2 男心と秋の空?
「え? 男? 女?」
「どっちだと思う?」
程よく肉のある二の腕をこちらに伸ばしてきた。
「男の娘だよな?」
「正解」
「ああああ、今僕に、正解って言わないでくれ」
「君、3組の委員長の蟻音たい君だよね?」
「可愛いのに声がイケボなのは卑怯だと思う」
「俺、日余葉阿戸。葉阿戸でいいよ。本題に入ろう、誰がうんこしたっていいじゃないか。明日には忘れているよ」
「はあ、もう、無理、英語の時間中いつもフラバすると思う」
「朝、家でしてくればよかったのに」
「朝は腹痛、なかったんだ」
「そう悲観することじゃないよ」
そういう葉阿戸に僕は胸の高鳴りを感じた。
「あんた、部活とか入っている?」
「あんたじゃねえよ、葉阿戸な。写真部に所属して、コスプレとかしてるよ」
「いいなあ、僕も入りたいな」
僕は葉阿戸に惹かれていて、なにか接点が欲しかった。
(この子のコスプレ絶対可愛い)
「先生に言っとくよ。入部届は明日のこの時間、また図書室に来たら渡すよ。火、木が部活時間だから。でも、蟻音君はなんの部活にも入ってないのかい?」
「帰宅部だよ、名前、たいでいいよ」
「たい、また明日来てくれ。ちょっとは気持ち落ち着いただろう?」
「うん」
僕は葉阿戸と話していて心が穏やかになった。
「写真部は何人くらいいるんだ?」
「先輩が5人、1年は8人くらいかな。たいが入ってくれるなら歓迎してくれると思うよ」
「写真部の姫だな」
「俺のこと?」
「他に誰がいるんだよ?」
「ありがとう」
「じゃ、じゃあな」
僕は照れ隠しに顔を背けて、図書室を出ていった。
「やばい。僕の好きなのは女の子なのに、おかしい、おかしいな」
ぶつぶつと独り言を言いながら、教室に入った。
「包茎委員長、帰ったのかと思った」と茂丸。
「うるせえな、包茎なのは他にもいるだろ。変なあだ名つけるな」
「後は包茎と言ったら些加王子だけだよな。だが、王子にそれは言うなよ。王子は合コンを開いてくれるんだから」
「日本人の6〜7割は包茎なんだぞ!」
「奇跡的にか意図的にか、2人以外、包茎でない人が集まってるんだよな」
ガララ
喋っていると、ゴミ袋を持った担任が現れる。
「えーそれでは、後ろからトランクスを回収してくれー」
「ちっ」
僕は席順の運を呪う。自分と前の席の人のトランクスを集めて前のゴミ袋に入れた。
ウィーン。
席に座ると自動的に足が固定され、トイレの蓋が開く。
「それでは世界史探求の授業を始めるー」
「深呼吸、礼! お願いします」
「「「お願いします」」」
世界史探求は暗記科目なので、僕は居眠りすることにした。
「よく恥部がさらされてる中、居眠りできるな。起きろ、包茎委員長!」
しばらくしてから茂丸に起こされた。肩を叩かれている。
「ふぇ?」
「もう終わったぞ。帰るぞ」
机の上にトランクスと学生服のズボンが置かれていた。トイレは閉まっており、足の拘束も解けていた。
僕はのそのそと着替える。
「今日はラーメン行くか?」
「うん、あのさ、僕、運命の出会いしてしまったかもしれない」
「この男子校のどこで? 寝ぼけてんのか? 今日唯一の女性の前でやらかしてたくせに」
「その話はやめろ。……日余葉阿戸さんって知ってる?」
「知ってるも何も、隣のクラスのインフルエンサーじゃねえか?」
「え?」
「やめとけやめとけ、男を侍らすのが好きらしい。可愛い顔して男に貢がせるって噂だぞ。仮にお前が言い寄ってもライバル多すぎんだろ」
「そうなのかな、僕、もうその子のいる部活に入ることになってるんだけど」
「はあ? お前、帰宅部じゃねえのか?」
「写真部になります! だから火、木は1人で帰ってくれ」
「ふざけんな、だったら俺も入部するぞ」
「ええ?」
「お前に悪い虫がつかないように見守ってやるって言ってんだよ」
「僕が望んでそうなるんだよ?」
僕は慌てて言うと、茂丸は鋭い目で僕を見た。
「骨の髄まで吸い取られてもいいんか? 目を覚ませ!」
「うーん」
僕は答えが出なかった。