16 イツメンとじゃい
「葉阿戸は何してんだ」
「ごめん、ネイル塗り直してた」
「行こうぜ」
僕達は急いで、外に出た。角力家の所有している黒い車に乗る。いい匂いがする。助手席に葉阿戸、後ろに僕、じゃい、茂丸が乗っている。運転席にはサングラスをかけたスーツ姿の男性がいた。
「それでは、出発します」
「急いでくれ」と僕が言うと葉阿戸は表情筋が上がる。
「なにか変か?」
「いいや、なんでもないよ」
「今笑ってたよな?」
「別になんでもないよ」
葉阿戸はリュックの中からケータイを取り出して、何か書いている。
僕もケータイを出す。
(そういや、ハートピヨピヨというニックネームだったはず)
葉阿戸のアカウントはすぐに見つかった。顔が無加工のほうが可愛いのに残念な顔になっている。
「これから初の牛丼屋でーす! たいと茂丸が遅いから、じゃい君がトイレ行きたいふりしてるwwww 牛丼の写真は夜載せるよ! 楽しみwwww……っておい!」
「勝手に検索すんなよ! 俺がじゃい君にそう言っておいたんだ。グダグダするからってんで」
「俺本気で心配したんだぞ」
「僕も」
「すまなかただ」
「しょうがない、水に流そう、トイレだけに」
「さてはあんた、そのギャグ、結構気に入ってるな」
「まあな」
「許す代わりおっぱい揉ませて」
「しゃーないやちゃだ。ちゃーちゃーだ」
「何語?」
「素早く触れってよ」
「じゃあ」、僕は期待を膨らませて、じゃいの胸に手を当てる。学ランの上からでも柔らかいのが確認できた。
一方、茂丸は無遠慮に鷲掴み、「なんかちげーな」と唸っていた。
「生で触りたい」と申し出て、学ランの隙間から胸を揉む。
「これだ!」
「ちょっ、静かにしろ、バカ」
「到着しました」
「後はマッ◯シェイクだな。うん」
「茂丸、着いたって」
「うん」
茂丸とじゃいはお互い勃起していた。事が始まる前のようで、僕まで勃ってしまう。
「何? そんなに楽しかった?」
「いや別に……」
僕は葉阿戸にバレないように手で股間を隠す。
(鎮まれ、鎮まれぇ)
僕は今日の宮内の授業を思い出して、なんとか興奮が収まってきた。
「なんで皆、出ないんだよ。今日はたいのおごりって言ってたのに」
「なんで僕のおごりなんだよ! 茂丸だろ」
「1番食べるの遅かった人のおごりな」
「それいいな!」
「じゃあ僕ら先に行くから」
僕と葉阿戸は車から出る。12月の寒い風が吹き荒れている。
葉阿戸は僕を風除けにし、店内に入った。
僕はいきなりくっついてきた葉阿戸にドッキリした。
カランカラン
「いらっしゃいませ」
「4人です、2人、後から来ます」
「奥のお好きな席どうぞ」
「はい
1番広い奥の席に座った。
「じゃい君の胸そんなに気持ちいいんだ。俺も後で揉もうかな?」
「茂丸が変な触り方するから、僕らやることが出来ないのに……ああ、もう!」
「その話はやめよう」
葉阿戸は純粋な目で僕を見た。
店員はお冷を持ってくる。
「お冷になります」
「牛丼、並、4つ下さい」
葉阿戸は僕に何も聞かずに注文した。
「申し訳ありません。注文受付カウンターがございまして、そちらで注文と支払いを済ませていただけますか? 商品も受取口からセルフで受取になります」
「分かりました」
「何だよ、たい、恥かいたじゃねえか? 君知っていたはずだろ」
「ここの店はしばらく来てないんだよ。注文しに行ってくる」
僕は立ち上がり、注文した。
料理はすぐに出来上がり、僕は牛丼を持って席に戻る。
葉阿戸は自撮り棒で自撮りしている。
かしゃしゃしゃ
カランカラン。
「いらっしゃいませ」
「4人で、2人先に来てるはずなんですけど」
「茂丸。じゃい君」
葉阿戸は手のひらを見せる。
「おう。お前ら」
「おいら、ソファがいいだ」
「まったく、もう並、注文して出来てるからな」
「あんがと」
「ありがとうだ」
「「「いただきます」」」
全員で手を合わせて食べ始める。
じゃいは丼に口をつけて流し込むように食べる。
「ごつぁんです」
「「「速っ!」」」
僕らはものの1分で食べきったじゃいに驚く。
「ここまでお相撲さんだと逆に清々しいよ」
そういう葉阿戸はまだ3口も食べていないので、僕もゆっくりと食べることにした。
「ごっちゃんでーす」
茂丸は紅生姜を空いた皿にのせて食べ終わった。
「ごちそうさまです。美味かったよ、ありがとう、茂丸、たい」
葉阿戸は米粒1つ残すことなく完食した。
僕は葉阿戸に支払いをさせるのが嫌だった。
「ごちそうさま。結局、自腹は僕かよ」
「ゴチになります!」
「茂丸はデザート代出せよ、アイス買ってくるから」
「流石に可愛そうだから出すよ」
茂丸はひらひらと千円札を手で泳がせた。
僕は千円札をもらうと、一目散に注文カウンターに向かった。すると、すぐにカップに入ったアイスを受け取った。そして、席に戻る。
アイスを配ると葉阿戸は目を輝かせた。
「なんでも売ってるんだ」
「いや、なんでもってわけじゃないけど」
僕はアイスを一口食べる。
アツアツだった口の中が冷えていく。優しいバニラの味わいだ。
じゃいはちまちまと食べている。じゃいとアイスを比較すると、駄菓子のヨーグルを食べている人のように見える。
「ごつぁんです」
「俺もごちそうさま」
「ごちそうさま」
「ごっちゃんです」
全員が食べ終えると、席を立った。そして、返却口に皿を返した。
「帰るか」
皆が外に出た。
「そうだな」
「隙あり!」
茂丸はじゃいの胸を鷲掴み、声を張り上げた。
「どすこい! どすこい!」
じゃいは思い切り突っ張りをした。
「ぎゃああああ、うんこ踏んだ!」
茂丸は犬のうんこを踏み、そして、手に付着した。
「茂丸、これアルコールティッシュ。そろそろ学習しろな」
「サンキュー」
茂丸は手をよく拭いた。
角力家の車に乗り込み、行き先を告げて各々帰っていった。
僕の番がきた。
「それじゃあ葉阿戸、じゃい君、会えるか知らんけど月曜日な」
「またね」
「牛丼、ありがとうだ」
じゃいと葉阿戸は手を振った。僕も振り返す。
2人を乗せた車は遠く消えていく。
僕は家に入った。