117 生徒会の仕事3
次の日。
7時。
僕は学校に登校していた。
(体力がなさすぎて7時ギリギリだ)
「私を校門の前に立たせて待たせるなんて親切だね?」
防寒対策をしているモンは僕を捕まえると嫌味を言ってきた。
「そっちが好きで立ってるだけだろ?」
「それだけ騒ぐ元気があるのなら、もっと早く集合にするか?」
「7時にしてください、すみませんでした」
僕が謝ると、モンは何も言わずに僕の後ろにまわる。
「何をしてるんだよ?」
「逃さないようにしてる」
モンは手をコートの中に入れている。
雪でも降りそうに空は曇っている。
僕らの周りには誰もいない。
「逃げないから、普通にしてくれ」
「さっさと歩け、このロバ!」
「はいはい」
僕は今日も馬車馬のようにこき使われるんだと悟った。
「おっはよー! たー君にモン君」
「会長! おはようございます」
「おはようございます」
僕も小声で挨拶する。
「たー君、明日、家にいろよ、いいことがあるから」
「え?」
「さて、皆ポンプの作業は支障をきたしてないから、うちわ作りでもしようぜ」
「いいんですか?」
「俺等がいると逆に回し辛いだろ」
「そうですかね」
「そうなの! だから来て頂戴」
拓哉は強気な様子で、先を急いでいる。
◇
生徒会室に着くと、3年生が5人来ていた。やたらバサバサうるさいと思ったら、机の上に赤、黃、青のうちわが置かれていく。5人は速すぎて手がたくさん見えるように、うちわに画用紙を糊で貼り付けている。
「俺と2人は箱の中へ整理してくれ」
「「はい」」
僕らは赤、黃、青のうちわを分けていった。
「去年はこんな事しなかったのにな」
「少し黙ってください」
モンは僕に言った。
「んー、モン君、塩!」
「持久走大会にしか使わないんですよね? 僕らの頑張る意味」
「来年の体育祭でも、卒業アルバムにものせるよ」
拓哉は僕に注目する。
「集めるんですか?」
「帰りにねー、これはあんまり広めないでほしいんだが、名前と何組になりたいかをこっそり書いておくと、そのクラスになれるぞ、ある程度の人数を超える場合のみ、クラスの人はバラけるけど」
「葉阿戸に言っておこ」
「来年また、蟻音と同じクラスですかー」
モンは煩わしそうにしている。
「僕だって嫌だよ、こうなったら葉阿戸に……」
「葉阿戸様は理不尽なことをしません。ゆえに私らは同じクラスになるでしょう」
「2人共、口じゃなく、手を動かして」
「「はい」」
僕らは作業を10分くらいかけて終わらせた。
「200枚、大変だったぜ」
「じゃあ、解散で」
「「「おー!」」」
全員は各々ゆくところに消えていった。
僕は勉強するために、モンは荷物を置くために、教室に帰っていった。
「「「たい、モン君、おはよう」」」
「おはよー皆」
「おはようございます、皆様」
モンは相変わらずの態度で僕を一睨みして教室外に出ていった。
「お前、モン君になにかしたのか?」
「気になることはしてないけど。会長に気に入られて調子に乗ってんだろうと思われてるんだろ」
僕は言うなり、ズボンとトランクスを脱いだ。椅子に座るとうんこをだす。
ぶりぶり。
「汚えなあ」
「ウンコマンだ!」
満と竹刀が僕を槍玉に挙げる。
「お前もこないだうんこしてただろ」
「今日はしてませんー」
「これから腹痛になったらどうするんだ?」
「それは……」
「ボッキマン、どう思う?」
「いや別に? いちが今日もかわいいなと思っているよ」
「うちを巻き揉むのやめて」
いちの返答に満足したのか皆、席につく。
僕は消臭スプレーを便器にかけた。
「うーん、フローラル」
「いや、誤魔化されないぞ。臭いからな!」
満が遠くで騒ぐ。
モンや純や結が教室に入ってきた。
その5分後、チャイムが鳴った。
キンコンカンコーン。
がらら
「おはようー、来週の火曜日は持久走大会ー。優関椎先生のご褒美のために頑張れー。はいーそれではトランクスとズボンを持って来いー」
橋本は僕ら後方の足の拘束を解くとともに、便器内の水を流した。そして、衣類を集めて出ていった。
「ご褒美なんだろう?」
「どうせ、3人の前でうんことかだろ」
「やめろよ、一部の男子が興奮するだろ」
「いや、うんこはない。恥ずかしすぎるだろ」
「じゃあ、性感帯マッサージとか?」
「ありだな」
「ふむ」
僕と純と結が話し合っているとドアが開いた。
数学の先生が入ってきた。
「喋ってないで、号令!」
「深呼吸、礼!」
「「「お願いします」」」
僕らは数学の授業を始め、4時間の授業を集中して受けた。
◇
昼休み。
「トランクスを返すー」と橋本は袋を渡して、ズボンが残った袋を抱えて帰っていった。
僕はポンプ作業を手伝うことになった。
「ウッホウッホ!」
「たー君ゴリラだ」
全く話していなかった春斗に笑われた。
「ウッホ! 僕ゴリラエモン、宜しくウホ」
「「「はははは」」」
「皆、蟻音の事は無視してください」
「モン君、しけたこと言うなよ」
「せーのっ」
「「「ウッホ、ウッホ」」」
「これは、また、なんということだ」
モンは僕の隣でブツブツと呟いている。
「「「モン君もご一緒に? ウッホホホホ!」」」
『会長、大変です、皆がゴリラに!』
モンは回る木の棒を押すのをやめて、拓哉に電話をかけている。
『作業効率が良くなる? それはそうですが……あ、ちょっと』
電話が一方的に切られたようだ。
「モン君もご一緒に?」
「分かりましたよ、……う、うほ」
「「「皆でやれば恥ずかしくない、さあ」」」
「ウッホ、ウッホ」
「ウホウホ!」
モンは大声で続ける。
「ウッホ! ウッホ!」
「モン君……。何やってんの?」
拓哉の引いている声が聞こえてくる。
見ると、拓哉がいつの間にかこの部屋に来ていた。
「会長! いつの間に!? これはその……」
モンはモゴモゴと酸っぱいものでも食べているようだ。
「あ、蟻音が元凶です!」
「ゴリラのマネしていたのに何言ってるんすか? モン君」
「くっそ! やられた!」
「ちょっとモン君と話があるから、猫林さん、後始末宜しく」
「はいよ!」
「待ってくださいよ、会長ーー!」
モンは叫びながら外へ行く。
「次期会長の座が奪い合いになりそうだね」
「たー君、ナイス!」
「僕は別に大したことは」
ピピピッ!
『終わりだよ』
天井からタイマーの音と、音声が聞こえてくる。
皆が解散している中、僕は何となく思うことがある。
(葉阿戸の寝起きの声みたいだな)
「この音声って?」
「日余葉阿戸さんの録音の声だよ」
「やっぱり。どうなってるんだ?」
「上の方に電子時計があってな、音声が時間で流れてくるんじゃぞ」
「そっか。でも、一昨年は葉阿戸は中学生だったはず」
「その頃はタイマーの音だけだったんじゃが、会長が日余さんの事をモンから聞いて、いい声してるって言うんで録音させてもらったんじゃて。行った行った、長話は腰にくる」
猫林は浮かせていた腰をパイプ椅子にかけた。
「ありがとうございました」
僕は部屋から出て、教室に向かった。教室では動物園のように、あちこちが騒がしい。対称的にモンはしょんぼりした顔で下を見つめている。
「モン、平気?」と僕は声を掛ける。
「はあ、わざと不貞腐れてるって、見ればわかるだろ。しばらく私に話しかけないでくれ」
「たい、モン君に何をしたの?」
「言うなよ、蟻音」
「だそうです」
「モン君……」
葉阿戸は心配そうにモンを見やった。
キンコンカンコーン
がらら。
「トランクスを回収ー」
橋本の言うことを僕らは聞いた。
そして、号令で授業を始めた。
「深呼吸、礼!」
「「「お願いします」」」
皆、世界史探求の授業は眠たくて疲れているようだった。
キンコンカンコーン。
なんとか1時間凌いだ。
本日、ラストを飾るのは、生物、または科学だった。
橋本は科学組にトランクスを返して、教室からいなくなった。
科学組が出ていった。
キンコンカンコーン
土橋はチャイムがなるやいなや、教室に現れた。
「号令ー」
「深呼吸、礼!」
「「「お願いします」」」
虫食い問題のプリントを僕らは解く。
ブリリ。
誰かがうんこをしたが、僕は気にすることはなかった。
そうして授業が終わった。
終礼をして、放課後になった。
放課後。
「今日は行きたくないな」
何があったのか、モンまで浮足立っている。
「副会長だろ、ちゃんとしろよ」
「蟻音が原因だろうが!」
「たい、何したの?」
「何でもありません、気にしないでください。よし、覚悟はいいか? 私はできてる」
「生徒会室に行くだけだろ。それともあの作業をするのか?」
「あれをしよう! 葉阿戸様方、ではまた」
「じゃあな」
「「「またね」」」
僕らはこの階のポンプ室に向かった。
コンコンコン。
ウィイイン
ポンプ室に入るとすぐに壁は降ろされた。
4人が僕らを来るのを待っていた。
「さあ、始めよう」
「「「せーの!」」」
木の棒の上からガタゴトと音がなる。
しばらくすると無音になった。
15分間の運動は僕にはきつくて、汗は止まらなかった。
「はあはあ、まだか?」
「まだ5分しかたってませんよ? 働き蟻のように蟻音は働きなさい」
モンは涼しい顔で僕らを見ている。
僕は気絶しそうになるまで必死に働き続けた。
ピピピッ
『終わりだよ!』
葉阿戸の癒やしの声が聞こえてきた。
皆は止まって、汗を拭く。
「いやー辛いな」
「「「慣れれば楽になるよ?」」」
「そりゃそうだけど」
「皆、生徒会室に行きましょう」
「「「はーい」」」
皆は猫林にお辞儀して出ていく。
僕もお辞儀をして、生徒会室に向かった。
生徒会では看板を作ったり、コースが書かれた紙を印刷したり、忙しかった。
「さて、今日は19時まで居れる人?」
拓哉の言葉にモンが自分の手を上げながら、僕の腕を上に上げる。
10人くらいが居残って作業をした。
結局僕も19時までのコースになった。
看板を3つ作ってコース場所の注意喚起をした。
帰る頃には日が落ちて、暗かった。