50 期末テスト1
次の日、テスト当日だ。
僕は慣れない遅寝早起きに体がついていけるか不安だった。
「お兄ちゃん」
「うーん、眠い」
「お兄ちゃん! 遅いぞ!」
カーテンが開かれる。
明るい世界に僕は意識が朦朧としていた。
(この声、気配は……)
「風子参上!」
ジョ○ョ立ちのような格好良いポーズで僕の前に立ちはだかっている。
「何故?」
「これから毎日起こしてあげるよ」
「嫌だああああ!」
「冗談、テスト期間中だけだよ」
「昨日会ったばっかりじゃん? なんでいるの?」
「お兄ちゃんが遅刻しないように見張ってるの。ママがお礼にしなさいって言うから」
「7時30分だ。やばい遅刻する! 着替えるからあっち向いてて」
時計を見て、僕は風子に後ろを向かせると、学ランに着替えた。そのまま、階段を下って、朝ご飯を急いで食べる。ひげを剃り、リュックを確認する。
教材、筆箱、財布、ケータイ、全てある。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい! たいちゃん、風子ちゃんはどうしたの?」
母の声を後ろに、僕は自転車を発進させた。
学校についた時間は8時ジャスト。
「おはよう!」
「おはよう、たい、ちょっと……鼻からキューピットが出てるよ」
下半身を露出しているいちが僕にこそこそしながら言った。
「ありがとう」
僕は鏡と鼻毛切りをリュックのポーチから出して、トイレの椅子をゴミ箱代わりにして切る。ティッシュで鼻毛切りを拭く。
「朝っぱらから、何、堂々と鼻毛切ってるんだよ」
「うっせえ、茂丸、赤点だけはやめとけよ」
「今日は生物(科学)と現代文だろ、だいじょぶだいじょぶー!」
そんな茂丸に呆れながら、僕は筆箱以外をリュックの中に入ってるのを確認してロッカーにしまった。
「おはよう、たい」
満が僕に声をかける。
「おう、満、おはよう、妹元気?」
「相変わらずだよ。リカちゃんのことなんだけど」
「もう買ったよ。風子ちゃんが渡すって張り切ってたよ」
「あちゃー、買わなくていいって言おうとしたのに」
「なんでまた?」
「うちの母が不吉なものは捨てるよって言って怒ってるんだよ」
「遊び方を変えればいいじゃん」
「それが出来たら苦労しないよ。首と体合体させて遊んでるんだ」
「じゃあ風子ちゃんの家で首とって遊ばせとけば?」
「風子ちゃんの家の人形が首無しになるけどいいんか?」
「それは泣く。でもとりあえず、風子ちゃんの家に全リカちゃん人形を避難させてもらえば?」
「それもそうだな、そうしよう」
「決まりか?」
「とりあえずは」
「良かったな」
キンコンカンコーン
僕はズボンとトランクスを脱ぎ、トイレの便座に座った。
足が固定される。
担任が入ってくる。
「排便した者はその監督の先生に申し出ることー」
「先生、それだとカンニングできてしまいそうです」
「俺達は鷹の目で見てるから大丈夫だー、じゃあ、後ろからズボンとトランクスを集めてこいー」
担任は言いながら、1番後ろの人の足の固定を外した。
僕らはその命令に素直に従う。
ゴミ袋はいっぱいになり、僕達が座り直したのを見て、担任が出ていく。
「誰が監督なんだろう?」
「3クラスあるから、優関椎先生の可能性もあるよ」
「その場合、テスト用紙にあれをかけていいか?」
「何?」
「いち、しー!」
がらら
僕らは落胆する。
「はい、テストを始める! 科学の人、手をあげてくれ」
生物のおじさん先生が教室に入ってきた。科学の解答用紙と、問題用紙を配った。
「生物の人……、はい、それではテスト開始!」
その後生物も同じく配った。テストが始まった。
生物のテストはマークシート式だ。4分の1の可能性で当たる。
簡単で塗るのは楽しいが1つでも記入箇所を間違えて飛ばしてしまうと後がとんでもないことになる。僕は中学の頃、それで大きなミスでやらかしたことがある。
生物のテストは全部で50問。1問2点だ。1分間に1問、解く速さが鍛えられる。
皆が集中する。ライバル達を蹴落としてハイレベルな点をとらなくてはならない。
僕は終わりのチャイムがなる前にすべての回答を終えた。
(80点はかたいな。でも平均がそれくらいかもしれない。簡単すぎた。次のテストで挽回しよう)
キンコンカンコーン
「はい、まずは科学の人、前に回して、次、生物の人も前に!」
解答用紙が集められた。
「じゃあ次のテストまで、廊下で待っとれ!」
ウィイイン
足の拘束が無くなった。
僕は問題用紙をリュックに入れて、廊下で次のテストの対策を練る。10分間の内に少しでも頭に叩き込む。
(漢字は書けるが肝心の文章問題の方が難しい)
「俺全然勉強してないわー」という茂丸は本当に勉強してなさそうだ。
キンコンカンコーン
「はい皆さん、教室に入りましょう!」
和矢の大声がする。
皆、少し気持ちが安らいでいる。だが、和矢は2組の教室に入っていった。
「くう、あの人の声があれば百馬力なんだけどな」
「いきなりだがー、3組のテストー、俺が受け持つー、カンニングするなよー」
帰ってきてそうそう担任が言う。
僕は問題文が目に入るのも嫌だった。
(やはり現代文は苦手だ)
ブリブリ。
横で便を出した音と匂いがした。王子が焦っている顔に変わる。
「うんこの音で答え教え合うなよー! 些加ー、ペーパーだー」
「すみません」
「私語は慎めー、テスト開始ー!」
担任はマイペースで開始の合図を出した。
僕は臭い中、苦手な現代文のテストの空欄を埋めていく。漢字は得意なのですぐに書けた。問題文は出来は良くない。その代わり作者名”山崎正和”と時代の”1997年”は暗記していた。
(70点いくかいかないか、か? 作者の気持ちを書け、って知るか、そんなもん!)
キンコンカンコーン
「はいーテスト終了ー前に回せー」
担任は全員の答案を集める。
「明日のテストは世界史探求と英語だなー、ズボンとトランクスを分配するぞー」
そして、終礼が行われた。
やっと期末テスト、1日目が終了した。
「終わった! くっそー」
「和矢ちゃんだったら出来てたのになぁ」
「ママにどうやって言い訳しよう?」
皆、結果が返されるのが怖いようだ。
「マザコンか? ママじゃねえよ。王子、お前、うんこしといて、他に言うこと無いのか?」
竹刀は啖呵を切る。
「皆、すまなかった」
「しょうがないよ、どんまい!」
いちは笑ってその場を和ませる。
「肉ばっか食ってるから、臭くなるんだぞ、肉禁止な、しばらく豆食ってろ」
僕は王子に忠告する。
「分かったよ、……しばらくってどれくらい?」
「1ヶ月」
「うんこが臭くなくなったら、俺の家の外の掃除、草むしり、頼むわ」
「魂を! 賭けよう!」
「グッド」
「いやでも、1ヶ月って、もうすぐ、冬休みだよ。検証のしようないなあ」
いちはぼんやりと呟く。
「うんこが臭かったらどうする?」
「廊下で俺は包茎ですって言いながら裸踊りしろよ」
竹刀は王子へ、僕に促されるように言った。
「うちは何の心配もなく、猫と一緒にこたつで寝れればそれでいいんだけど、今の時間割だとお昼寝も出来ちゃう」
「テストが終わってほしいのか、終わってほしくないのかわからないな」
僕は言いながら明日の世界史探求と英語のテストのことが頭から離れない。
「茂丸、帰ろう」
「おう」
「またなー」
「「「おー」」」
皆は見送ってくれた。
「ところでクラスの忘年会、たいは行くの?」
「僕誘われてないんだけど」
「あっ……」
「何を察してんだよ。じゃあなーふああ」
僕はあくびをしながら、茂丸と別の道に行った。帰りを急いだ。
(あの態度で、風子ちゃん、怒ってないといいんだけど)