて、つい」

「なんかこの辺臭うな、茂丸、教室入れよ」

「いやだって、教室、椅子に座らないで廊下に待機するように書かれてるぞ。ロッカーは使っていいって」

「そうなんだ」


僕はチャイムがなるまで寒い思いをした。

キンコンカンコーン

橋本はスーツを着ている。深緑のネクタイだ。


「おはよう、今日は終業式だ。気を引き締めてかかれよ」


先生はくるっと振り返り歩を進めた。


「「「はい」」」


僕達も返事をすると、整列して歩き出した。

3組なので最後の方だ。体育館では真ん中の位置。ちょうどあの大会があった場所に座り込む。


「〜〜〜〜であるからして〜〜〜〜」


校長の長いスピーチも大詰めで、僕らはやっと冬休みがやってきた。


「じゃい渡したいものがあるんだ。今日、廊下で待ち合わせな。車に乗せてけとは言わないから安心してな」

「わかた! まてるだ!」


じゃいは巨体で暑いのか汗をかいている。

教室で通知表とクラスの順位が分かる紙が配られた。評定は4が多い。数学が5で現代文と古典が3だ。後は4だった。クラスの順位は3位だ。


「はいこれ、言ってた香水」


僕はオレンジの箱を白い紙で包装してある香水を手渡した。


「ありがとうだ」


「ちょっと開けちゃったけど、これは俺から」


茂丸も流れで豚の人形を渡した。


「ありがとうだ、可愛いだ」

「葉阿戸からもらった?」

「もう腹の中にごわす」

「そっか、じゃあ帰ろうぜ」

「じゃい、またな」

「うむだ。今年はお世話になりましただ」

「良いお年を」

「来年もよろしく」


僕らは挨拶して、そのまま帰っていった。


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