43 ヤキの正体
朝が来る。
「うー」
僕はメガネをかけてベッドから起き上がった。
「7時ジャストだ」
僕はヤキにならずに眠れて心の底からホッとした。ケータイや財布、それから勉強道具が入ったリュックを持って下の階に降りる。
「たいちゃん、おはよう」
「おはよう」
僕は適当に朝食をとり、家を出た。毛皮を着ていないので極端に寒かった。その道を自転車で通る。
「おはよう、茂丸」
「たい、おはよー」
「昨日さ、僕、犬になる夢見たんだけど」
「ぎくぎくぎっくー、そうなん?」
「何をぎくぎくしてんだよ」
「いや、なんでもない」
「怪しい」
「冬だから、くしゃみしそうになっただけ」
「ふうん」
僕らは教室にはいると、いちがすでに着席していた。
「おはよう!」
「いち、おはよう」
「はよう」
「茂丸? なんか体調悪そう」
「分かってくれるか、同胞よ」
「そんな仲間じゃないんだけど、何かあった?」
「実は犬になる夢を見たんだ」
「ええ? 茂丸!? あんたも!?」
「犬の名前は」
「「ヤキ!」」
「葉阿戸の家のワンちゃんだ」
「茂丸昨日、何時何分に寝た?」
「22時だけど?」
「そこからずっとヤキになる夢を見てたのか?」
「おう、葉阿戸の顔、舐めちゃった、時間は遡って20時くらいだったと思うけど」
「こら茂丸! この野郎、なんてことを」
「ちょっと待ってよ。たい、茂丸、理解が追いつかないよ」
いちは頭を振っている。よく分からないといった面持ちだ。
「僕と同じ思いをしている人が他にもいるかもしれない。でもどうして 茂丸まで変な夢を見るようになっちゃったんだろう?」
「さあな」
「なにかしたのか?」
僕は昨日のことを思い返す。
(確か昨日は、葉阿戸と勉強会で茂丸と一緒にいた。何かがあったはず。茂丸が来た時、そういえば……)
「茂丸は葉阿戸のハンバーガーをもらって食べていた。あの時、僕が食べたチーズバーガーになにかしたのか?」
「御明答、その通り。あの時、パティが2枚重ねだっただろう」
茂丸は僕に思い出させるように眺める。
僕はふと考える。
(確かに肉が分厚かった気がする)
「葉阿戸のハンバーガーのパティを食わせて実験したんだな」
「まさか俺にも呪いのようなことが起きるとは思っていなかったけどな」
僕はあの呪いの人形を思い出した。
「じゃあもう1回、間接キスをすれば戻るのか?」
「そんな事、知らねえよ」
「それかあの呪いの人形をお祓いしてもらおうか?」
「あの人形は昔から髪が伸びてて、お祓いしても効き目がないんだ」
「じゃあどうすんだよ」
「あの犬が葉阿戸の家の前に捨てられる以前のことは思い出せないのか?」
「それはやってなかった。今度なったらやってみる」
僕は力強く頷いた。
キンコンカンコーン
僕らは準備して担任を待った。
がらら
担任が来て、1日の始まりを実感する。
「昼休みに2組に行こう?」
「ああ、そうだな」
4限まで授業をすませて昼休みが来た。
僕らは2組に行き、葉阿戸を探した。
「葉阿戸を呼んできてくれる?」
僕らはそのへんにいた人に話しかける。
「葉阿戸! 葉阿戸、待ってる人がいるよ」
必死に呼びかける男子。
葉阿戸は眠っているようだ。
「あー、ありがとう」
葉阿戸は眠そうにしながら、起き上がる。
「ちょっと来なよ、君達」
葉阿戸は廊下に出るやいなや、僕の肩に手を乗せる。
「茂丸もヤキの中に入っていたらしいぞ」
「たい、バラすなよ」
「やっぱりな」
葉阿戸は納得したようだ。
図書室の前の空間に椅子が5脚ほどあり、そこに座った。
「葉阿戸、実はあのハンバーガー食べている時、あんたと間接キスしたようなんだ。多分それであんたの近くにいる犬に精神が入っていったんだ。茂丸はあの呪いの人形でそのような不思議な力を出させたんだと思う」
「お前、よしえの力舐めるなよ」
「へえ、それじゃ俺と間接キスしようぜ2人とも」
葉阿戸はポケットからゲロリーメイトの小袋を出した。2本入りだ。
「ゲロメはあんまり美味しくないから、他のものが」
「いいから食え。俺がその上から食って、もっかい食ってもらえばわかるはず」
「「いただきます」」
僕は苦くて辛いゲロリーメイトをかじった。
「まず」
「茂丸、そういう事言わないで」
葉阿戸は僕と茂丸の食べたゲロリーメイトを食べる。
「独特の味だ」
「もう1回食べるね」
僕らは再びゲロリーメイトを食した。無くなってしまった。
「これで治るといいんだけど」
僕が言うと、葉阿戸はすっくと立ち上がり、無言で帰る。
「俺らも行こうぜ」
僕らは鼻水を出しながら、教室に戻った。弁当を食べる。
「ていうか、なんで僕に間接キスさせたんだよ」
「お前らが、先に進まないから業を煮やしたんだ。実はあの時持ってきていたよしえに力を借りたんだ」
「げ! あん時、人形いたのか?」
「お前らが裸同士の付き合いするように頼んだんだけど」
「だったらそう言えばいいでしょ? 呪いなんて使うんじゃねえ!」
「うるせえな、おっぱい揉むぞ」
「野郎が野郎のおっぱい揉んで何が楽しいんだよ」
「マッ○シェイク飲みながら女の子のおっぱい揉みたい」
「キモいこと言うな。葉阿戸に聞かれなくてよかったな」
僕らはふざけ合いながら弁当を食べ終えた。
「呪いって自分に返ってくるんだな」
「よしえは神社に行って清めてもらうかな」
「そうしろ」
僕は次の授業の準備をした。
世界史探求は自習になった。
僕はウトウトして、勉強があまり捗らなかった。
その次の授業は英語だ。
僕は自販機でブラックコーヒーを飲んでいたので眠気はあまり感じられなかった。
授業が終わり、担任が終礼して、部活動の時間になった。
「先生、ちょっと僕ら用事があるんで先に帰らせてもらいます」
僕らは伊祖にそう告げた。
「何の用事だ?」
「それは」
僕は呪いの人形の事を言うのは歯がゆかった。
「言えない用事じゃ部活を切り上げるのはだめだよ」
伊祖に窘められてしまった。
「呪いって信じます?」
「科学で解明できないことはないね」
「今僕ら良くない事が起きているんです」
「いいよ、たい。神主さんに電話通じるかな。かけてみよう」
「土曜日にしよう」
「そうするか。俺が事前に連絡入れとく」
茂丸も僕も諦めて、カメラを借りた。
「おい。撮った写真に黒い影がかかるんだけど」
「それはあんたの指な」
僕は茂丸の心配をして損した。