52 期末テスト3
次の日。
夢を見ることはなかった。
「お兄ちゃん、今日も早いね」
「まあね」
僕が髭を剃っていると風子が訪問してきた。
「火乃子ちゃんの件聞いた? リカちゃんを預かってほしいって」
「うん、聞いたよ、ママもいいって」
「そりゃ良かった、寒いでしょ! こたつに入ってな」
僕が言う前に、すでに風子はこたつで溶けてしまったかのようにぐったりしていた。背負っていたリュックはこたつの上に置かれている。
「たいちゃん、今日は雑炊でもいい?」
「好きにしてくれ」
僕は、舞茸や卵などの入った雑炊をこたつで食べた。
その後はコートを着て、至って普通に登校した。
教室に行くと、廊下へ使わないものを出しておくように注意書きがしてあった。
「勉強しないと」
「たい、おはよう。今日は早いね」
後になっていちが入ってきた。
「すっかりいちと早さ、交代してたね」
「まあまあ、音楽の勉強してるの?」
「うん、音楽、中間テストの時舐めてかかって痛い目見たからね」
「あ、そうなんだ。うち、技能教科は結構得意だよ」
「ふうん、そっか、お互い頑張ろうぜ」
僕の周りのクラスメートも入室してくる。
「おっす」
「おお」
「たい、昨日、葉阿戸が」
茂丸の発言に僕は驚く。
ドン!
僕は机を叩いて制した。
「もっと小さな声で話せよ」
「わり。昨日葉阿戸が、クリスマスどうするのかって聞いてきたんだけど、お前約束してなかった? 25日暇なら会いたいって。やっと俺にも春がきたよ……って何死にそうな顔してるんだ」
「25日は僕と約束してたはずなのに」
僕は小声で話す。
「嫌われたんじゃね?」
「今日、電話して聞いてみるよ」
「いや、でないと思うが」
「じゃあ校門の前で待ってる」
「俺もいかなきゃダメ?」
「ダメ!」
キンコンカンコーン
担任が来て、ズボンとトランクスを回収していった。
数学のテストは山田が監督を務めた。
僕のテストは上々の出来だった。最後までうっかりミスがないように見直した。
キンコンカンコーン
解答用紙を提出して、10分の休息がもたらされた。最後まで音楽の単語を頭に入れておく。
キンコンカンコーン
僕らは教室に再び入った。
伊祖が監督だった。
音楽は時代背景などを口頭で話していたようで、いちのノートは役に立った。音符の種類などの問題は見落としていて、難しかった。
キンコンカンコーン
担任と伊祖は入れ違いになった。
「はいそれでは、ズボンとトランクスを返すー。明日は最後の期末テストだー。保健体育、家庭科、古典、思う存分勉強してくれー、はいそれでは解散ー」
担任は僕と目が合ったが、何事もなかったかのように出ていった。
「すぐに行こうぜ、たい」
「お、おう」
僕らは校門で張り込む事にした。
僕は葉阿戸に裏門から逃げられないように茂丸と自転車の影に隠れる。
その時は意外と早くやってきた。
「よお、葉阿戸」
「やあ。何してるの?」
「ちょいちょい! たいのやつが話があるって!」
「たいとは絶交する」
「なんでまた」
「俺の気持ちを踏みにじったから」
「好きだ! 僕、葉阿戸のことが好きだ! 傷つけてごめん」
僕は茂丸の後ろから前に出てきた。
葉阿戸は自転車を転がしていた。
「はぁ?」
「葉阿戸の事が好きだ!」
「知ってるよ?」
「付き合って下さい」
「どうしてこんなところで、皆が見てるだろ!? 大体、絶交するって言ってんだろ」
「絶交しないで下さい。何度でも謝るし感謝の言葉も忘れないから」
「誠意はこもっているんだろうけど」
「ごめ……、あれ……なんでだろ」
僕は涙で頬を濡らしていた。
「2人ともちょっとついて来てくれる?」
葉阿戸は首を傾げて、目を細めて無理に笑う。
「「え?」」
葉阿戸は自転車に乗り、走り出した。
僕は訝しげに思った。
(このまま逃げるのでは?)
しかし、葉阿戸は時々、後ろを気にする。
「たい、大丈夫か?」
茂丸は大きな声で後ろを走る僕に言う。
「だいじょばないよ、振られたんだ」
「まだ返事はしてないだろ」
ついた場所は喫茶店だった。ぽつんと建っている。
自転車置き場に自転車をとめる。
時間は11時。
「ここ、お気に入りの場所なんだ」
「どういうわけで、こんないい場所に?」
「クリスマスさ、3人で出かけようと思ってる。たいが泣いているのもなんかやだし。それでいい?」
「いいよぉおおお」
「いいぞ」
「告白の返事、俺も昨日までたいのことが好きだった、でも俺の悪口言うし俺のこと嫌いなのかなって」
「僕は、ずっと! 始めて声をかけてくれた瞬間から好きだ」
「明日、テストが終わるまで待ってくれ、考えるのはその後だ」
「じゃあ、もしオッケーなら、たいと葉阿戸2人でクリスマスデートしろよ! 俺が気まずいから」
「うん、寒いから中入ろうよ」
「おう」
3人は起き看板がおいてある、その喫茶店に入った。スペイン風の喫茶店だった。
葉阿戸はテーブル席のソファに腰掛け、茂丸と僕は椅子に座った。
「アヒージョ3つ、ピンチョス下さい」
「はい」
カタコトの日本語の店員と、葉阿戸は親しそうだ。
店は混んでいる。お昼時だからだろうか。
「お待たせしました」
串が刺さったパンの上に具材の乗った料理が出てきた。
「ありがとう。いいか? 端から、ツナコーンピンチョスイタリアンパセリ添え。サラミとチーズのピンチョス。茄子と黒ごまとトマトのピンチョス。生ハムとポテサラのピンチョスイタリアンパセリ添え。いちごクリームチーズのピンチョス。美味しそうだろ?」
1種類3個ずつ並んでいる。
「食べていいのか」
「どうぞ」
「「いただきます」」
3人はピンチョスを食べた。
「お待たせしました、アヒージョです」
そのにんにくがきいている鍋の中身は魚介類を中心にエビ、タラ、牡蠣、マッシュルーム、野菜など多種多様だ。
「この鍋はカスエラという鍋だよ。具材をそのまま食すのと合わせ、必ずバゲットをオリーブオイルにつけて食べるんだ」
葉阿戸の声を聞きながら、僕はスプーンですくって食べる。
「程よい塩分と、ぷりぷりしたエビがちょうどいい。美味しいです」
「食レポはいいんだよ」
僕らはガツガツと食べる。
「「「ごちそうさまでした」」」
「じゃあ、帰るか。たいも元気になったようだし。昨日のことはよく反省してくれよ」
「ひどいことを言ったと思っています。すみませんでした。ここは僕が出します」
「分かった、ありがとう、たい」
「たい、ゴチになりますー」
「5133円になります」
僕は貯金からギリギリ出せる金額でホッとする。
「ありがとうございましたー」
「それじゃあ、僕はこれで」
「俺もこっちだよ」
「俺は反対だ」
葉阿戸は反対方向へ方向転換する。
「気をつけて帰れよ」
「明日のテスト、頑張ろう」
「君達もね。またね」
葉阿戸と僕らは別れていった。
「まさか告白するとはな」
「僕だって、こんな事言うとは思わなかった」
「まあ公認の関係になれるといいな」
「うるせ! 別に告白くらいしてもいいだろ」
僕は物思いにふけっていた。
「誰かさんのお陰でテストの順位上がりそうだな」
「どういう意味だ」
「別にー」
「言っとくが僕は保育も家庭科もテスト落とすわけがないから、茂丸に勝てるわけ無いだろ」
「何だと?」
「1教科でも負けたらジュース奢るよ、全部勝ってたらジュース奢れよ」
「いいよ、その勝負乗った! じゃあ、俺は図書館で勉強するから」
「おう、またなー」
僕は茂丸と別れて家までテストのことを考えた。
「ただいまー」
「おかえり。ご飯は?」
「食ってきた」
「そう? じゃあ夜はチャーハンね」
「うん、好きにして」
僕は2階に上がり、保健体育と家庭科の教材を読み漁る。暗記教科だ。案ずることはない。
保健の教材をよく読み、適当に赤ペンで単語を書いていき、赤い半透明のシートで復習する。家庭科も同じ様に暗記していった。
5時間と20分経過して17時、腹が減ってきたので、下に向かった。
ご飯を食べて、お風呂に入り、歯を磨く。
今日も早寝早起きを心がけ、就寝した。




