34 差し伸べられた救いの手
昼休み。
僕らは教室に帰還した。その後、すぐに出来上がったテスト対策の紙が5枚ずつ赤点組に配られた。僕のいらなくなった赤い半透明のシートも、3等分で手渡した。
茂丸も視聴覚室でのスキャナーでのコピーに一役買ってくれた。
「ありがとう、勉強するよ」
竹刀は嬉しそうに微笑みを浮かべた。
「絶対に赤点とるなよ」
「茂丸が言うなよ。お前もだろ」
「フラグたつから、もう黙って勉強してくれ」
僕は場を収める。
「あ、葉阿戸だ」
「嘘だろ」
「無視するんか?」
「どこにいるんだよ。いないじゃねえか、うわ!」
僕が振り向くと茂丸の手には日本人形がいた。
「ど、ど、どうして」
「いい反応だな」
「今さっき、YOUがテスト作っているときに生徒会の人が返しに来てくれたよ」
鳴代はニヒルな笑みを浮かべて、離れていった。
茂丸もロッカーに日本人形をしまった。
「茂丸、変ないたずらするなよ、怖いだろうが」
「あ。そういや葉阿戸の写真集なんだけど。イカ臭いから触らないほうがいいぞ」
茂丸は自分の机にある葉阿戸の写真集を見ている。
「写真だけ出して捨てるよ。うお! なんかベタついてる」
僕は写真集から写真を出して、新たなファイルに入れて、元のファイルを捨てた。
「飯食おうぜ」
「食欲ないんだが」
「いいから。おまるが来たら本格的に食べれなくなるぞ」
「それもそうだな」
僕らは弁当をつつき始めた。
キンコンカンコーン
半分ほど食べているとチャイムがなった。仕方無く弁当をしまい、ズボンとトランクスを脱いだ。
アヒルのおまると、ゴミ袋を持った担任が現れた。
「いつも通りに集めてこいー」
「っち、しゃあない」
僕は舌打ち混じりでズボンとトランクスを集めた。
「先生に舌打ちしたのかー?」
「おまるにです!」
僕は即答した。
「ヒニネニヒ君に舌打ちするなー、次したら、減点なー」
「ヒニネニヒとは?」
「おまるの愛称だー。可愛いだろうー」
「あー」
「何だその反応はー。ここで立ちションしてもいいんかー?」
「だめです! せめて座ってやって下さい。あの、月曜日までにフタ買ってきます」
「ほー、なるほどー、蟻音はずっとこのままでいいと宣言かー」
「いやそういうわけでは」
僕は言葉尻をとられて反論しようとした。
「じゃあそういうことで」
がらら
「席に着けー!」
現代文の先生がやってきた。
「深呼吸、礼!」
「「「お願いします」」」
そうして授業が始まった。
ブリブリ。ボッチャン!
いきなり、前の方から脱糞音が聞こえてきた。
匂いが広がる。
僕らは私語を慎むが、誰かしらと顔を見合っていた。
現代文の先生は気にせず、黒板に向かっている。達筆で書かれたのは”水の東西”だ。
「今日は”水の東西”を勉強していく」
先生はプリントを配った。
文章と漢字と語句の意味のそれぞれ空欄が書かれてある。
「先生が音読するからよく聞けよ。「鹿おどし」が動いているのを見ると〜〜〜〜」
先生は音読し始めた。今更驚くこともない、恒例のことだ。
「〜〜〜〜はい、それでは、今の小説を200文字に要約しろ。後の漢字もな。15分以内だ」
先生はこれまた難しいことを言った。
僕は一生懸命ペンを走らせる。しかしながら、漢字しか埋まらなかった。ペンはぐるぐるとまるでブラックホールを書いているかのように黒い丸ができる。考え事している僕の癖だ。
(理由がわからない。何をどう略せばいいんだ?)
「じゃあ、時間になったので答え合わせする」
先生は長々と要約した文章を書いていく。
僕は死にものぐるいで写した。
もちろんただ写しただけだ。
次に先生は漢字と、語句の意味を書いていく。
僕は自分で黒板に書くスタイルじゃなくて、助かった。メガネを上げながら、隣の茂丸を見る。
茂丸は腕を枕にしてこちらを向きながら眠っていた。
キンコンカンコーン
授業が終わった。
「深呼吸、礼!」
「「「ありがとうございました」」」
「茂丸。寝るな、勉強しろ」
「んあ?」
茂丸は眠たそうに体を起こした。
「次、総合の時間だけど、多分自習だよ」
「じゃあ、なおさら寝れるな?」
「なおさら、勉強しろ。30点以下は戦犯だぞ」
「あ、そうだった」
茂丸は僕からもらったテスト対策と赤いシートを出した。5枚の紙にはホチキスがとめられている。
「たいの字ってポップだよなー」
「うるせえ、八つ裂きにするぞ」
「怖いって」
茂丸はノートに勉強し始めた。
キンコンカンコーン
がらら
担任が入ってきた。
「はいー号令ー」
「深呼吸、礼!」
「「「お願いします」」」
「じゃあ皆ー、自習だー、先生は後ろで丸付けしてるからーうるさくするなよー」
担任はパイプ椅子を持って、ロッカーを机に、宿題のプリントを丸付けしている。
比井湖と竹刀と茂丸は勉強に励んでいる。
時間はあっという間に経って、授業は終業した。終礼も順調に進んで放課後になった。
◇
放課後。
僕は弁当を食べていた。
「たい、さっきの現文の授業分かった?」
いちが珍しく僕の前に来た。
「いや、ぜんぜん、これっぽっちも!」
「頭の中で書いて、まとめればいいんだよ」
「いちはいいよな、頭の中に色々な引き出しがあって」
「卑下しないでよ、別にマウント取りに来たわけじゃないよ!」
「僕に何しに来たんだよ」
「この本読むとわかるかなって思って」
「現代文のフレーズがわかる本」
「図書室にはないよ、うちはもう全部読んだから、あげるよ」
「いいの?」
「うん、前々から世話になってるからね」
「ありがとう!」
「いいえ」
いちは可愛く歯を見せずに笑うと、自分の机に戻っていった。
「今日も終わりだな」
僕は隣で頭を抱えている茂丸に話しかけた。




