37 写真部のナース
次の日
僕は早めに学校に着き、教室に入った。
「たい、おはよう」
「おはよう、しおしおしてるな? どうした?」
「今日、いち遅いなって。俺があんな事したからかな?」
「あー。流石にほっぺはないだろ。でも可愛かったな、反応!」
「まさにな、なんであんな事したんだろう! 俺のバカ!」
「それはいいけど、金持ってきたよな?」
「カツアゲか? お前、金持ちそうなのに」
「違うわ、高い寿司食うんだろ」
「あー、忘れてないぜ!」
「今、ちょっと忘れてただろ」
「金はあるから安心しな」
茂丸はニヤリと笑う。
「ふーん」
僕は茂丸を眺めていたが、前のドアから音がしたのでそちらを見ると、いちが入ってきた。
「おはよう!」
僕はいちに声をかける。
「お、おはよう」
「おはよう、いち、あのさ、昨日のことだけど」
「あーうち別に気にしてないから!」
いちは茂丸が近づく前に先手を打つ。
「ごめん! 忘れてくれ!」
「そんなにしたかったんでしょう? うちは気にしないよ」
「う」
「あんた、その言い方だと、男が寄ってくるぞ。いいのか?」
僕はいちの側まで駆け寄り、耳打ちしてレクチャーする。
「うちがどれだけ頬を洗ったかわかる? この変態野郎!」
「いいぞ、その調子だ」
「うう、いちに変なこと言わせるなよ、このクラスの最後の良心に!」
「今度変なことしたら、性器をちょん切るぞ!」
「うんうん、そうしてくれ」
「絶対に言わせてる」
「言わせてないよ、ね、いち、せーの」
「「ねー!」」
「いや、ねーじゃねえのよ!」
僕らはいくら待ってもおまるを持った先生が来ないことから、赤点をとった人はいないと確信した。
不登校以外のクラスメートは続々と登校してきた。
キンコンカンコーン
がらら
担任がキビキビと入ってきた。
「おはようー! 皆も気づいていると思うがー、世界史探求のテスト赤点はいなかったー。誠に残念ながらヒニネニヒ君は不在だー。先生は職員室トイレを使うことになるがいいかー? 蟻音ー?」
「どうぞどうぞ! 職員室トイレでぶりぶりしてください」
「そういうことだー、じゃあズボンとトランクスを集めてくれー」
担任は1番後ろの人の足の施錠を外してそういった。
僕らはフルチンのまま何時間かを過ごすことになった。
そして、教卓の前から担任の姿は見えなくなった。
「あー良かった! 勉強したかいがあったよ」
「おい、いちにわいせつなことして許されると思ってるのか? 茂丸!」
「その件はもう不問となったから。いちに聞いてみろ」
「今度、うちに変なことしたら性器をちょん切るって約束したからね」
「いちは優しいな」
「別に優しくなんか……」
いちは顔を赤らめる。
「たい、いちも誘う? 放課後」
そう、茂丸は僕に聞く。
「可愛いが2人になるだろ、キャラが被ってる」
「外見だけだろ」
「まあ茂丸が出してくれるんだったらいいよ」
「分かった、でも、たいから誘ってくれない?」
「いいよ、昼休みにでもな」
がらら
古典の授業だ。
宮内は元通りの格好をしている。
「風邪予防じゃなかったんですか?」
純粋ないちはそう聞いた。
「そりゃぁ、風邪になるときゃぁ、なるんだぁ! はいぃ、号令ぃ」
宮内は怪しげな間をもたせて号令を促す。
「深呼吸、礼!」
「「「お願いします」」」
「枕草子の〜〜〜〜」
しばらくして、昼休みになった。
「いち! あのさ!」
「何?」
いちはどこからか、鍋のフタを取り出して、それを盾に自らを縮こませた。
「ごめん、怖がらせるつもりはなくて! 良かったらなんだけど、あ、それよか今日の放課後空いてる?」
「将棋部に入ってるから17時45分以降なら空いてるよ」
「それなら良かった、部活終わりに葉阿戸と茂丸と僕で高い寿司食い行こうと思うんだけど、来る?」
「行きたいけど、茂丸も来るの?」
「ああ、茂丸反省してたから心配しなくても、大丈夫だよ。葉阿戸は別として、茂丸のおごりだし」
「行くよ。うちはうちの分は出すよ」
「自転車?」
「うん」
「片道15分くらいだけど。あ、僕、母さんに言うの忘れてた」
「え?」
「電話してくる」
僕は母に言うのをすっかり忘れていた。
自宅に電話をかけた。
『もしもし、母さん』
『たいちゃん、どうしたの?』
『ごめん、実は今日飯食ってから帰るから、夕食いらない』
『そう? 21時までには帰ってくるんだよ』
『ありがとう』
『朝は鍋の残りだからね』
『はーい』
僕は要件がなくなり、通話をやめた。
僕が帰ってくるなりいちも廊下に出た。
いちも電話をしている様子だった。
いちは無表情で話している。
「大丈夫って?」
「うん、20時前までに早めに帰ってこいって念押しされたけど」
「良かった、じゃあ将棋部が終わったら、連絡してくれ。視聴覚室で待ってるから」
「うん、分かった」
いちの返事に満足した僕は弁当を食べるため、席に戻った。
「茂丸、いち、いいって」
「どっちのいいだよ」
「来るって!」
「俺のおごりで?」
「いや自分で出すって」
「ふうん」
「俺の分は出せよ」
「分かったよ、3人で割り勘する」
「葉阿戸もいちもそんな食わないだろ」
「高い寿司屋って値段が書いてないことが多いんだよ、お前は知らないだろうけど」
「知ってるよ!」
僕は弁当を食べる。今日は普通の弁当だ。
刻々と時間が流れて終礼までたどり着いた。
ズボンとトランクスを返される。
「明日は持久走大会だー、頑張れよー。気をつけて帰るようにー。では解散ー」
担任は出ていった。
クラスの皆は部活や下校でいなくなっていく。
「今日はあの臭い匂いがなくなってよかったー!」
「待て、担任いるかも」
僕は廊下を確かめる。
「セーフ! いないよ」
「あいつのことおまるマンって呼ぶか?」
「ばか、やめろ、成績下がるよ。バカはほっといて部活行こ!」
「たいってストイックだな」
廊下を歩いていると葉阿戸が教室から出てきた。
「葉阿戸だ。葉阿戸、今日寿司食う人増えたよー」
「いちって、前にも説明したけど、可愛い子」
「俺に内緒で増やすなよ」
「ごめんって」
「まあいいけど。紹介しろよ」
「もちのろんだよ」
「部活終わりにでもなー」
「そうと決まれば、部活で俺の写真撮ってくれ」
「今日はどんなコスプレするんだ?」
「ナース!」
「葉阿戸のナースか」
僕は想像する。
(服の色は白色かな?)
「自分で自分見て勃起しないの?」
「君達のような変態じゃないからしないよ。身体は正直だねぇ」
葉阿戸は次第に小声で、悪魔の囁きのように言った。
僕は自分と茂丸の息子を見比べる。立派に重力に逆らっていた。
「茂丸」
「お前もな、たい」
「ナースなんて言われたらな! 変な妄想しちゃうでしょ」
「裏山で抜いてくる?」
「あのな、そろそろ、俺のことあんまりおかずにするのやめろよ。こっそりやるのはいいとしても」
「裏庭は勃起マンの庭だぞ。見つかったらどうすんだよ」
「挿れたいな〜」
茂丸は腰を左右に降る。視聴覚室に着く。
「キモ」
「キモと言えば肝臓、肝臓と言えばレバーうまいよな。俺レバニラ炒めが好きなんだけど、皆はどう?」
「「「……」」」
皆が押し黙る。
「俺、準備室で着替えてくる」
「いってらっしゃい」
僕は葉阿戸を見送り、茂丸を見て1言。
「さっきのはマジでキモいからやめたほうがいいよ」
「たいのくせに何だと」
「高いシースーめちゃ食うぞ」
「すんませんでした」
視聴覚室には伊祖と写真部のメンバーが新しいコスプレを今か今かと待っていた。
「準備できました!」
葉阿戸の呼び声で皆は準備室に向かった。
ピンクのナース服にナースキャップに、大きなシリンジを抱えている。
「どうしたのそれ?」
「特注で作ってもらった」
白い写真撮影用の板の前でポーズを決める。目の前の白い光が葉阿戸をより白い肌に見せている。
「「可愛い」」
部長と声が被さった。
「すみません」
「いや、全然! 可愛いもの見て可愛いと思うのは不思議じゃないよ」
「ですよね」
僕は落ち着きながら、カメラをいじる。そして撮る。
カシャカシャ。ピピッパシャ。かしゃしゃしゃ。
いろんな撮影音がする空間に早変わりした。
「じゃあ外行きましょう。校内を1周しましょう」
伊祖は言いながら、葉阿戸にカイロを渡す。
「注射器置いていきます」
「その方がいいね」
「生足で寒そう」
「あ、ストッキングはいてるから大丈夫」
「ちょっと萎えた」
「君のちんこの加減なんて知らねえよ」
「可愛い顔で言うなよ」
僕は呟く。
「あれー。たい君のここ、おっきしてますねーー」
「指さすな! 可愛い顔でいじめないでよ」
「あはは」
葉阿戸は楽しそうだ。
外に出る。
カシャカシャ!
外に出ると、葉阿戸は表情豊かにモデルになった。
僕は堂々と歩く葉阿戸に見惚れる。
(白衣の天使とはまさにこのことだ)
しばらく外を歩いて、写真を撮りまくった。
「寒いし、そろそろ良いですか?」
葉阿戸はブルブル震えて、鳥肌が立っている。
「葉阿戸これよければ」
僕は学ランを貸す。
(半袖、スカートはたしかに寒いだろうな)
「ありがと!」
「それでも絵になるね。じゃあ、戻ろう」
「「「おおー」」」
僕らは部屋に戻り、今日の1枚を決めて、帰ることになった。
「シースーだぁ! 奢ってくらはいぃ!」
「吉美市宮内のモノマネするなよっ!」
着替えた葉阿戸はツボにはまっている。
「たいー、茂丸、日余さん、遅くなってごめん」
いちがやってきた。




