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54 満ち満ちた恋

「あー、別に? 俺、葉阿戸だし? 行こうよ、ラブホ♡」


葉阿戸の発言に、僕は頭を振った。

(葉阿戸だけど、葉阿戸じゃない。何だこの違和感は?)


「あんた、葉阿戸じゃないだろ?」

「は、あ、と、だよ?」

「失礼!」


僕は葉阿戸の髪を根っこから掴んで、持ち上げた。

長い髪が離れる。カツラだった。黒い短髪をネットに入れているようだ。


「ちっ、バレたか」


いつもの男声じゃなくなった。ドスのきいた女性の声だ。しかし、顔は葉阿戸と瓜二つだ。


「誰ですか?」

「あーしは葉阿戸の姉の日余明日多里少(アスタリスク)


明日多里少はネットをとって、髪の毛を手櫛でとかした。


「葉阿戸に姉なんていたのか?」

「ライター持ってない? 一服してえな」

「コンビニまで話しましょう?」

「しゃーねえな」

「あの、いつから葉阿戸は明日多里少さんに?」

「明日姉でいいよ。いつからだと思う?」

「僕のクラスの前にあったタバコって、まさか明日姉さん?」

「ししし! そうだよ。あーし。あの学校さ、イカれてるよね? ムカつくからタバコその辺に捨てまくっておいた」

「ということは朝から? 本物の葉阿戸は何処へ?」

「昨日から体調を崩してる。昨日から明後日まで大学が休みだから、葉阿戸のテストは替え玉してるのさ。家庭科も保育も前日に一夜漬けしたよ」

「じゃあ、僕は葉阿戸に告白の返事まだ聞いてないんですね?」


ウイイイン


僕らはコンビニに入った。


「いらっしゃいませー」

「ラキストとライターください」


明日多里少はこなれた様子でタバコを買った。


「ありがとうございましたー」

「葉阿戸はお姉ちゃんみたいな可愛い子が好きって言ってんだろ?」

「お姉ちゃん? それは初耳です」


僕らは自転車の前まできて店の壁に寄りかかった。


シュボッ

スーーハーー!


明日多里少は一服し始める。


「葉阿戸の見舞いに行っても良いですか?」

「あの子のことだから断られるよ。今日はゆっくり休みな」


明日多里少に僕の顔はタバコの煙を当てられる。


「行きたいです、本当の葉阿戸の顔を見たいです」

「じゃあ、ボカリシウェットとゼリー飲料、買ってきな。この金で」

「ありがとうございます、姉さん」


1000円札を胸に、僕は心の底からお礼を告げる。


「家の場所は?」

「わかります」

「さみーし、あーし、先に帰ってっから」

「はい」


僕が買い物から帰って来ると、明日多里少は自転車に乗っていなくなっていたようだった。

なので、僕は記憶を頼りに葉阿戸の家まで向かう。途中、大きなラブラドールレトリバーに吠えられてドキドキした。

(それにしても寒い。雪が降りそうだ)


そうして、たどり着いた大きな家。前は気にしてなかったが、赤いポストが可愛い。そして3台ほど入りそうな駐車場に1台の赤い車、ルークスがあった。

僕はためらいがちにチャイムを鳴らした。

ピンポーン


「はい」

「葉阿戸さんの同学年の蟻音と申します。お見舞いにきました」

「たいか、今体調崩していて。ごほん!」

「渡したいものがある」


僕は無理を言って玄関先まで葉阿戸に出てきてもらった。

がちゃ

葉阿戸の顔が青白い、咳をしていた。


「葉阿戸だ! 明日姉さんじゃないよな?」


僕はコンビニで買ったものを渡した。


「明日姉さん? 姉さんのこと、なんで知ってるんだよ?」

「心配したぞ! 替え玉作戦なんてしなくても良かったのに」

「……それはっ! 俺はそんなつもりじゃ……。ごめん、姉さんと話すから帰ってくれ、ドリンクとゼリー飲料、ありがとう」

「告白の返事は?」

「ごめんなさい。俺は可愛い女の子が好きなんだ」


葉阿戸はそういう人間だと分かっていた。

僕は夢を見すぎていたらしい。

(情けないな)


「お姉さんみたいな?」

「違うわ! 家族なんて好きじゃないね!」

「お大事にな」

「またね」


葉阿戸はクシャッと笑うと、家に入っていった。

僕は涙で前が見えなかった。

(僕の初恋も終わりか)

がちゃ

「泣くな、たい君、お姉さんと一発どう?」


ショートカットの葉阿戸に似た人物が出てきた。


「葉阿戸の格好で声も野太い声してくれるならありだな。ああ、なんでさっき気がついちゃったんだろう」

「そういう運命だったの。おいでー、カイロ、腹に張ってあって暖かいぞ?」


明日多里少は僕をぎゅっと抱きしめた。


「暖かい、うああああああん」

「君さ、童貞? 筆おろししてあげようか?」


明日多里少はべろで唇をぺろりと舐める。


「姉さん、お願いします」

「車出してやるよ」

「姉さんの車なんですね」

「そうだぜ? 最近、同棲していた彼氏と破局して、フリーだからちょうどいいな」


それから、車はラブホの駐車場へと入る。

僕らはベッドになだれ込んだ。

母に”今日は友達の家に泊まること”にして僕らは情事にふけった。

夜は更けていった。




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