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51 期末テスト2

僕は憂鬱な気分で帰宅する。


「ただいまー」

「おかえり、たいちゃん」


居間の方向から上機嫌な母の声がする。


「風子ちゃんは帰ったのか?」


僕はリビングに入った。

居るのは母だけだ。


「風子ちゃんなら帰ったよ」

「そう? ふー」


動揺を悟られないように大きく深呼吸をした。

(風子ちゃんと来たら嵐のようにきて、嵐のように去っていく)


「お昼は何がいい?」

「回鍋肉」

「買い物行ってくるね」


母はそれだけ言い残して家を出ていった。

僕はカップのアイスを冷凍庫から見つけて、こたつに入りながら食べる。そのバニラ味のアイスで頭がキーンとした。それでも美味しくてすぐに食べ終えた。

僕は明日のテスト勉強の配分を考える。

(大本は英語かな、勉強サボりがちだから)

とりあえず、リュックから英語の参考書を出して読んでみる。この本は入学したてに買った大切な本だ。あちこち折れたり、アンダーラインが引いてあるそれを、読みふけった後、英単語も覚えていく。


「世界史に移ろう」


僕は2階に上がろうと廊下に出ると、母の帰宅する姿があった。

がちゃ、がらら


「たいちゃん、あと30分待ってね」

「いつでもいいよ」


僕はボソリと呟いて2階に行った。

(ハチマキを巻いて頑張ろう)


毎日のルーティーンに加え、世界史探求の暗記問題と英語の問題を頑張った。



次の日。

僕は徹夜していた。下へ降りていくと、風子の来る時間と重なる。


「およ? おはよう、お兄ちゃん、今日は早いんだね」

「オールで勉強したから」

「そんなにウチに起こされたくなかった?」

「母さん、今日の朝ご飯は?」


僕は風子から目をそらす。


「お茶漬けでいいかな?」

「好きにしてくれ」

「叔母さん、お兄ちゃんが冷たい!」

「思春期なのよ、放っておいていいよ。風子ちゃん朝ご飯食べる?」

「食べる」

「蒸気機関の実用化のニューコメン」


僕はご飯を食べると、すぐに髭を剃りに行った。


「ジェニー紡績機のハーグリーヴス、ミュール紡績機のクロンプトン、綿繰り機のホイットニー、コークス製鉄法のダービー〜〜〜〜」


僕は呪いのようにブツブツと口から情報を吐き出す。そうして覚えたのを確認する。


「たいちゃん、行ってらっしゃい」

「カートライトが力積機!」


「お兄ちゃんが壊れた!」という風子の事は僕は極力かかわらないようにした。


自転車に乗り、ぶつぶつ、暗記した内容を呟く。

(早く、世界史探求のテストにならないかな)


僕はテストまで時間を忘れて、暗記した。




「それではぁ、テスト開始ぃ!」


宮内は煩わしい声で、開始を告げた。

僕は知っている単語を穴埋めクイズを解いている感覚で埋めていった。

(できるできる、うまい! うまい!)


世界史探求をゲームのようにスイスイと問題を解いていく。知らず知らずのうちに、恍惚な笑みを浮かべていた。それに気づいたのは宮内が首を傾げたからだ。

そしてその解答用紙の白い色がほぼ黒い色に変わった。


キンコンカンコーン


「後ろから集めてくらはいぃ!」


宮内の騒々しさに嫌気が差しながら、僕は解答用紙を集めて、宮内に届けた。


「次は英語だぞぉ、グッドラックぅ!」


宮内は出ていく。

僕は2、3発どついてやりたかったが止めた。

(それにしても気分がいい! 朝はどうなることかと思った)


世界史探求の覚え方を今更ながら塾組が語っている。

僕は塾に行っている人に負けたくなかった。塾に行っていないから出来ないなどと、言い訳にしたくなかったのだ。


「たい! 世界史探求できた?」


葉阿戸だ。膝掛けを腰に巻いている。おそらく陰部を隠してるということだろう。


「ばっちり!」


僕は満面の笑みを見せる。


「英語は勉強したから出来そうだな」


そういう葉阿戸に僕は(大事なところ隠さなくてもいいのに)と思った。


「あ、もしかして、いぼ痔だから、見せないようにしてんのか?」


スパーン!

音を置き去りに葉阿戸にビンタされた。

僕はその突飛の行動に尻餅をついた。

(大して痛くない……)


「君に俺の気持ちがわからないだろうな」

「ご、ごめん」

「おい、なんで葉阿戸様のトップシークレット、てめえが知ってるんだ?」


白髪の混じった生徒会の副会長がしゃしゃり出てきた。


「モン、いいんだ。確かにその通りだ」


葉阿戸は悲しそうに隣のクラスへ入っていった。モンを含めた2組の何人もが、僕を睨みながら教室に入っていく。

僕の失言は3組の連中に聞かれていた。


「日余さんになんてことを」

「痔だったんだ。可愛そうに」

「お前さ、バカだな」

「茂丸には言われたくない」


僕は言い返すと、やさぐれて教室に入った。席には花瓶だの落書きだのされてなく安心した。いつどんなことからいじめが始まるかわからない。


がらら


和矢が入ってきた。

皆は喜んで視線を合わせているが、僕は思ったほど、嬉しくはない。対照的に心にぽっかり穴が開いているようだった。


「配ります、皆さん、カンニングはしてはいけません。…………それでは、テスト開始!」


カリカリ。

テストが始まった。

僕は覚えたことをアウトプットする。後は時間との戦いだ。しかし、何度もスペルを間違えた。それでも、あがいて見せる。何度も、何度でも。


キンコンカンコーン


まだ4分の3を解いた段階で、非情にもチャイムがなった。


「後ろから集めてきなさい」


僕は仕方なく前に持っていく。

(70くらいかな、くっそー、多分、英語は今回難しかったので平均は低いとは思うが)

いくら悔やんでも、勉強は続けないといけない。

葉阿戸にも嫌われて、モチベーションは下がる一方だ。


「ああ、難しかった、俺まったく勉強してないぜ」


王子が涼しそうに言った。


「その顔は出来なかった奴の顔じゃねえ!」


竹刀は卍固めを王子に繰り出す。


「痛い痛い! おちんちん当たってるって」


キンコンカンコーン


「早く教室に入れー、……それではズボンとトランクスを返却する。前の人からとって後ろに回せー」


担任は少しの間を置く。


「明日は数学と音楽(美術)のテストだー。完徹して勉強するなよー、気をつけて帰れよー。解散ー」


担任は出ていった。

僕らも寝たくてさっさと外へ行く。


「じゃあ、明日も気張ってこうぜ!」

「おう、またなー」


僕は茂丸と別れて、家路を急いだ。

空は曇り空で、また雪が降りそうな天気だった。

いくつもの足跡がある道を自転車で通った。


「ただいまー」

「おかえり」

「おやすみー」


僕は2階の自室のベッドに倒れ込んだ。

夢は見なかった。



15時頃、空腹で目を覚ました。


「母さん、なにか飯はー?」

「焼きそばでいい?」

「好きにしてくれ」

「後2日、頑張ってね」

「ありがとう、僕、東京の大学に行きたい」

「1人暮らしするんでしょ。今のうちにアルバイトでもしたほうがいいんじゃない?」

「そうだね、だけどさ、この辺駅の周辺位しかバ先なさそう」

「いいじゃない、働きなさいよ」


母の言葉に苦虫を噛み潰したような顔に変わる僕。


「そうすると、知り合いに遭遇するからなあ」

「スーパーの裏方なら大丈夫でしょ」

「ああ! 確かに! じゃあ2年生になったらやるよ」

「いいんじゃない?」


母が料理を運んできた。


「いただきます」


もやしやネギや肉が麺に絡んでいて美味しい。


「ごちそうさま」


僕はすぐに食べ終わった。


「よく噛んで食べないと太るよ」

「もう遅いよ」


僕は2階に上がって、勉強を始めた。

(数学はクラスで1位とるぞ!)


そう思ったが、葉阿戸の事が頭から離れない。


「うおおおおお」


僕はハチマキを裏返すと、”数1、1位とったら葉阿戸と付き合える”と書いておでこに縛った。

その甲斐もあり、数学の勉強はスラスラ解け、音楽の勉強も分かってきた。

気がつけば、19時を迎えようとしていた。

ご飯は刺し身を食べて、風呂に入って、歯磨きして、今日は早く眠った。

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