57 テスト返しが始まろうとしていた
「葉阿戸」
「たい、いらっしゃい」
図書室にはいつもの葉阿戸がカウンター席を独占していた。
僕はしばらく教本を探す。
「今朝の続きだけど、姉さんになにか問題でもあるのか?」
「姉さんは」
♪〜
ちょうど明日多里少から電話がかかってきた。
「ごめん電話だ。25日のクリスマスは僕と葉阿戸と茂丸と駅ビル見て回ろうな。……24日、姉さん何してるんだろう?」
「暇だろうから一緒に過ごせば?」
僕は電話がきているのを思い出すと、図書室を出ていく。図書室のドア越しに葉阿戸を見つめながら、明日多里少に電話を受けた。
『24……』
ボソリと唱えられた数字に僕は胸を躍らせた。
『え? もしかして姉さん、クリスマスのお誘いですか?』
『――分。何してたの?』
『えっと、束縛厳しいんですか?』
『厳しくないけど、男子校だと下品な話するだろ? クリスマス24は空いてるよ』
『姉さんのことはできるだけ内密に仲を深めようと思ってます。下品なネタで盛り上がってませんよ! クリスマスは一緒に過ごせますか?』
『いいよ、たいはひとり暮らし?』
『実家です』
『そっか、じゃ、ドライブデートする?』
『いいですね。しましょう』
『東京の方を行こう』
『その日午前中と次の日は学校なんですけど』
『じゃあ、埼玉の都市部でカニでも食おう』
『予約は?』
「君がするんだよ。金は出すから」
「わかりました。電話がすんだらメールください。そこの場所など、メールしますね」
「24日は学校前に行くから12時でいい?」
「予約入れて時間が決まり次第またメールします」
「じゃあな」
「はーい」
カニ料理店はすぐに見つかり、予約を電話で入れる。コース料理だ。1人8000円はゆうに超える。本店と書かれていた。
24日は夕方の17時15分に予約を入れた。
明日多里少にメールを送る。
返事は24日の13時に迎えに来るそうだ。
僕は再び図書室に入った。
「葉阿戸、お陰で予定入ったよ。ありがとう」
「俺、そんなに礼を言われることしてないよ」
「25日はどうする?」
「制服のまま、駅ビル行くんだったな、ご飯は向こうで食べるか?」
「そうだな、イタ飯にするか。廊下集合でいい?」
「うん、茂丸に廊下集合って話といてくれ、グッバイ」
「オッケ! じゃあ、またな!」
僕は帰る用意をして、出ていった。
「あ、葉阿戸に明日姉さんのこと聞くの忘れた」
僕は外に出てから気がついた。
(まあ、大したことではないだろう)
「服はどうしよう」
ポツポツ。
雨が降り出してきた。
冷たい水にあたりながら、家路を急いだ。
◇
次の日。土曜日。
勉強をして過ごした。
◇
その次の日。日曜日。
「母さん、悪いんだけど、またお小遣いくれない?」
「もう使っちゃったの? いいよ、はい」
母は僕に1万円をくれた。
そして、その日も勉強して過ごした。
◇
そうして月曜日がやってくる。
保育、現代文、英語、生物(科学)
合わせて4つのテストが返されるようだ。時間割は毎週変わり、先週の金曜日に張り出されるのだ。
僕は遅刻しないように20分も早く家を出た。
ブブ!
僕はおならが我慢できなかった。教室に誰もいないと思い、安心したのもつかの間、茂丸がまたもやカーテンの裏に隠れていたようだ。
「こっそり、屁ぇこくなよ」
ウサギ耳とサングラスをかけた茂丸が出現した。
「別にいいだろ。おならなんて空気と一緒なんだから。ところで何その格好? カーテンの裏で何してたんだ?」
「いや、いちをびっくりさせようと思って」
「あれ? そういえばいち遅いな? どうしたんだろう」
「おはよー」
前の扉からいちが入ってきた。
「噂をすれば」
「何してるの?」
いちは明るい声で聞いてくる。
「いや、茂丸がいちを驚かせようとしてたんだって」
「え、また!? うちのリアクションが面白いとかいって、最近驚かせてくるんだ。金曜日なんかは全裸で、血に見せかけたケチャップ塗って、うちの机の前に倒れてたり」
「いいリアクションするんだよ。たいのせいで今日は不発だったけど」
「もうやめてくれない?」
「どうしよっかなー」
「これからは僕が早く来るから大丈夫だよ、いち」
僕はいちに笑いかける。
「ありがとう、たい! うちも遅く来るようにするよ」
いちも笑って答えた。
皆続々と登校してきた。
そして、本日から地獄のテスト返しが始まるのであった。