118 突然の来訪者
次の日
ピンポーン。
土曜日、
僕は勉強しているとなかなか鳴らないインターフォンが鳴った。モニターを確認すると、風子がそこに居た。迷いもなく玄関を開ける。
「こんにちはー」
「風子ちゃん、どうしたの?」
「よお、お邪魔するぜ?」
明日多里少が物陰から出てきた。
「げ! 明日姉さん」
僕は風子ちゃんを抱き上げている明日多里少を二度見した。
「ハッハッハ、風子ちゃんだと思って油断したな」
「何しに来たんですか? 変な事しに来たんなら帰ってください」
「ラブラドールの事言っちゃおうかなー」
「ラブラドール? 犬がいるの?」
「言わないでください。どうぞ中へ、大した歓迎をすることは出来ないけど」
僕は昨日掃除した部屋のことを思い出した。
(今日何かあると言っていたけど、この事か)
「たいちゃん、お茶菓子買ってくるわね。こんにちは、風子ちゃん、明日多里少さん」
「「お邪魔します」」
母が風子と明日多里少が家に入るのを見て、微笑んで家を出た。
「なぜ、明日姉さんの事、母さんが知ってるんですか?」
「葉阿戸と、昨日のうちに挨拶してきたからな。たー君、生徒会に入ったそうだな?」
「お兄ちゃん、すごいね! そうそう、見て、これ今季限定のリカちゃん! お兄ちゃんがポストに入れてくれたんでしょ?」
風子は我が物顔でリビングのソファに座る。
「何から突っ込んでいいのやら。えっと、僕は生徒会で雑用をしてて、大したことはしてないよ。リカちゃんは多分」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
風子に言われて、口がひくっとする僕。
「ど、どういたしまして」
僕は『会長がした』ということが言い出せなかった。
「お、ビールあんじゃん、いただき」
「ちょっと、ちょっと、やめて、冷蔵庫漁らないで」
僕は明日多里少の挙動を止めることは出来なかった。
「車で来たんですよね!? 飲酒運転になりますよ」
「風子ちゃんとバスで来たけど?」
「悪酔いするから、飲まないでください」
プシュッ
缶の開くいい音がなった。
「あ゛ーー、うめー。キンキンに冷えてやがるっ…………!」
「それは父さんのビール。ところでどんなルーツで風子ちゃんと知り合ったんですか?」
「えっとね、うちにリカちゃん人形がポストに入っているって言ったじゃん。一緒にお手紙が入っていたんだけど……お兄ちゃんが書いたんじゃないの?」
「ああ、そういうことか」
ブーブー
メールが届いた。
拓哉からであった。
『風子ちゃん、お人形喜んでくれたみたいだね。明日多里少さんにもたー君からの手紙が届いてると思うから、二人に合わせてね。健闘を祈る』
「見せて?」
「嫌です」
「葉阿戸から?」
「言いません」
「僕は明日姉さんのことが忘れられません。明日11時に風子ちゃんという女の子と来てください。2人に誤解を解きたいですって言ってたよな。今日は鞭も持ってきたけど? 使うか?」
「こんな小さい子の前で変なこと言わないでください」
「棒のほうがいいか?」
「だから、やめてくださいってば!」
「たー君はハーレム状態になりたいの?」
「僕は葉阿戸が好きなんですってば。明日姉さんは今日のところは帰ってください。風子ちゃん、こんな大人になっちゃだめだよ。前の日はせっかく風子ちゃんがいたのに彼女を優先してごめん」
「それはいいんだけど、お兄ちゃん、大変だね。色んな人に好かれて。ウチも好きだし」
「ええ? 風子ちゃん!?」
僕は目を丸くする。
「人として好きだってことだよ」
「なあんだ、びっくりした」
僕が言っていると、玄関の方から物音がした。
「ただいま!」
「おかえりなさい」
「お帰り」
僕らが挨拶する中、明日多里少はビールをグビグビ飲み干している。
「母さん、ちょっとこの子たちどうにかして」
「あら、ビール買っておいてよかったわ」
「ウチ、お兄ちゃんのママと遊んでるから、大事な話ししてきていいよ!」
「いい子ね、じゃあ明日多里少さんにつまみとビールとジュースね」
母が僕に飲み物ののせたお盆を持たせる。
「ありがとうございます、ちょっと2階借りますね」
「僕は勉強がしたいんだけど」
「たー君?」
「今行きます」
僕は決意して、階段を登った。
「明日姉さん、僕は浮気じみた真似をして申し訳ないと思っています。すみませんでした」
「あのさ、お姉さんともう1回付き合ってみない? 葉阿戸に内緒で」
「えー!? それはいけませんよ」
「いいじゃん? セフレでもいいよ」
「駄目です! 葉阿戸にバレたらとんでもない」
「どこのホテルでしようか?」
「茂丸としてください」
「あーしの魅力がないと言いたいのか?」
「そうではないけど、付き合っている人が居るのにセフレだなんて浮気です。茂丸が泣きますよ?」
「硬いな、分かったよ」
「健全な友達ならいいですよ」
「友達以上を目指すぞ?」
「目指さないでください。とにかく今日は帰ってください」
「ちぇ! 君からの手紙嬉しかったのに。筆跡は違ったけどな」
「よく分かりましたね」
「たー君のことが好きだったんだぞ?」
「ドSじゃなければ今も付き合っていたりして」
「じゃあ、ドSやめるから付き合え? 分かったな?」
「その発言にすでにサディストの感じがプンプン漂ってきて嫌です。じゃあ葉阿戸と茂丸を連れて、どこか遊びに行きましょう。友達として」
「分かったよ、しょうがないな」
「帰るんですか?」
「ここで襲ってもいいか?」
「駄目です、ちょ、ちょ」
僕は明日多里少に壁際にまで迫られる。
「飲み過ぎですよ?」
「ケツ出せ」
「は?」
「お尻ペンペン5回で許してやるよ。あーしを裏切ったこと」
「うーん、分かりました」
僕は下半身を晒す事にした。尻を突き出した。
バシーン!
「いったい! 何? 何?」
僕は後ろを向くと、鞭でおしりを叩かれていた。素手でやるお尻ペンペンの比でないほどの痛さだった。
バシーン!
「痛い! 素手でやってください」
パチン! パチン! パチン!
明日多里少は素手で僕の尻を叩いたようだ。
「ん? なにか痛くないのはなぜだ?」
「お兄ちゃん、これでおあいこだからね」
いつの間にか風子が僕の尻を叩いていた。
「じゃあ、あーし達は帰るか」
「明日姉ちゃん、そうだねー」
2人は、尻を出したままの僕を置いて、帰っていった。
「いい事なんてないじゃんか!」
僕の尻は赤く腫れ上がっていた。
「「お邪魔しました」」
2人はお土産にお菓子を持っていったようだった。
「まさか」
僕はケータイのメールを開く。
『会長。2人、今帰っていきましたが。僕のことドMのたー君だと思ってるんですか? 誤解です。僕はSでもMでもありません』
ブーブー
『ごめん。ドMのたー君が喜ぶと思って手紙にお尻ペンペンしてくださいって書いちゃった(笑)』
『鞭でやられました。次からはやめてくださいね』
僕は尻をしまうと、ケータイを閉じた。
「はあ、勉強しないと時間がない」
僕は数学の勉強を再開した。
お昼になって、ご飯のパスタを食べた。
さらに、英語の勉強に身を任せた。
この日はよく勉強できた。
次の日も勉強の意義を見出した。
ケータイも特に鳴らず、普段の日曜日を過ごした。