58 2学期、期末テスト返し1
キンコンカンコーン
「朝礼を始めますぅ! 皆さんおはようございますぅ! 今日からテスト返しがありますが騒ぎを起こさないようにぃ。ズボンとトランクスを集めてきてくだはいぃ」
宮内の”テスト返し”という声で身が引き締まった。
僕らはやっぱりフルチンになった。竹刀以外は勃っていない。
保健体育先生の山田が宮内と入れ違いできた。
「はい、それでは保健のテストを返すぞ、……蟻音!」
山田の1唱にビクビクしながらテストを受け取った。
(1教科でも負けたらジュース奢るよ、全部勝ってたらジュース奢れよって、茂丸と約束してたんだ)
「学年2位だ、よく頑張ったな!」
「ありがとうございます」
僕は素直に喜べなかった。
保健のテストは90点だった。
「学年1位だ、よく頑張ったな」
「いい勃起してたからかな?」
竹刀が照れながらテストを受け取っている。
「いい勃起ってなんだよ」
僕はどきりとする。
(茂丸じゃない! あー良かった)
しかしそれでも正直悔しかった。
山田は全員にテストは配り終わった。
「それじゃあ自習にするが騒ぐなよ」
「マジカルバナナでもするか? バナナと言ったらちんこ!」
茂丸はいきなり切り出す。
「ちんこと言ったら敏感!」
比井湖も悪乗りする。
「敏感と言ったら乳首!」
竹刀はいちの方に手を示す。
「はあ……?」
「おい、いち、いちの番だぞ」
「やめろよ、いちがそんな変な単語言うわけ無いだろ」
僕は止めようとする。
「いいよ、たい、乳首と言ったらピンク!」
「「「ふーん、いちの乳首ってピンク色なんだ」」」
「ほほう」
「ご馳走様でした」
「……ふう」
クラスの皆がニヤニヤしている。
「え? 皆、ピンクでしょ?」
「珍しいな。いちには後で見せてもらうとして、次誰だ、いち、指名しろ」
「え? じゃあ、たい」
「僕かよ! ……ピンクと言ったら桃」
僕は満と目が合う。
「桃といったら甘い」
「甘いと言ったらチョコレート」
「チョコレートと言ったら、バレンタイン」
「バレンタインと言ったらくたばれ」
「くたばれと言ったら、蟻音たい」
「いやいや、おかしいでしょ!」
「蟻音たいと言ったら包茎」
「もうやめて!? 大体、初っ端からおかしいのよ」
僕は机をバンバン叩いた。
「うるさいぞ、特に蟻音ー」
山田に僕は怒られた。
「僕が悪いのか?」
皆はシーンとした。
キンコンカンコーン
そのまま授業は終わった。
「次、現代文だな、たい」
「おう! 茂丸には負けないはず」
キンコンカンコーン
現代文のテストも名前の順に返された。
その後、自習となった。
「74か。茂丸は?」
「58」
「大分だな」
「うるせえな、世界史探求が大トリで俺を待ってるんだよ」
「僕に勝てると思ってるのか?」
「生物でマークミスしてれば可能性もあるからな」
茂丸は般若のような顔で僕を見た。
僕は対して興味も抱くことなく茂丸を眺めた。
「皆ー、いちのテストクラス1位だぞー、くらすいちだけに」
比井湖はいちの後ろからバラす。
「やめてよ、バラさないで!」
いちは点数のところを折った。
「何点?」
「92ってよー」
「カンニングかー?」
竹刀が隣からやじを飛ばした。
「してないよ!」
キンコンカンコーン
次は英語が待っていた。
「それではテストを返します」
またまた、名前の順でテストが与えられた。
「66かー」
僕はため息と一緒に言葉がでてくる。
「このクラスの平均は68点です」
和矢は僕を静かに見添える。
僕は夢中で歯ぎしりをした。それくらい悔しかった。
(後、1問、間違えていなければ。というか、70点以上のやつ居るのかよ)
「残りの時間は小テストを行います。皆さん、机のものをどかしてください」
和矢は真剣に言ったあと、テストを配りだした。
英単語の小テストだった。
僕はがんがん問題を解いていく。
「1番後ろから前の人に送って集めてください」
キンコンカンコーン
チャイムとともに和矢はいなくなった。
「たい、俺28点だよ」
茂丸が勉強を始めた僕の気をそらそうと変顔をしながら話しかけてくる。
「来年の一発目の定期テストで上位目指すからしばらく話しかけないでくれ」
僕はしばらく必死に勉強をする。
(勉強時間が足りてなかったんだな)
「たい、文章問題、解くスピードが遅いんだよ」
隣からブーイングが来た。王子だ。
僕の解答を見ていたらしい。
「よく考えないと理由がわからなくなるだろう?」
「そうだぞ、変なこと言うなよ王子」
茂丸も加わって王子に突っかかった。
「だってこいつのテストさ、律儀に1番から解いて、後の確実にとれる英単語書けてないんだよな」
「はう! 確かに」
僕は稲妻が走ったようだった。
「字も綺麗だし、羽目を外せよ」
「そういう王子は何点なんだよ?」
「俺、80点だけど?」
ひらひらと王子のテストは揺れている。
「くっそう!」
僕は王子の声と態度が頭にきた。
「臭えし、むかつく」
キンコンカンコーン
またチャイムがなった。
僕は生物の授業の準備をする。
(体感5分なのに10分、早いな)
土橋から渡されたマークシートの点は92点だった。
「えー、このクラスから学年1位の人が出た。92点だ。前回は88点で学年2位だった、拍手」
パチパチパチパチ!
僕は茂丸と目があってそらした。
茂丸は80点の解答用紙を握りつぶしていた。
「まあまあ、茂丸もすごいよ、80なんてなかなかとれないよ!」
僕は冷静になって茂丸を励ました。
「ちなみに次点は80点だ。前回は56点でクラスの平均だったが8人抜きを果たした。拍手」
パチパチパチパチ。
「茂丸、お前、勉強したんだな」
僕の声は茂丸に届いていないようで、茂丸はずっと下を向いていた。
科学組も先生が入れ替わり、テスト返しが始まった。
皆は一喜一憂していた。
するといきなり、宮内がやってきた。
古典のテストも返すようだ。
僕の点数は70点だった。
「くぅー平均点くらいか」
「平均点は63点ですぅ、それではぁ」
宮内は競歩のように颯爽と去っていった。
キンコンカンコーン。
しばらく経って、土橋がズボンとトランクスを返した。
「明日もテスト返しになるが、中だるみしないように、それじゃあ、また明日!」
土橋は僕達の椅子の固定を外して、帰っていった。