17 休日を楽しむ事にした
「おかえり」
「ただいま」
僕は母に出迎えられる。
「お父さん、早く帰ってこれるって」
「そう、余計なことは言わなくていいから」
僕は風呂横の洗面所で服を脱ぎハンガーにかけると、風呂入って、シャワーを浴びる。そして髪を乾かし、トランクス姿で2階に行く。その間15分だ。2階でパジャマに着替える。
「ゲームでもするかな」
「たい! 明日、昼ご飯何がいい?」
母が部屋に入ってきた。
「入ってくんなよ。外食でいいでしょ。僕はラーメンか寿司がいい」
「妹のやってるラーメン屋に行こう」
「好きにしてくれ」
「お父さんも明日休みだって」
「ふーん、じゃあ好きにしてくれ」
「12時までには起きなよ」
「朝飯食って、寝ねえよ」
「じゃあねー朝はカレーだから」
母がいなくなった。
僕はゲームをして時間を潰した。
しばらくして、玄関先がうるさくなった。
「今帰ったぞー!」
「おかえり!」
「今日は寿司持って帰ってきたぞ」
「あなた、たいは友達と牛丼行ってきたんだってば」
「寿司だったら食うよ!」
僕は反射的に階段に向かって声を上げていた。
「まあまあ。明日のお昼ご飯はラーメンだよ。私の妹がやってるとこ! つけ麺が有名な」
「おっいいな、そりゃ」
「父さん、母さんの分の寿司を置いて、2階に来てくれる?」
「ああ、例の話な!」
父は着替えると2階に上がってきた。
「大事なところの話か?」
僕らは寿司をつまむ。
「いや、それもだけど。実は飛距離を測る大会に出させられるんだけど。何かコツとかない?」
「何だその大会? 学校行事なのか?」
「3年前からあるって。校長の元にも届いているんだ」
「何処でやるんだ?」
「体育館で」
「寒くないのか?」
「それは大丈夫、いつもストーブがついてるから」
「助走つけて飛ばすのか?」
「そうなんだ、そこが問題なんだ」
「助走は危ないから止めとけ。最下位にならんようにうまくいなしておけばいい」
「やっぱりそうだよね、うん、そうするよ。ありがとう」
「大事なところは気にするな。皆の悩みの種だ」
「うん。父さんもそうなのか?」
僕はある種の期待を込めて言う。
「じゃ、俺は風呂にゆっくり浸かるよ。おやすみ」
父にはぐらかされた。
「おやすみなさい」
僕は歯を磨いて、寝入ろうとする。
(はぐらかしたって事は立派なものがぶら下がっているんだろうな)
その日は寝付きが悪かった。
次の日。
父と母は散歩に行ったようだ。
「いただきます」
僕は食事にありつく。
我が家のカレーライスは辛い。しかし、数々の香辛料の味がして、母の愛を感じる。
「ごちそうさまでした」
10分程で食べ終えた。
僕は2階に戻った。
「勉強しよう」
僕は有名大学の赤本を開く。
過去問をいくら解いても、答案は不出来だった。答えをみても、身についた気がせず、投げ出していた。そもそも勉強に興味がなかった。しかし、この男子校をトップで卒業できれば、夢のようなキャンパスライフが待っているはずだ。
「そうだ」
僕は”勉強が出来るようになったらモテる”と書かれたハチマキをつけて勉強の世界に没頭した。
そのおかげか、数学の公式を覚えて使いこなせるようになった。英語もあのトラウマを拭いさり、文法がわかるようになった。
「たい、行くわよ!」
「あー、うん」
連れ出された先で食べた味噌ラーメンは濃厚で美味かった。
母が白髪混じりの店員と仲良さそうに会話していた。おそらく、母の妹だろう。
僕はケータイをいじる。
最近は小説のサイトを検索して読んでいる。
(自分で書くのは無理そうだ)と思える小説ばかりだ。
「ねえ、何読んでるの?」
「ひゃあ!」
隣に小学生くらいの女の子がいた。
「えっと、小説家になりたい人が集うサイトだけど」
「ふうん。ねえ、ゲームさせてよ。銃で撃つやつ」
「風子、たい君が困ってるじゃない。黙ってなさいな」
母の妹の娘、つまり風子は僕の従兄妹だ。
「妹がいたら」
「兄がいたら」
「「こんな感じだったんだろうな」」
僕達は声を合わせてため息をついていた。
「あんた達、息ぴったりじゃない」
「公認しとく? 兄妹って」
「お兄ちゃん、ちょっとこの辺にいい駄菓子屋があるの。ついてきてよ」
「風子ちゃん、待って、僕は兄ちゃんなんて柄じゃないよ」
「たい、この辺の町一周して帰っておいでよ。まだしばらくここにいるから」
「ケータイと財布はあるな、よし、行こう」
僕はリュックの中を探って確認した。
「バーン!」
風子はおもちゃのピストルを僕に向けている。
「サバゲーはもっと大人になってから!」
「え? サバゲーって何?」
「えっと、エアソフトガンを使用して打ち合う、大人の戦争ごっこ……ちょっと、僕のケータイ!」
僕は風子に、読んでいる途中でケータイを奪われた。
「それがないと帰れないんですけど!」
「面白いアプリ入ってないかな、誰このお姉さん」
風子はメール履歴をチェックしだした。お姉さんとは言うまでもなく葉阿戸のことだ。
「その人、男の友達だから」
「綺麗な人。どうせ嘘だから、電話してもいい?」
「いいけど、男だったら、ケータイ返せよ」
「了解であります」
風子は軍に所属しているかのように敬礼した。
僕は風子が葉阿戸に電話かけているのを見守った。
(葉阿戸はどんなリアクションするんだろう)
プルル、プルル、プルル。
『もしもし、たい。なんか用か?』
「……本当に男の人だ……!」
風子は声にならない驚きを見せてから、声を出す。
「だから言ったべ?」
『たい、君ってやつは、俺のせっかくの休日を良くも遊んでくれたな』
「ごめん、従兄妹がさ、あんたのこと女の子だと勘違いしててさ! 電話にでてくれてよかった!」
「なんだ、彼女なんているわけないもんナ! はっはっは」
「あんたに言われたくないわ、じゃあ、要件はそんだけだから、またな」
僕は無作法にもほどがある電話の切り方をした。
(普通のリアクションだったな)
「僕のこと真似しないでな。風子ちゃん」
「うん」
「じゃあ、駄菓子屋に行こう、奢ってあげる」
2人は手を繋いで歩いた。