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49 色々悩んだ僕、そしてリカちゃん人形

翌朝。

僕はふと気がつくと何やら柔らかいものに抱きしめられていた。

(もしや夢で、犬の中にでも入ったのか?)


僕は目はぼやけているが、ショートカットの黒髪の少女が認識できた。起き上がりメガネをかける。腕を持ち上げると、釣りをしているかのように、背の低い少女が釣れた。


「何故、こんな状況に?」


僕に抱きついて寝ていたその子は、湊風子だった。


「風子ちゃん」

「あれ? お兄ちゃん、おはよう」

「おはよう! あれ? じゃなくて、なんで風子ちゃんが僕のベッドの中にいるんだ!?」

「お兄ちゃんを起こしてこいって言われて、暖かそうだったから、つい」

「お兄ちゃんじゃなくて従兄な?」

「お兄ちゃん、お腹空いたでしょ。ご飯できてるよ」

「なんでナチュラルに僕の妹になってるんだよ」


僕は壁により、風子と距離をとる。


「今日の朝ご飯は餅の入ったお雑煮ですー、ウチが作ったんだよ」

「待て! 母さんどこ行った?」

「叔母さんと叔父さんならゴルフに行くって言って出てったよ?」

「なんでまた。風子ちゃんはどうやって来たんだ?」

「話したいことがあったから、ママに送ってもらったの。叔母さんはお兄ちゃんのお世話してほしいって言ってたよ」

「僕、勉強があるのに」

「ウチじっとしてるから大丈夫。朝ご飯冷えちゃうよ」


風子は僕の手をグイグイ引っ張った。


「わかったから手を離して」


僕は風子に続いて、下に降りていく。


「はいどうぞ」

「これ、風子ちゃんが作ったの?」


美味しそうな雑煮とお茶が出てきた。


「うん、さっきまで叔母さんもいたんだよ」

「さっきか、ぬるいなー」


僕は猫舌なので雑煮のぬるさはちょうどいい加減だった。

人参もいちょう切りで柔らかい。


「美味しい?」


風子も椅子にかけている。


「うん、美味い」

「良かったー」

「今度は僕の寝ている間に入ってこないでね」

「そうする。ところで、火乃子ちゃんに人形買ってあげるって約束したよね? いつ渡すの? 今日買いに行こう?」

「うーーーん、まあいいけど? 風子ちゃんにもなにか買ってあげるよ」


僕は勉強と風子といる時間を天秤にかけた。昨日の功績が大きい風子に傾いた。


「やったー!」

「タンポポのおもちゃも買ってやるかな」

「喜ぶと思う」

「近くのおもちゃ屋さん、まだ開いてないなぁ」


僕は壁の時計を見やる。

(9時15分だ。歩いて5分のところにおもちゃ屋がある。後40分くらい時間を潰さなきゃ。勉強するかな)


「じゃあ僕は少しの間勉強してるから。風子ちゃんはどうする?」

「隣でお兄ちゃんの絵描く!」

「好きにして」


僕らは再び2階に上がった。

僕はマジックペンと画用紙を風子に手渡した。そして音楽の勉強をし始めた。

しばらくカリカリというペンとキュッキュッというペンの音が交錯した。


「出来た、みてみて! お兄ちゃん」

「上手だね」


僕はちらりとみて、勉強に集中する。


「全然見てない」

「見てるよー、タンポポ描ける?」

「うん」


風子は小さく柴犬を描いている。


「できた」

「お! いいじゃん!」


僕は勉強を終わらせると、画用紙に注目する。


「お兄ちゃん、ウチ描いて」

「下手でも怒らないでね」


僕はマジックペンで余白に風子を描いていく。授業中に絵を描いてることもあって、こともなげに描くことが出来た。


「可愛いね!」


風子は満足した様子だ。


「そろそろ行くか。風子ちゃん、着替えるから下に降りてて」

「はあい」


とたとたと階段の降りる音がする。

僕はパジャマから普段着に着替えてコートを着ると、マフラーを巻いた。マスクをして髭を隠す。必要なものをリュックに入れて、そして、1階に向かった。


「お兄ちゃん、早く早く!」


急かす風子に、サンダルを引っ掛けて家を出る。鍵も忘れない。


「出発おしんこー、ナスのぬか漬けー!」

「風子ちゃんは何がほしいの?」

「ウチ、リカちゃん人形1体も持ってないの」

「買わないほうがいいのかな?」

「買ってよ」

「はいはい」

「火乃子ちゃんはどんな人形が好みなんだろ」

「ついたら教えるね」

「そう? じゃあ、タンポポのおもちゃから見るか?」


僕らは北風で冷えるので、少しでも早く歩いた。


「到着」


僕らは1番客のようだ。


「いらっしゃいませー!」


中はかなり広い。2階のある体育館ほどの大きさだ。


「犬用のボールがあるよ」


風子は指を指す。


そのボールは押すとパフパフ鳴った。


「これにしよう、後は?」

「リカちゃん人形」


風子は目を輝かせた。

そこには何体ものリカちゃん人形が並べられていた。


「ウチ、これにする」


風子はさんざん迷った挙げ句、金髪で巻き髪の普通のリカちゃん人形を迎え入れることにした。


「火乃子ちゃんのは?」

「黒髪でまっすぐした人形がいいんだって」

「1体で3000円ちょっとか、結構するなあ」


僕は貯金から金額を差し引く。


「2階も見ようよ?」

「うん、いいけど」


2階は、CDやゲームが売っていた。


「このゲーム買ってこうかな」

「テストは?」

「はい、止めときます」


僕は棚にゲームを戻す。


「ここは欲望が多すぎるから、買って帰ろうか」

「うん」


風子はゲームには興味がないらしく、さっさとレジに並んだ。


「お兄ちゃん、ありがとう」

「お昼はどうする? パンでも買って帰る?」

「パン! ウチはメロンパンが好き」

「そう? 僕はベーコンエピにしよ」


僕らは隣にあるパン屋まで行き、パンを買って自宅に引き返す。


「火乃子ちゃんのリカちゃん、ウチが渡しとくね」


風子はたいの家に到着すると、リカちゃんと犬用のボールをリュックに入れた。

パンを食べていると母と父が帰ってきた。


「母さん、父さん、なんで、風子ちゃんを置いて何処か行っちゃうんだよ」

「たいちゃんが約束したんでしょ? リカちゃんを買うって」

「いやそうだけどさ、車がないと寒いじゃん」

「お兄ちゃん、分かってないな! たまには夫婦水入らずにお出かけしたいじゃん?」

「風子ちゃん、ありがとう。ごめんな、たいの世話大変だったろう」


父が風子を撫でる。


「じゃあそろそろ帰るか?」

「うん、いいよ。お邪魔しました」

「忘れ物」


僕は風子の画用紙を渡した。


「ありがとう、また来るね!」

「もう来ないでくれ」

「また、天邪鬼なこと言って!」


母は風子を送りに出ていった。


「さあさ、勉強しなさい」


父はご飯にイワシの缶詰で食べている。


「言われなくともしてるから」


僕は困ったように言い返すと、階段を上って2階に行く。

(生物の暗記をしないと)

ルーズリーフに書き出して暗記をし始めた。



気がつくと3時間経過していた。シャーペンが切れて、現実世界に引き戻されたのだ。


「全然覚えられてないな」


僕は愚痴をこぼすと、コーヒーを飲みに下へ。


「せっかく頭いいんだから都内の大学に入れようか?」

「そんな事言って、まだ高1だろ、グレてヤンキーになったらどうするんだ」


2人の会話が聞こえてくる。僕が聞き耳を立てていると父が席を立った。


「父さん、母さん、僕は上京したい……です」


僕は思い切って部屋に突撃した。


「たいちゃん。たいちゃんがそうしたいならそうすればいい。ただ、勉学がおろそかになって中退したらもったいないって話をしてて」

「それは金の話か?」

「人生の話よ」

「だったら好きにさせてくれ」

「テストで赤点とったら絶対に大学は行かせないから」

「赤点なんてとるわけ無いだろ」

「そう? で? 何しに来たの?」

「僕はコーヒーを飲みに来たんだ」


僕はキッチンにてインスタントコーヒーを飲んだ。

その後の勉強は捗った。

”勉強できるようになったらモテる”と書かれたハチマキをして0時まで頑張って学んだ。


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