48 手術の成功とうどん
動物病院は思っていたよりも小さい。クリニックと言うべきだろうか。
「たい君、茂丸君。葉阿戸に付き合ってくれてありがとう」
「いえいえ、葉阿戸さんの顔も見れて、万事塞翁が馬でした。ヤキ君の具合どうですか?」
「麻酔で眠ってるわ」
「大晦日はよろしくお願いします」と茂丸は頭を下げた。
「いいのいいの、改まらなくて」
星は茂丸のことを横目に、カウンターの動物看護師に向き合った。
「すいません、ヤキちゃんの方ですが、3日入院していただいて、退院後の2週間はケージの中で安静にしていただきます事をよろしくお願いいたします」
動物看護師の青いナース服を来たメガネをかけている女性が発言した。
「ヤキちゃんは今奥のケージの中で休まれてます。入院する3日はヤキちゃんのドッグフードをお買い上げいただくか、持ち込んでいただく形になりますが、以下がなさいますか?」
「買います、いくらですか?」
「3泊4日で630円です。お支払いはパテラ手術代と去勢手術代とフード代と入院代合わせての額でよろしいですか?」
「はい」
「合計204,470円でございます」
「クレジット一括で」
「こちらの機械に入れていただきます、ありがとうございます……こちらレシートとお客様控えとなります」
動物看護婦はハキハキと明るく笑って見せる。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「はい、大切にお預かりさせていただきます」
動物看護師はそう言いながらお辞儀をする。
僕らは出ていった。
「ねえ、この後時間ある? 茂丸がうどん食べてきたいらしい、いい?」と葉阿戸は星に頼む。
「いいよ。向かいのうどん屋さん、あたしもお腹空いたわ」
「ありがとうございます」
僕らはクリニックを出て、横断歩道をわたって、うどん屋さんに到着した。
狭い店内に座席と座敷席があった。
僕らは畳に上がり座った。
「手打ちうどんか、ネギ肉うどんにするか」
「ここはあたしが払うから、好きなもの食べてね」
「星さん、ありがとうございます」
「たい君、茂丸君、今日は大丈夫だった?」
「俺もネギ肉で。今日ですか? なんとかなりましたよ。期末の方が不安ですが」
「普段から勉強しないからだぞ。茂丸」
「積みゲーの消化に忙しいんだよ」
茂丸はクマのある目をしている。
「俺はゲームしたことがかなり昔で覚えてないくらいだな。外で遊ぶほうが好きだな。俺も同じものでいいわ」
「陽キャかよ」
「すみません、ネギ肉うどん4つください」
星は店員に注文した。
「はい、かしこまりました」
店員はお会計伝票を置いて、いなくなった。
少し待っていると、醤油のいい香りがしてきた。
店員により、うどんが2つずつ運ばれてきた。
「食べましょうか」
「「「いただきます」」」
太くて平べったい麺が噛むたびにもともちとした食感で食が進む。唐辛子を入れると辛味のあるアクセントになった。ネギのシャキシャキした辛味ある味と肉の出汁に美味しさが爆発していた。
「「「ご馳走様でした」」」
「はあ、美味しかった」
葉阿戸のひと声が世界をさらに明るくする。
「葉阿戸、どっちが本命?」
「俺の本命? この2人のわけないだろ」
「じゃあそろそろいとまごいしようか」
「いとまごい?」
「別れるってことだよ」
葉阿戸は茂丸にそう言うと、立ち上がった。
全員退席して、星が勘定をした。
残りの3人は店を出る。
「ところで葉阿戸、いぼ痔大丈夫?」
「なんで知ってるんだよ。だいじょうばねえよ」
「葉阿戸っていぼ痔なんだ」
「君達にはいぼ痔の苦しみわからないだろ」
「僕は切れ痔だけど」
「ボ○ギノール、クリスマスにプレゼントするよ」
「いらねえよ。自分で買えるし」
「立ち止まってどうしたの?」と星。
「「ご馳走様でした、じゃあ、僕(俺)らはこれで」」
僕と茂丸は横断歩道を渡りながらさようならする。
「茂丸、来年の抱負は?」
「来年こそはモテるぞ」
「ダメだこりゃ」
「お前は?」
「ダイエットかな」
「ふうん、太ってなくね?」
「唐揚げ食ってたら、LDLコレステロールの値が高くなってね」
「血液検査してるのか?」
「母さんのついでにね」
「可愛そうだな! チキン食えなくて」
「まあ、ダイエットするからな」
「学校にチキン持ってきて食おーっと!」
「あんた、そんな事したら太るぞ?」
「俺痩せてるから」
「どこがだよ」
並列で言い合いながら、帰っていく。
「じゃあ、学校でな。勉強頑張ろうぜ」
僕は家の近道の方にずれていった。
「じゃあな、ダイエット頑張れよー」
「うっせうっせ! 気をつけろよ!」
「おう」
そして、近道を通って、自宅に着いた。
「たいちゃん、今日はどこに?」
「茂丸達とうどん食ってきた」
僕は2階に上がっていく。
「そう? テスト返ってきたらすぐに見せなさいよ!」
「はいはい!」
僕はプリントを持ってベッドに体を預けた。
(ついにやってやった。供養した)
「勉強しないと」
僕はゾンビのように起き上がった。椅子によりかかると得意の数学から始めることにした。
毎日のルーティーンをこなして、22時位に眠った。