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29 大会の当日4

『続きまして、3年生、軽場南波。去年の優勝者です! 再び栄光を掴むことはできるのか? これは見ものです!』


司会の声とともに南波は中央に躍り出る。

僕は南波の出方を待つ。

南波は机の方まで行くと、指につばをつけて、ペラペラと写真集をめくる。

さすがに2回戦目は出なさそうだが、南波は勃起させている。


「僕の葉阿戸の写真集が!」

「包茎頑張れ!」


葉阿戸の声がした。


ドッ!


場内は笑いに包まれる。


「うぐぅ!」


南波の精液はマットに空高く上がった。


「あー飛球(フライ)だ」


僕は哀れにも口が先に出る。


『えー只今の記録44センチです』


司会は冷静沈着に述べた。

僕は優勝したということを噛みしめた。


がやがや。


『蟻音たい君にはドーピング疑惑がでておりましたが、協議の結果、合法とみなされました』

『よって優勝は、蟻音たい君率いる1年3組のチームです! おめでとうございます』


パチパチパチパチ!

ピーーーー!

わーーわーー!


「午後1時からは表彰式を行います。1年3組の代表に賞状、賞金、トロフィーとあるものを授与します。それから3年1組の代表に賞状、トロフィーを授与します。12時45分には再度お集まりください。以上、生徒会からでした』


そうして、昼休みになった。

僕はというと、胴上げされていた。


「わーい! わーい!」

「あ! そろそろ、弁当の時間だ!」


僕は下ろしてもらうために変な演技をした。


「「「じゃあそろそろ行くか」」」


皆は僕を下ろして、体育館から出ていく。


「わあ、コホン、コホン」


前を歩くいちは咳をしながら歓声をあげていた。


「何だよ? お! 雪だ!」


雪は降り積もり、真っ白い世界を演出していた。

まるで違う世界に来たかのようだった。


「今日帰れるかな?」


僕はもう降ってない雪を眺めていた。

(僕をお祝いしてくれているのかな)


「じゃいに送っていってもらおうよ」

「そうだな」


僕らは渡り廊下から教室まで歩を進めた。


「君達!」


1年3組の廊下で葉阿戸とじゃいが待っていた。もちろん今日はちゃんとした学ラン姿だ。


「優勝おめでとう!」

「まあな。ありがと! 2年が転んだからどうにかなったわけだがな」

「僕のセリフを全部取らないでよ、茂丸!」

「今日帰るの億劫だ? 車に乗せてやても良いでごわす」

「ありがとう、じゃあ、そうさせてもらうね」

「終わたら待てるだ」

「じゃあ、飯だから、またな」

「またね」


僕らはいつものように机に座ってご飯を食べた。

僕は弁当を隠すと、茂丸にまじまじと見られた。何も言われなかったが、茂丸の悲しそうな目をしばらくは忘れなさそうだ。


その後、トロフィー授与が行われるため皆は体育館へ到着した。


『皆さん席を立って、ステージ台付近にお集まり下さい』


司会が話している。

僕と茂丸、それから竹刀はステージ台に上がってステージの脇のところに集まっていた。


『それでは2位、3年1組、軽場南波』

「銀賞、軽場南波殿は飛距離大会で名誉な成績を収めたのでよってここにトロフィーを贈り、また之を表彰します  飛距離大会実行委員会 会長 飯野正行」


南波は不満そうな顔で賞状とトロフィーを受け取った。


「それでは1位、1年3組蟻音たい、授与の便宜上、クラスメートも表彰席に並びます」


「金賞、蟻音たい殿は飛距離大会で名誉な成績を収めたのでよってここにトロフィーと金一封と記念品を贈り、また之を表彰します  飛距離大会実行委員会 会長 飯野政行」


僕は賞状とトロフィーをもらった。

茂丸は金一封を、竹刀は金色に輝く陰茎のオブジェをもらった。

僕以外の1年3組の2人はステージ台の下に降りていく。

(あれのオブジェとか、絶対いらねぇ!)


『それでは表彰台に登って下さい』


司会が話を進める。

表彰台の1位のところに僕は登った。

2位の南波は悔しそうにしている。

3位は不在だった。


パシャパシャ。カシャカシャ。

皆が写真を撮る。強烈な音に鼓膜がどうにかなりそうだった。


ざわざわ。


僕は何気なく茂丸の方を見た。


「茂丸! 危ねえ!」


僕の声に周囲の人はびっくりする。

当の茂丸は、コンパクトナイフが腹部に突き刺さっていた。そしてそれをひっこ抜くモブ。

茂丸の腹から血がどくどくと出ている。

モブはもう一撃加えようと刃先を茂丸に向ける。


「茂丸!」


僕が叫んだ次には、山田が自分の手にナイフを貫通させて、そのままモブを投げていた。関節技を決めている。山田の手から血が溢れる。


ざわざわ、ざわざわ。

何がなんだかわからない様子だ。

「誰か警察と救急車、呼んでくれ!」

「大丈夫ですか!?」


近くにいた保健室の先生が救急箱を持って駆け寄る。


「俺が呼ぶ、ちょっと待ってろ」


意外な人物が、そうマイクに言ってのけた。

彼は裏で糸をひいている南波だった。


『もしもし、……事件です。私立御手洗高校で生徒がナイフで刺されました。救急車も1台お願いします。はい、俺の名前は軽場南波です。1人の男子は腹部を刺されています。先生も手を負傷してます。お願いします』


そういう南波に僕は呆気にとられる。茂丸のところまでは人混みで近くには行けなさそうだ。地団駄を踏む。


「あんただろう、首謀者は! くだらねえ真似しやがって」


僕は南波にタックルする。


「俺は関係ないぜ」


南波はステージではぐらかす。

僕は真正面から受けられた。低身長の割には筋肉がありずっしりと重たく感じる。

そのうちに真横にずれてかわされた。


「あんたの親がモブの父を解雇や地方に飛ばしたりできる地位なんだろ?」


僕は転びながら、必死に食らいつく。

南波はいきなりニヤついていた顔から真剣な顔に変わった。


「モブから聞いたのか?」

「夢で見たんだ」

「あいつ裏切ったんだな」

「信じられないかもしれないけど。あんた生徒会の副会長と組んで僕をTE○GAを選ばせてはめようとしただろ」


南波は辛いものでも食べたかのように汗だくになっていく。


「どこまで知ってるんだ」

「そりゃ言えないな」


僕はハッタリをかます。


「父のことは黙っていてくれるか」

「インサイダー取引のことか?」


僕は適当なことを南波に耳打ちした。


「誰にも話してないだろうな!? 頼む、黙っていてくれ」

「じゃあ、警察に命令したことを話せよ」


僕はまっすぐ目を見て話す。効果は抜群だった。


「それで、勘弁してくれるんだな! 分かったから絶対に内密にしてくれよ」

「今後もう、人を傷つけないって約束守れるか?」

「守る!」

「絶対だからな。破ったら分かってるな」

「はい」


そういう南波を後にして、僕は少しずつ、茂丸に近づいていく。


「通してくれ」


僕は人垣で八方塞がりになる。

バン!

ちょうどよく警察と救急員が到着して押し入った。

その隊員達に、男子は蜘蛛の子を散らすようにあぶれる。


「彼です」

「名前は? 住所は? 年齢は? 家の電話番号は?」


マシンガントークのように根掘り葉掘り問いただされている。。

対して、茂丸の声は小さく、ざわめく館内では聞き取れない。


「たい! よそう! これ以上茂丸に気を使わせるな!」


気がつくと葉阿戸は僕の前に立ちはだかっている。


「葉阿戸……」

「今日の帰り、じゃい君の家の人に病院まで送ってもらおうよ」

「そうだな」


人と人の隙間から、茂丸がストレッチャーに乗せられて運ばれていくのが見える。


『皆さん、危ないので一旦学年別、クラス順に並んで下さい。朝と同じ並びです。将棋倒しが起きないように、この非常事態を乗り越えましょう』


放送室から入った声が皆を落ち着かせる。

モブももう警察に連れて行かれたのか、姿がなかった。


『それでは1年3組から順に出ていきましょう』


僕らはそのまま列に並んで、渡り廊下に出た。

雪は若干溶け始めている。

僕の目の前は霧がかった様に感じた。


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