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47 消えた日本人形

次の日。

僕は気持ちよく8時に起きることが出来た。


「なんで寝られたんだろう」


僕は後になってから考える。

(あの人形は、葉阿戸を守りたいがために僕の夢の力を使ったのだろうか? そうなると、あの人形に宿っているのは葉阿戸の関係者か? もしくは犬か? ……本当に供養しても平気なのだろうか)


髭を剃って鏡を見る。メガネがないとぼやけて見える。


「たいちゃん、朝ご飯、フレンチトーストでいい?」

「好きにしてくれ」


しかし、僕の好きな食べ物ばかりを出されるのは、まさに青天の霹靂だった。コーンスープと一緒にいただいた。


「たい、今日、雨が降るようだよ」

「何時から?」

「そうね、9時頃だね」

「ドンピシャだ。僕の出かける時間と」

「カッパ着ていきなさいよ?」

「はいはい」


僕は素直にカッパを出した。


「時間まで勉強でもするか」


僕は漢字の勉強をした。しばらく勉強しているとケータイがなった。


茂丸から電話だ。


『もしもし?』

『たい、大変だ』

『どうした?』

『人形が、いなくなった』

『ええええ!?』

『姉ちゃんが捨てたのかもしれない。どうしよう』

『探そう! ゴミ収集所は見たか?』

『いや、俺さっき気づいて。起きがけに』

『僕も探すから……、姉はどこに? 電話した? あの人形は供養しないと、まじで呪われるぞ』

『家にはいないし、電話しても電源切ってるみたいで』

『とりあえず集積所に電話するよ』

『俺がする、今1人なんだ、一刻も早く来てくれ。学校の校門に待ち合わせな』

『わかったよ、今から出るから』


僕は着替えて、リュックの中にケータイと財布などを入れると、カッパを自転車のかごに放り込む。


「また茂丸か?」


僕はまたがった自転車から、足を止めて、リュックを探る。


「葉阿戸からか」

『たい! 大変なんだ!』

『そっちもか。何があったんだ?』

『ヤキが、ヤキが息を荒くしてて暴れてるんだ』

『ヤキが? 僕、今さ、呪いの人形の行方を追ってるんだ。多分ヤキの中に人形の魂が入っているのかもしれない。早く見つけて供養するから待ってろ!』

『俺も探すの手伝うよ。鎮静剤、打ったから、効き始めてから効果は個人差があると思うが、90分位持続してくれれば手術もうまくいくだろう。その間に見つけよう』

『学校の校門の前で待ち合わせ、茂丸もいると思うから』

『それじゃ!』


葉阿戸は焦りをながら切ったようだ。




僕がつくよりも早く2人は学校の校門前について談義を交わしていた。


「たい、遅いじゃないか」

「さっき姉ちゃんと電話つながったんだけど、姉ちゃん、不気味だからよしえを駅のホームに置き去りにしてきたんだと」

「それ、駅員に電話したのか?」

「話したんだけど、それが無いんだと」

「誰かが持っていたのか。あんな怖い人形を」

「一旦寝てみようか」

「後、70分しかヤキの鎮静剤の効き目無いんだぞ、悠長なこと言ってられるか!」

「あのよしえの髪ならあるんだ、前日に前髪をカットしておいたから。匂いをたどえる犬さえ元気なら……」


茂丸は髪の入ったジップロックを見せつける。


「とりあえず駅まで行ってみよう」


3人は自転車で駅の方面に向かった。




駅員が改札横にいた。


「すみません、先程お電話した園恋です。人形を探しておりまして、つきましては防犯カメラの映像を見せていただくことは出来ませんか?」

「出来かねます」

「……ワン!」


その時、聞いたことのある鳴き声が聞こえた。


「リョウタ?」


葉阿戸は小声をこぼすと目を見開く。


「リョウタはヤキの中にいるんじゃないのか?」


僕らは駅の改札前から外へ出ていき、階段を下る。


「ポポちゃん、ダメだよ、戻ろうよ」


風子と風子の隣の家の人が飼っている柴犬がいた。駅の中に入ろうとしていた。


「君、小学生? この犬はリョウタに似てるけど……、違うな」

「ウチは小4、湊風子。リョウタじゃない、タンポポっていうの、ウチの隣の家の犬だよ。冬休みだからいつもウチが散歩してるの」

「風子ちゃん!」

「お兄ちゃん! こないだのお姉さんに見えるお兄さんがこの人なんだね!」

「ねえねえ、この犬、匂い辿れたりすることできる?」


茂丸は嬉々とした表情で話す。


「ポポちゃん、頭いいからできるよ、ね?」

「ワン!」


タンポポはひと鳴きするとおすわりをしている。


「じゃあ、この髪から、本体どこにいるかわかる?」


茂丸はジップロックを封を開けて、タンポポに匂いを嗅がせた。


「ワン」


タンポポはしっかりした足取りで歩き出した。足元の匂いをかいでいる。


「神頼みならぬ犬頼みだ! お願いします。タンポポちゃん!」

「茂丸、黙って。気が散る」


葉阿戸は犬が喋るかのごとく茂丸を黙らせた。


「あっちだ」


タンポポはリードを引く。走り出した。

その時、最悪な事態に見舞われる。雨が振り始めたのだ。

それでも僕らはタンポポの鼻を信じて突き進んだ。

(急がないと匂いが雨で消えてしまう)


「ワンワン」


タンポポはある1軒の前で、門に片手をつけてこちらを向いて「ワン」と鳴いた。


「ここ小運の家だ」

「火乃子ちゃんの家だ」

「知ってるの?」

「ウチの同級生」


風子はインターフォンを鳴らした。


「風子ちゃん、どうしたの?」

「あのう、すみません、風子ちゃんの従兄妹の蟻音たいと申します。駅で日本人形を拾われたかと思うんですが、拝見及び保護をしたくて訪問したんですけど」


ガチャ!

玄関先から満が出てきた。


「あー! たい、お前妹いたのか!?」

「やっぱり満の家か。従兄妹だよ、満。その人形、髪が伸びていくぞ。供養するために返してくれよ」

「前髪が短いから茂丸のじゃないと思ったんだが、切っただけかよ! 返すって言ったって首チョンパのボロ雑巾だぞ?」

「どうなってる? 見せてくれ」


葉阿戸は小運家の敷居をまたぐ。続いて、僕も茂丸も恐れず非常事態に向き合う。


「よしえ!」


茂丸は叫ばずにはいられなかった。

僕はそれをまじまじと見た。

日本人形は身ぐるみを剥がされて洗面器に首無しの状態で浮かんでいた。対を成す首は近くにあるリカちゃん人形の首だけ入った箱にしまわれていた。


「ひーちゃんはな、好きなリカちゃんの首をもいで、お風呂に入れるのが好きなんだ」

「ヤキ! 痛かったよな、ごめんな」


葉阿戸は涙目で日本人形の体を掴んだ。


「よしえだか、ヤキだか知らんが持っていってくれ」

「やだ! この人形のパーツ、リカちゃんに使えるから」


火乃子はとらせまいと覆いかぶさる。


「新しい人形買ってあげるから! 今のリカちゃん髪の毛巻いたり出来るんだよ。黒髪の子もいるよ! それともわんわん撫でる?」


僕は力説する。


「えー、じゃあ絶対だよ!? わんわん撫でる!」


火乃子はタンポポの方に気を取られる。

葉阿戸は日本人形の首と胴体、着物を持つと、外側が濡れたジャケットで包んだ。そして、自分の自転車のかごに優しく置いた。


「今度こそ供養しよう」


葉阿戸の声は天に届いたのか、空は雨が上がり虹がでていた。


「天気雨だったのか」

「狐の嫁入りだな」

「怖いから止めてくれ」


僕らはポツポツと話し始める。


「じゃあ、☓○神社に行くから、ついてきてくれ」

「もうすぐ1時間経つから急ごう。後、風子ちゃん、タンポポありがとう、じゃあね」


葉阿戸の髪がなびいた。


「「ありがとう、風子ちゃん、タンポポ」」


僕らは道を引き返した。

(残りは30分だ)




神社にて。

人形の状態を見られて、すぐに供養が行われることとなった。

まず、供養前に拝殿で参拝する。そして手水舎で身を清める。

神職が僕らに住所、氏名、願い事などを書かせた。

僕の願いはきっとみんなと一緒で、よしえがヤキの体の中からでていって、天国で安らかに過ごしてもらうことだ。そのただ1つだけだ。

供養料は3人で分割した。1人あたり3000円を払う。

神職が人形の前で大麻をふり、神事を営む。その後、総代が火をつけてお炊き上げをした。

僕は人形が燃えていく様を第三者目線でみていた。どこか現実味を帯びていない。

空高くへ、煙が上がっていく。


「よしえ、今までありがとう」

「安らかにお眠り下さい」


葉阿戸が合掌するので僕と茂丸も合わせた。

僕は人形と目があった気がした。


(僕らを守ってくれて、ありがとう)


あたりは焦臭くなって、人形は炭に変わった。


「お炊き上げ証明書は郵便ハガキで送らせていただきます」

「園恋茂丸宛でお願いします。後の2人は大丈夫です」

「かしこまりました」



葉阿戸のズボンのポケットから音楽がなった。


『もしもし? ヤキは大丈夫?』


葉阿戸はケータイを耳に当てている。


『それで? あー良かった。じゃすぐ、動物病院に戻るよ』

「俺らもついていっていい?」

『茂丸とたいも来ていい? うん、分かった』


葉阿戸は情緒が落ち着いている。


「ヤキの手術が成功したって。今ちょうど手術を終えて安定して入院してるって」

「鎮静剤だけで手術したのか?」

「そりゃもちろん麻酔も使うさ。2人、ついてきてもいいって」


葉阿戸は安心した顔で見渡す。

僕らは葉阿戸についていった。


「これでもう夢見ることはないかな?」


茂丸は出し抜けに言う。


「たいのがうつって、夢を視るか、もしくは幽体離脱するようになってたら、まだあるかもね」

「僕もいきなりそうなったから、わからないよ」

「俺は腹が減ったよ」

「茂丸、朝から何も食べてないのか?」

「おう、だからかな?」

「動物病院の近くに、うどん屋があったから帰りにそこに寄ろう」

「「了解」」


僕らはひと仕事終えて疲れたような声で返事した。


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