4 写真部でのコスプレ
そして、放課後。
ズボンを着た僕は茂丸と2人で、視聴覚室に乗り込んだ。
「「こんちはー」」
「新入部員の2人か、よく来てくれた! 入部届今書く?」
坊主の貧弱そうな先生が出迎えてくれた。
「あ、はい」
「先生の名前は?」
「俺は伊祖、写真部の顧問」
「日余さんは?」
「今写真会してるところだ」
「モデルになってるんですか?」
「話が早いな」
「はあ」
僕と茂丸は入部届に記入していく。
「蟻音と園恋か。よろしく」
「「よろしくお願いします」」
「それで、他の人たちはどこへ?」
「準備室だ、ついてごらん」
「はあ」
僕らは連れて行かれた。
パシャ! パシャ! パシャ!
白い照明の前に女生徒の格好をした、葉阿戸がポーズを決めている。
周りには写真を撮る人だかりでいっぱいだ。
僕はズレた眼鏡をかけ直す。
(可愛い。世間の本物のモデルのようだ)
「今度コンテストがあるんだ。俺達は優勝狙っているんだ」
近くにいた、先輩らしき人の声が耳に入った。
「外の撮影にはいろう。車には気をつけるんだぞ」
先生の言葉に全員が一眼レフカメラを首にかける。
「「「イエッサー!」」」
そして、全員がはけていった。
「園恋君、たい、来られてよかった! 最近はコンテスト用に俺の写真を撮る人が多くて。可愛いものが主題だから、被写体はお花とかでもいいんだよ」
「俺のことは茂丸でいいよ。葉阿戸さん」
「ところで、その制服は?」
「特注で作ってもらったんだ、外行こうか。俺も葉阿戸って呼んでくれ」
「さすがインフルエンサー」
「あ、あの、俺、電話番号知りたいなーって」
「たいから聞いといてくれ」
「わかった、教えておく」
僕らは玄関口まで来た。
「何? 俺の顔になにかついてる?」
「陶器のように白い肌してるなって」
「そりゃ、毎日パックしてスキンケア欠かしてないからな」
葉阿戸の答えに口をパクパクする茂丸。
「ふっ」
僕は見ているだけでおかしかった。
(でもこんな子でも、授業中は下半身裸になるんだよな……。見てみたいものだ)
ブーブー
ケータイから音がする。
メールが1件。
王子から一斉メールだ。
『明日合コンやるけど来れるやつは先着3名まで返信よろ。相手は女子校のお嬢様』と書かれてあった。
「合コンかー」
「ちょっと覗かないで!?」
僕は葉阿戸からケータイを隠すがときはすでに遅し。
「行ったことないなー俺も行きたいなー」
「葉阿戸はどう見ても、女子にしか見えないからだめだよ。女子の人気をかっさらうだろ」
「お願いだ、俺も行きたいって言ってたって言って?」
「しょうがないなー、言うだけだからな」
茂丸はものすごい速さでメールを打っている。
「送信っと」
「本当に送りやがった! いやでも多分無理だろ」
僕は内心びっくりしてるのを収める。
「あ、俺と、たいと、葉阿戸が行きたいって送っといたから」
「はああああ? 僕がモテるわけないだろ! 僕を引き立て役にしたな?」
ブーブー
ケータイが鳴っている。
僕は嫌な予感しかしなかった。
『行く人決定。たいと茂丸と日余さんで行くことになった。時間差で送ってくれた人すまん』
「ひょぇえええ」
「驚きすぎだろ。場所は✗✗カラオケだって。たいは歌うまいだろ、良かったな」
「だって僕、母ちゃんと先生としか女と話さないもん。話すって言ったって優関椎先生とは問答するだけだし」
「お前って母ちゃんからしかバレンタインチョコもらえないんだな」
「それはあんたもだろ」
「俺は2つ、姉ちゃんから!」
「ムカつくなぁ」
「俺は男子からもらうわけだけど。5個くらい」
「ああああ、……来年はあげるからね!」
「いや、別にほしいわけじゃ……」
葉阿戸は途中で口を閉ざす。
「そんなあからさまにがっかりすんなよ」
茂丸はプルプル震える僕の頭に手をおいた。
「合コンで女の子と仲良くなってやる!」
「頑張れー」
「リハーサルでキスするかい? ラップ越しで」
「!!! すりゅ!」
「茂丸、君はディープな方をされそうだから無理」
「いいもん、そんなのキスしたうちに入らないもん」
「拗ねるなよ」
「あの、日余さんが撮れないんで、離れてもらえますか?」
同学年の髪の長い男子に声をかけられた。
「はいはい」
茂丸と僕は葉阿戸のモデルのスイッチが入ったのを確認して、遠くを歩いた。
校庭を一周して校舎に入った。
「今日もいい写真が撮れた」
ホクホク顔の先輩らしき人がひとりごつ。
「あ、いつも葉阿戸を撮っているんですか?」
茂丸はその子の腕を掴んだ。
「火曜日は日余さん、木曜日は自由となっているよ」
「へえ、ありがとうございます」
視聴覚室に入ると皆空いている席に座る。椅子は普通の椅子だ。
「いえいえ、初めは皆戸惑ってるよ。……皆、今日の日余さんの1枚を決めよう!」
「「「はい、部長!」」」
「部長だったのか」
「とりあえず、3人1組になっていいと思った1枚を、印刷機で印刷しよう」
そして、5枚の写真がホワイトボードに貼られた。
「多数決の挙手をとります! 1番の日余さんがいいと思った人。2番……、3番……、4番……、5番……、5番の人が1番多いですね。今週の、今日の1枚は5番の日余さんで掲示します」
パチパチパチパチ!
皆が拍手した。
「それでは皆、解散してください」
「「「ありがとうございました」」」
「掲示してんのかよ」
「気づかなかったのか? 美術室に作品と一緒に飾られてるぞ」
「僕、音楽専攻してるから」
「そういうことね」
「今日はどうする?」
「家帰って勉強するわ」
「何を?」
「お前の思っていること以外だな」
「ああ、そう」
2人は帰路についた。
「明日は学ランで合コンするの?」
「うん、王子に聞いてみる」
僕は受け答える。
「可愛い子だろうな?」
「葉阿戸には負けるかもしれないけどね」
「明日、よろしくな」
「うん」