13 何人かの仲間を連れて
昼休み。
「2組には悪いけど、2組は大会に出られないんだよな?」
「1組対3組になるかな」
「おいお前ら面かせや?」
「勃起マン!」
僕らは葉阿戸が竹刀に何か言ったのか、気になった。
裏庭まで犬の散歩のように歩かされた。
「あのう、何の話でしょうか?」
「お前らがじゃいにした事、俺が知らないわけないよなぁ?」
「「すみませんでした」」
2人は頭を限界まで下げる。
「噂になってんぞ? 輦台を壊してまで勝とうとする3組、えげつないって」
「葉阿戸が言ったのか?」
「いいや、洲瑠夜が今日の騒動でお前らの弁明を聞いてたんだ」
「あんな事してしまったけど悪いと思ってる」
「そんなことはどうだって良いんだよ。お前らに3組のボスが誰かわからせてやろうと思って。とりあえず土下座しろー」
竹刀の言うとおり2人は土下座する。裏庭の土は冷たい。
「ちょっと、話ってなんだよ。洲瑠夜君」
葉阿戸の声がする。
僕はゆっくり顔を上げた。
竹刀にそっくりの肌の黒いガタイの良い男がいた。
「「あ」」
葉阿戸は僕と同時に目があった。簿月兄弟の思惑に気づいたようだ。
「葉阿戸……」
「俺、戻るわ」
「俺がシコって、こいつらにかけるようで呼んでんだ。勝手に戻るんじゃねえ」
「竹刀君、薬やってるのか? 眼力強すぎだよ。俺はもうこの子達とは関係を持ちたくないんだ。どいてくれるか?」
「3分でいい、待ってくれ」
竹刀が自分の息子を取り出してシコリ始めた。
「う、イク!」
竹刀は僕と茂丸にその出したものをかけた。
「「うぇ」」
「はーちゃん、汚れたところ舐めてくれ」
「いくらだ?」
「無料だろ」
「タダならそのへんにいる人にやらせろよ」
「洲瑠夜」
「兄貴が言うことは絶対なんだぞ」
「ちょっと、離せよ、やめろ!」
葉阿戸は洲瑠夜に腕を思いきり引っ張られている。
「やめろ!」
茂丸は竹刀にとうせんぼされた。
「はぁ? お前ら、弟に手を出したらうんこ食わすぞ?」
「しょうがねえだろ! 好きなんだ! 絶対に! これ以上、変えられねえもんがあるんだ!」
僕は竹刀の顎に頭突きをかました。前髪についている精液が広がるのを感じた。竹刀は仰向けに倒れる。
「兄さん!」
洲瑠夜の腕が葉阿戸から離れたのを見守る。
「葉阿戸、逃げてくれ」
僕は洲瑠夜に飛び込んでいった。飛び蹴りは避けられて、無様にもアスファルトに不時着した。手足を擦った。
「言っても分からないようだな?」
洲瑠夜は赤いメリケンサックをポケットから出した。
僕は前髪についた精液を武器にして正面対決した。
殴られる、そう思った瞬間、右側から何かが激突した。
「たい!」
愛しい葉阿戸の声がした。
僕は花壇のレンガに頭を打ち付けた。
(幻聴か? ぶつかったのは一体誰?)
起き上がる前に気絶した。
◇
目が覚めるとそこは病院だった。
「へ?」
「先生! 蟻音たいさんが目を覚ましました」
看護婦は大声で駆けていった。
「無事で良かったよ」
母は僕を抱きしめる。
「君は脳震盪で運ばれてきたんだよ」
若いスクラブを着た先生がカルテを持ちつつ、声を出した。
「うちの息子を守ってくれたみたいですね。ありがとうございます」
髪の長い看護婦はそう言って、たいの手を掴んだ。
僕は頭の中にクエスチョンマークがいくつも浮かんだ。痛くはないが、頭が重い。何かが巻かれてある。
「僕、あの後、救急車で?」
「そう。俺が弱いから、だろ。悪かったな、たい」
「先ずは感謝からでしょ」
「助けてくれてありがとう」
葉阿戸は罰が悪そうにしている。
「葉阿戸の母さん?」
「そうですよ、葉阿戸の母の日余星です。ここは日青病院」
「親、音楽家じゃなかったのか?」
「それはクラスの皆が勝手に勘違いしてただけだよ」
葉阿戸はたらこ唇で話す。
「蟻音君、日余さんを守てくれてありがとうだ」
じゃいはこちらに向けて手を出した。
「じゃい君……、こちらこそ。君にはひどいことを、ごめんなさい」
僕はじゃいの手を握り、温もりを感じ取った。
「たい、お前、男気あるじゃん」
茂丸は僕の肩に手を置いた。
「茂丸! 僕は茂丸がいたから立ち向かえたんだ。皆、仲直りしたのか?」
「さっきな。あの話は水に流そうってことになった。トイレだけにな! じゃいも勃起できるし」
「おい、下ネタ言うな、学校じゃないんだぞ」
僕は焦りながら、小声で、茂丸を睥睨する。ふざける茂丸を叱咤激励する元気はなかった。
「今日は帰れるのか? 僕どれくらい寝てた?」
「今日はこのままお帰りいただいても差し支えありません」
「6時間と20分寝てたよ」
「今は6時20分くらいか、あー寝過さないで良かった、大会に」
「なんの大会か、知らないけど頑張ってね」
星はそう言うと、業務に戻り、病室から出ていった。
「帰ろう、たい」
母がこちらを覗き込んでいる。
「うん」
僕は安心して、起き上がった。
帰り支度を済ませる。おでこにガーゼと包帯が巻かれていた。このガーゼと包帯は明日にはとってもいいそうだ。
茂丸、葉阿戸、じゃいはタクシーできたらしい。
全員へと、母がタクシー代として1万円渡す。
「ハート守り隊は何をしていたのだ?」とじゃい。
「簿月兄弟はハート守り隊から除名しよう」
「んだ!」
外に出ると息が白く染まる程冷えていた。
僕は12月が好きだった。いろんな催しにイルミネーション、年の瀬がやってくるからだ。
しかし、変な大会があるせいで心は休まらなかった。
僕はてくてくと車まで歩いていった。