53 期末テスト4
次の日。
「テスト最終日じゃー!」
僕は勢いよく起きた。同時に尿意をもよおす。時間は5時30分を過ぎたところだ。あそこに朝立ちしてるところ悪いが、小便を出させてもらった。テントが畳まれたので、勉強を始める。保健体育でこんな問題はでないだろうと少し笑い声が出る。
「くくっ、今日も宜しく頼むぞ、じゃあな」
2時間後、シャーペンに別れを告げて、筆箱にしまった。学ランに着替え、下に降りていった。
「風子ちゃんは?」
「インフルエンザだって」
「ええ? まじで?」
「大マジだよ」
「今日はマスクしていこう」
「ハムエッグとトースト焼いたよ」
「どうも」
僕は急いでパクつくと、マスクをして家を出た。
「行ってきます」
「行ってらー」
母の声に勇気をもらい、自転車にまたがった。
「ライフステージ、胎児期、乳児期、幼児期、児童期、青年期、壮年期、高齢期。アイデンティティは自己統一性、自己の環境や時間の変化にかかわらず連続する同一のものであること〜〜〜〜」
学ランでなければ不審者に間違えられそうなほどぶつぶつ言っていた。
「おはよう、茂丸」
「はようー、たい」
茂丸は廊下に3組の人と屯していた。下ははいていない。
「どうしたんだ」
「タバコの吸い殻があってな」
「吉美市先生のじゃね?」
「吉美市はタバコ吸わないと思うんだけどな」
「おそらく、上級生のだと思うよ」
「あ、いち、おはよう!」
キンコンカンコーン
「あ、やべ、ズボンとトランクスを回収するんだった」
僕は教室にて、早急にズボンとトランクスを脱いだ。
がらら
「おはようー、えー、外にあるタバコの吸い殻はー、第1発見者の証言を求むー。それではズボンとトランクスを集めてこいー」
担任はズボンとトランクスを集めると、辺りを見渡した。
「うちが第1発見者です。うちが登校して、廊下の隅にあるタバコを見つけました。そのタバコはまだ温かかったです。先生がいちいちこの校舎の隅で吸うとは思えません。上級生が見せしめに吸ったと考えられます。今や、大会のことでヒートアップしているので」
「ウチのクラスではないよなー」
「竹刀君や比井湖君は不良に見えるけど、そんな事しません」
「いいやー、とりあえずー、最後のテストー、気合入れてけー。じゃなー」
担任とすれ違うのは、家庭科の若い先生であった。
「テストを配ります。カンニングをしたら、分かってますね?」
脅しをかけるように言うと、家庭科の問題用紙と解答用紙を配った。
「始め!」
そのひと声で、難しいテストは始まった。
点線で結ぶ問題が習ったとおりに出てきた。
僕はよく昨日の勉強を思い出してかきこむ。
やはりと言ったところか、僕の苦手な文章問題が出てきた。
出来る範囲で頑張った。
キンコンカンコーン
「はい、終了! 後ろの席のひと集めてきて」
若い先生は解答用紙をもらって、僕らの足の拘束を解くと、出ていった。
「しんどー」
竹刀がギョロついた目で僕の方を見た。
「たい、お前出来た?」
「出来ないよ」
僕は反射的に答える。
(自己採点、78だけど)
「よかった、俺らも救われたな」
全員廊下に出て、おしゃべりをしている。
「保健体育が実技なら勝ってたなあ。心臓マッサージとかいちにやりたい」
「竹刀君、そういうのいいから」
いちはそれだけ言うと、保健のノートを読む。
「つまんね」
「つまんなくて結構、コケコッコーだよ」
「いちの家鶏飼ってるんだよな?」
僕はいちをフォローする。
「ひよこから飼ってるよ」
「ぴぴちゃんだっけ?」
「たい、なんでうちの家の鶏の名前知ってるんだよ」
「前に茂丸に聞いた」
「話したっけ?」
「言ってたよ」
茂丸も話し合いに参戦する。
「いつ?」
「初めて話したときに」
「思い出せないや、まあ、いいや、それより保健の勉強しなきゃ」
「よくねえよ、チューするぞ!」
「茂丸、殴られてえのか?」
竹刀が握りこぶしを見せる。その拳は普通の人と比べて、一回り大きい。
「うちの鶏に突かせるぞ」
「いちさぁ、守られてると思わないほうがいいぞ」
「別にそんなこと……」
キンコンカンコーン
「教室に入ってください」
和矢の声がするも、1年1組に入っていった。
3組の監督は山田だ。
「皆、悔いの残らないように、最後まで諦めないこと! やればできる!」
山田は熱く語ると保健体育の解答用紙と問題用紙を配った。
「テスト開始!」
山田はパイプ椅子に腰掛けてこちらにガンをたれる。
僕は80問ほどのテストをスラスラ書いていった。覚えてきた単語が虫食い問題で出される。すぐに終わり、自己採点に移る。
(90超えるかもしれない)
ぷう。
前の方でおならの音が聞こえた。
「ふふっ」
僕は笑いがこらえきれず笑ってしまった。
「生理現象を笑うんじゃない!」
山田に怒られた。
怖かった。
キンコンカンコーン
チャイムがなり、黒く染まったその解答用紙を無事に山田の元へ届けた。
がらら
山田は出ていく。
次はラストの古典のテストだ。
担任は音も立てずに入り、先ほどまで山田のいた教卓の前まで来た。
古典のテストが配られた。
僕は必死になって解いた。
キンコンカンコーン。
「はいー、それでは集めて、終礼するー、その前にズボンとトランクスを返却するー」
テストが集められる。前の方から、ズボンとトランクスがまわってきた。
「明日は金曜日ー、冬休みまで4時間授業になるがー、浮ついた気持ちで受けるなよー。解散ー」
がらら
担任は僕らの足の拘束を外して、すぐさま出ていく。
「さて、葉阿戸から、メッセージきた?」
「流石にまだ早いよ」
僕らはズボンとトランクスを着る。
ブーブー
「ぎゃあ! きた!」
僕はケータイのメールの音にびっくりする。
「じゃあ、俺は帰るな」
「待て! せめてメール見るまで傍にいてくれ」
僕は勢いをつけて葉阿戸と書かれたメールを開く。
『たい、図書室の前で待ち合わせ。宜しく』
「うお! 良かったな、たい」
「静かにしろ! 目立ってるから。まだ(告白の)返事じゃないし」
「何の話だ?」
「勃起マン、いや別に大した話じゃないよ、行こう茂丸」
「俺もついていくの?」
「いいから」
「はーちゃんからか?」
「はっはっは」
僕は竹刀を笑いながら受け返して、教室を出ていった。
「メガネ変じゃない? 息臭くない? 歯になにか挟まってない? 鼻毛は?」
「大丈夫だよ。じゃあ、俺は先に帰るから、後で報告しろよ」
「うん、だめだったら電話するからゆっくり帰れよ」
僕はドキドキしながら図書室への階段を上った。
「葉阿戸、お待たせ」
僕は葉阿戸がついたての後ろに居るのが分かった。
「たい?」
「僕、葉阿戸のことしか考えられないから」
「ちょっとまった!」
突然現れた竹刀も葉阿戸に向かう。
「俺もはーちゃんの事が好きだ、昨日のこと、俺聞いちゃったよ、たいが嫌なら俺を選んで欲しい」
ガターン!
「まてぃ! 勝手に告白するんじゃない! 葉阿戸様とは幼稚園の頃から一緒だったわたくしが伴侶になるんだ。そうですよね、葉阿戸様」
モンが図書室から出てきた。
葉阿戸は呆気にとられて、黙ったままだ。
「俺、たいと付き合いたい。たいが可愛くて仕方ないんだ。後の2人は友達でいてほしい」
「本当に?」と僕。嬉しい気持ちもあるが、残りの2人に同情する。
「バカなのが玉に瑕だけどね」
「うわあああん、葉阿戸様! 蟻音君に呪詛するぞ」
「おめでとう、たい」
「絶対に認めない、ぜーーったいに許さない」
「おい、モン、お前も男だろう、諦めが肝心だぞ」
「どうやって呪おうか……」
「モン、たいにも俺にも、変なことしたら、朝日を拝めなくしてやる」
「すみませんでした! 葉阿戸様の仰せのままに!」
「それじゃ、一緒に帰ろう! たい。じゃあね2人とも、また明日!」
「う、うん」
僕は歯切れの悪い返事をした。一歩も動けなかった。
「さあ」
葉阿戸は僕の指に自分の指を絡ませた。
「ずっと、こうしたかった」
「いつから、僕のこと好きだったの?」
「最初は別に好きじゃなかったけど、焼き肉美味しそうに食べるなーって思って、そこから転げ落ちるように好きになった」
葉阿戸の言葉とともに頬が緩む。
マスクをしていて良かった。
階段を降りると、葉阿戸はいきなり振り返った。
「ちょっときて」
葉阿戸の近くまで来ると、葉阿戸は僕を思い切り引っ張った。
そこは不思議な空間だった。元はトイレのあった場所だ。
ちゅっ!
僕はマスク越しにキスをされた。
「う、何を!?」
「行こう!」
葉阿戸は僕の左手を、右手と絡ませる。
その15分後。
「1度は行ってみたかったんだよな!」
葉阿戸はホテルの前で自転車を止めた。
「今日の葉阿戸、少し変だよ、どうしたんだよ!? しっかりしろよ」