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33 臭い教室

がらら


僕らは担任がいきなり教室に来たのでぎょっとする。身構えていると彼はトランクスを持ってきたようだった。


「選択科目で科学の人のトランクスを返すー」


担任は8枚のトランクスを渡して、教室から出ていった。その8人も後に続いていなくなる。


キンコンカンコーン

がらら


生物のおじさん先生がやってきた。


「深呼吸、礼!」

「「「お願いします」」」


僕らは鼻をつまみながら号令を済ます。

生物の先生は虫食い問題のプリントを配り、大事なところを黒板に書いて答え合わせしていく。

おまるのことは特に触れずに授業が終業した。


「深呼吸、礼!」

「「「ありがとうございました」」」

「ごほん! はー臭かった」


生物の先生は本音を漏らしていなくなった。


「はー臭かった、じゃ、ねえよ!」

「あ! そうだ! 消臭スプレーがある!」

「そうだった! 早速かけてみよう」


がらら


「はー臭いな」


科学組が帰ってきた。


「終硫いいところに来た! この消臭スプレーをあのおまるに! 僕はもうだめだ」

「たい、大丈夫か?」


終硫は僕に借りた消臭スプレーを例の場所にかける。


「あまりの臭さに涙が出てきた」


いちは口で息をしている。


「そうだな……あの上に俺のあれをかければ薄まらなくないか?」

「やめてくれ! いろんな匂いで鼻がやられてしまう」


僕は竹刀を止めた。

次は古典だ。宮内の授業だ。


キンコンカンコーン

がらら


宮内が来た。顔にはマスクを、目にはサングラスを着けている。

僕は一瞬(不審者?)と思った。しかし宮内は珍しく教材を持っている。


「深呼吸、礼!」

「「「お願いします」」」

「先生、その格好……」

「あーこれぇ? 風邪予防よぅ!」


宮内はそう言うと、黒板に文字を書き始めた。


「やってんねぇ」


僕は(うんこ臭いの知ってんな)と脳内で解釈した。

枕草子。

そう、下手くそな字で書かれた。


「42ページ、音読してくだはいぃ。倉子から句点で後ろの人に、1番後ろに来たら左横から前に、1番前に来たら、左の前の席の人にねぇ。はいぃ、せーのぉ!」

「春はあけぼの〜〜〜〜」


いちから読み始めた。


「〜〜〜〜昼になりてぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりて、わろし」


そして、反対側で窓際の鳴代までで終わった。


「はいぃ、清少納言は〜〜〜〜」


宮内が解説をする。

ちゃんと授業をしている宮内に、僕は驚いた。


「それでは漢文の問題ぃ、終わらなかったら宿題なぁ」


宮内は裏表あるプリントを配った。そして、前回のプリントを丸付けし始める。

僕は古典はあまり得意ではないので、宿題として持ち帰る事になった。


キンコンカンコーン


「それでは号令ぃ」

「深呼吸、礼!」

「「「ありがとうございました」」」


がらら


宮内はさっさと退室した。


「あいつ、絶対臭いからグラサンでマスクしてんだろ」

「どう見ても不審者」

「それだわ」


皆で談笑する。

次は体育だ。


がらら


担任が眉間にシワを寄せて、皆のトランクスを返しにきた。


「じゃあそろそろ、臭いおまるを片付けるー。蟻音、反省したかー?」

「反省しましたー、すみませんでしたー」

「あー臭えー」


担任はおまるを持って引き下がっていった。


「やっと開放される! やったー!」

「なにか勘違いしているなー。5限にはおまるをセッティングしとくぞー?」


担任が、聞きつけたのか、廊下側の窓を開けて顔を出した。


「先生、おまるにうんこして恥ずかしくないんですか?」

「蟻音との約束だからなー」

「僕ら、成績伸ばします、だからおまるをやめて下さい」

「来週の月曜の世界史探求のテストで100点満点中30点以下がいたらー、来週もー、来年もー、卒業するまでおまる学級だからなー」

「……あう!」

「勃起マン……」

「わかりました、約束ですからね」

「まったく、おまるつけろって言ったりー、とれって言ったりー」

「すみません」


僕は謝りながら、吐きそうになる。


「体育頑張れー」


担任は離れていった。


「どうするんだよ、勃起マンと比井湖と茂丸は、赤点の常連だよ」

「死ぬ気で勉強させるしかないよ」

「俺が何だって?」


茂丸は教室のドアを開けた。


「茂丸!」

「さっきまで臭くて、大変だったんだ」

「何があった?」

「実は〜〜〜〜」


僕は今朝から今にかけての事を話した。


「ええええ!? なんか後引く匂いがすると思ったら、そんな事があったのか」

「茂丸、あんたも30点以上とれよ」

「とれるかなぁ」

「とるんだよ! 徹底的に叩き込むから」

「まじかよー」

「とりあえず、体育だから着替えよう」

「そうだな」


僕らはジャージに着替えて、外に出る。


「「「寒すぎる」」」


皆で、がたがた震えてる。


「今日は来週の水曜日に行われる持久走大会の練習をする。ゆっくり先生が前を走るからついてこいよ」


山田が今日も半袖半ズボンで校門前に来た。


「嘘だ! 絶対に置いていかれる!」

「遅い生徒には気負いをいれるぞ。ああ、茂丸はここで待ってな、病み上がりだろ!」

「気負いって?」

「ケツバットだ! 嫌なら死ぬ気でついてこい。スタート!」


山田は走り始める。

僕らは後を必死になって追った。

いちが1人遅れをとる。


「皆、もう少しゆっくり走ろう」

「赤信号、皆でわたれば怖くない、だな」


竹刀の言葉に皆は無言で首を縦に振る。


「ハッハッ、それ、死語だから、ひゅーひゅー」


いちはツッコみながら速度を上げた。


「後ちょっとだ」

「おいおい、皆、遅いぞ!」


山田が速度を合わせてくれた。

そして、しばらく走って、校門に再度着く。


「ビリッケツは誰かな?」

「「俺(僕)です」」


竹刀と僕が真っ先にハモる。


「うちです」


いちは小さく呟く。


「いや、僕です」

「いや、俺です」

「いや、うちです」

「あー、分かった、3人は罰として俺とハグだな」


「「「嫌です」」」

「そこは合わせんでいい。肌と肌を触れ合うことで脳内物質、オキシトシンが分泌される。それには不安やストレスを抑制したり、幸福感を高めたりする効果があると言われている。信頼を高める効果もある。よし、竹刀からだ! ギューッと言え」

「ギャア!」


竹刀はいきなり抱きしめられて絶叫する。筋肉が締め付けられている。


「ギューだ!」

「ギュウ!」

「次は、蟻音」

「はい」


僕は骨がきしみそうなほど抱きつかれた。


「ぎゅー!」

「OK! 最後は倉子!」


山田はいちを壊れそうな人形のように優しく抱きしめる。まるで猫可愛がりしているかのようだった。


「ギュー」


いちが言うと、山田はいちの髪を撫でながらどいた。


「先生、えこひいきじゃないですか?」

「倉子はお前たちと比べてひ弱なんだよ」

「先生の先生がお元気のようで」


茂丸は横槍をいれる。


「なんか当たると思ったら、そういうことだったんだ」


いちは素早く口を動かす。


「さて、残りの20分はどうしようか?」

「ソフトボールでキャッチボールしようぜ」

「いいぞ。倉庫から出すぞ」


山田は歩きながら、ポケットから鍵を出して、体育倉庫を開けた。

皆はボール入れに群がる。


「鳩じゃないんだから!」


茂丸は遠巻きに眺めている。


「茂丸は座ってな。いち、やろうぜ」

「うん! でも僕、不得意だけどいい?」

「いいよ。僕も得意じゃないけど。いくぞ?」

「おーらい!」

「ジュワッ」


僕はいちの方向にボールを思い切り投げた。

いちは軽々キャッチした。そして、いいフォームで投げ返してくる。


「どうどう!」


僕は危なげに受け取った。手が痛い。


「ジュワッ!」


何度かラリーの応酬が続き、チャイムがなった。

キンコンカンコーン


「体育終了!」

「楽しかったー」


いちが目を線にして笑う。


「良かったー」


僕は自まつ毛の長い繋がりで、葉阿戸の事をふと思い出す。


「たい、赤点取らないように勉強しようと思うんだけど、なにか言い方法ない?」

「世界探求は暗記科目だから、頭に詰め込めるだけ詰め込めよ」

「たいの作ったテストで勉強するから、テスト作って?」

「いいけど、山が外れても知らないからな」

「ありがとう、たい」

「絶対赤点とるなよ」

「勃起マンと比井湖っちにもそのテスト見せてもいい?」

「いいけど、テスト用のルーズリーフだから結構あるぞ?」

「わかった」

「昼休みに渡すよ」


僕は家で勉強していて、良かったと思った。


「勃起マン、比井湖っち。たいが練習用にテスト作ってくれるって!」

「おお! それなら赤点の心配ないな」

「今日中は流石に無理だろ」


比井湖はぼやいた。


「虫食いにして赤で埋めるだけだから簡単だよ」

「そうと決まればさっさと戻ろう」


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